国際見本市
「LIVING & DESIGN」ガイド(その1)

「LIVING & DESIGN」展で総合プロデューサーを務めるデザイナーの喜多俊之さん。Photos by Shinya Murata 

「LIVING & DESIGN」展で総合プロデューサーを務めるデザイナーの喜多俊之さん。Photos by Shinya Murata

9月16日から18日までの3日間、大阪国際見本市委員会(現在は解散)が主催する「LIVING & DESIGN」展が、大阪・南港のインテックス大阪で開催されます。

会場には、インテリアを彩るさまざまな要素(アイテム)およびそれらを組み合わせた空間プランが並び、住環境関連企業が集積するこの地から世界に向けて、新たなリビング需要の創出を目指しています。見本市の見どころや開催の意義などについて、総合プロデューサーを務めるデザイナーの喜多俊之さんに聞きました。

――今なぜ、「創造的な暮らしを提案する」と銘打った見本市の開催を目指すのでしょうか?

 私自身、伝統工芸産業の活性化に向けた取り組みを40年近くやってきましたが、国産家具も含めて、そのマーケットはすっかり小さくなっています。その理由を考えると、どうしても日本の住宅事情の問題に行き当たってしまうんです。日本は戦後豊かになったと言われてきましたが、暮らしのベースとなる住環境については、同じ敗戦国であるイタリアやドイツ、さらに隣国の韓国や中国といった国々と比較しても見劣りしてしまうのが現状です。これらの国では、住宅のスタンダードな広さは120平米。対して日本は70平米ほどしかなく、しかも、その狭い空間にさまざまなモノが詰め込まれている。住宅が“納戸化”してしまっているんです。日常生活における余裕がすっかり薄らいでいると感じています。

――そうした状況の打開を目指して、今回の「LIVING & DESIGN」展に総合プロデューサーとして関わられているわけですね。

 私は1969年よりミラノで暮らし始めたのですが、ちょうどその時期にイタリアは住宅政策の大きな転換期を迎えていました。国が主導するかたちで、住宅スペースの拡張が積極的に行われ、この動きに呼応して、皆がこぞって自宅を新築し、そしてリノベーションしたんです。カッシーナやフロスなどのメーカーが大きく成長していくのもちょうどこのタイミングでしたし、システムキッチンや収納家具も大流行する。そうして、家が広くなった結果、自宅に知人などを招いてホームパーティーを開くという習慣が一気に開花しました。

――リノベーションやリフォームといった動きが、インテリア業界の活性化に繋がっていったということですか。

 そうです。ヨーロッパの人々にとって家具は、服と一緒。だから彼らは自らが楽しみ、そして他者を喜ばせるために、知恵を絞って、空間をめいっぱいオシャレに演出します。費用をそれほどかけなくても、センスさえあれば空間を今以上に楽しめることを身をもって知っている。イタリアがトータルインテリアや家具デザインの分野で先進国であるのは、そうした人々の磨かれた日常の暮らしへの感覚によるところが大きいのではないでしょうか。

ポスターを手に、見本市の内容を説明する喜多俊之さん。

ポスターを手に、見本市の内容を説明する喜多俊之さん。

――見本市のテーマである、“すまいのリノベーション”には、自身が遭遇したイタリアでの体験を、日本でも呼び起こそうという思いがあると。

 やはり、住環境を整えて、人を家に招き入れるような習慣がこの国でも育ってほしいという思いが強くありますね。家というのは、まず家族、そして外からの来客もあるといったかけがえのない空間です。当然、コミュニケーションにおいて風通しの良い存在でなくてはなりません。技術やお金はあるのに暮らしは貧相という状況が改善されなければ、この国では今後、クオリティの高い発展はあり得ないという危機感があります。感性やデザインがいくらもてはやされたとしても、それらは“種”です。その種を、実や花に変えるには、“暮らし”という豊かな土壌が不可欠なんです。それがやせ細ってしまっていては、真の意味のデザインや生活文化、経済産業の発展はないと思っています。

――“実や花”というたとえは、住空間に関連した産業全体を指しているのでしょうか?

 日常のデザイン、文化、そして経済産業と同時に、次の世代を担う子供たちの感性を育むという意味もあるんです。生活というものがどういうことかを知らずに育ってしまっては、国際競争下で持ちこたえられる感性は養われないでしょうから。

――見本市の見所について教えてください。

 商品を並べただけの見本市ではなく、モノとアイデアが交錯するクロスオーバーの見本市と言えるでしょうね。外国からの出展や、安藤忠雄さん、内藤 廣さん、イタリアからアントニオ・チッテリオさんを招いてのトークイベントも行います。すぐにでも実践できそうなリノベーションプランの提案なども展示予定です。さらに、メーカーと大学が共同で行った産学のアイデアを紹介するブースを設けるなど、見所満載です。加えて、全国の木工家具職人の仕事を紹介するブースも用意できればと思っているんです。別注で何かをつくりたいといったときに、面識があれば即依頼が可能ですから。その出会がつくれればいい。

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――会期中は主会場(インテック大阪)以外でも、デザイン関連のイベントがさまざま行われるとうかがいました。

 市内に点在するインテリアショップなどに呼びかけていて、各ショップも協力的にイベントの準備をしてくれています。最初なので規模的には比較になりませんが、街中でさまざまなイベントが催される構図は、ミラノのフォーリサローネと一緒です。
 また、外国からのお客様も含め、せっかく遠いところからはるばる来てくださるわけですから、この機会にインテリア産業全体を盛り上げていくような動きがとれないかと大阪市にも相談したところ、市も大阪を芸術やデザインの街にしたいといった意向があり、協同して取り組んでいただけることになっています。

――最後に、「LIVING & DESIGN」展への期待を。

 誰もがちょっとした工夫で、今よりも楽しく心豊かな暮らしができるという、気づきを誘発する場になってほしい。そうなれば、内需も拡大し、私がライフワークとして取り組んできた日本のかけがえのない遺産である伝統産業も、いっそう活性化されるでしょう。例えば、家の玄関は狭いけれど照明や鏡の配置を工夫することで、広く感じられるような空間ができるとわかれば、関連産業の活気も増すでしょうし。当初は不況下での開催を疑問視する声もありましたが、幸い多くの企業やクリエイターの賛同を得ることができました。今は、5,000平米の会場スペースが足りなくならなければと心配しているほどです(笑)。

喜多俊之/1942年11月5日生まれ。1969年よりプロダクトデザイナーとして、イタリアをはじめ、国際的に活動を展開。家具や家電、ロボットなど分野を超え、多くのヒット商品を生み出す一方、大阪芸術大学教授として、若い才能の育成にも尽力。ライフワークとして、日本の伝統工芸に取り組むほか、地場産業を活性化にも精力的に関わり続けている。近書に、伝統工芸の再生への取り組みを記した『地場産業+デザイン』(学芸出版)がある。

「LIVING & DESIGN」すまいのリノベーション TOTAL INTERIOR

会期:2009年9月16日(水)~18日(金) 10:00~17:00(最終日は16:00まで)

主催社団法人大阪国際見本市委員会