ミラノサローネ2011 レポート 3 /カネカ
「yozakura」

幻想的な空間が広がる。撮影/下川大輔 (Nacasa & Partners)

満開の夜桜の宴のイメージである。闇の中にポッと灯りがともり、それが1つずつ次第に増えて夜空を一気に鮮やかに彩る。あるいは、どこからかつむじ風でも吹いたかのように、桜の枝が一斉にゆれて——。これらはすべて室内の天井からつり下げられた2,500枚の有機EL照明(OLED)パネルによって表現されたインスタレーションである。

メインフロア。2,500枚のOLEDパネルが無限に反射する。撮影/下川大輔 (Nacasa & Partners)

太陽光発電モジュールなどを開発する化学メーカーのカネカは、今年初めてミラノサローネに出展した。3月に世界で初めて照明用の有機ELパネルを白・赤・橙・青・緑の5色展開で販売すると発表し、それをアピールする場として世界最大のデザインの祭典を選んだ。

ペンダントタイプのOLED照明。紙のシェードをかぶせている。撮影/下川大輔 (Nacasa & Partners)

会場デザインはトラフ建築設計事務所。「日本の酒場をイメージした」と鈴野浩一氏は語る。会場奥の壁に鏡を張り、フロアに置かれた漆黒の円形テーブルの上には、それぞれ高さを変えて大きな起伏を持ったOLEDが天井を覆っている。鏡と黒テーブルの反射効果で、上下左右無限にOLEDの光が続いていくイメージを実現させた。OLEDの光はやわらかく、発熱温度も高くないため、人間身体の近いところに設置できるというメリットがある。「目線の高さでパネルを見てもらいたかった」と話すとおり、むきだしの薄くて軽いパネルが目の前で揺れるが邪魔にならない。

OLEDパネルの薄さと軽さを生かした展示。撮影/下川大輔 (Nacasa & Partners)

また別の展示室ではペンダントタイプに仕上げたOLEDパネルを展示していた。トラフは、OLEDパネルの外側に厚手のトレーシングペーパーを水で濡らしながら曲げて成形した小さなシェードをかぶせた。内側のOLEDのやわらかい光源が透過して空中でぼんやりと光る。こちらも、赤と緑のOLEDが静かに明滅する2分半のプログラムとなっている。照明器具というよりは、新しいアートやエンターテインメントのような感覚かもしれない。

受付。カウンターを鉢に見立て、盆栽のように見えてくる。撮影/下川大輔 (Nacasa & Partners)

これらの照明プログラムは照明デザイナーの岡安泉氏が手がけた。DMXと呼ばれる、舞台照明などで使われる通信規格でOLEDパネル一枚一枚の光をコントロールする。「OELDはまだ不安定なデバイスだが、すごく可能性が高い。薄くて軽い平面のパネルでないと表現できないことがあると分かった」と取り組んだ感想を述べた。

エントランスののれん。グラフィックは日本のデザインユニット、ワビサビ(工藤“ワビ”良平/中西“サビ”一志)が手がけた。

特別に舞台裏をのぞかせてもらったところ、おびただしい数のケーブル類で一部屋が埋まっているような状況であった。当然、一般家庭向けの実用化という意味では価格などの課題は多い。カネカでは、当面はホテル、レストランなどの「デザイン照明分野」を開拓していくということだ。(文/今村玲子)

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今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらまで。