陸前高田まちのリビングプロジェクト
「りくカフェ」


1月10日、岩手県陸前高田市に仮設の「りくカフェ」がオープンした。約10坪の木造平屋建。シンボリックな家型が印象的で、木のぬくもりが感じられるこの施設は、地元住民の発意によって生まれ、彼らが主体となって運営するコミュニティカフェである。


ホッと一息つけるような場

先の震災で甚大な被害を受けた陸前高田市は、現在も多くの住民が仮設住宅での暮らしを余儀なくされている。地域の人々が気軽に集い、コーヒーや手づくりケーキを楽しみながらホッと一息つける場所、その思いを具現化したのが「りくカフェ」である。オープンから約1カ月経ち、1日に25~30人が訪れる。特に宣伝をしていなかったことから、地元では“噂のカフェ”として口コミが広がり、今や遠方からも人がやって来るそうだ。


みんなの集まれる、リビングのような場がほしい

「りくカフェ」は、震災直後に住民を中心として「まちにリビングのようなコミュニティ空間をつくろう」と始まったプロジェクト。まちづくりのノウハウや建築設計に関しては大学の専門家や建築家らがサポートしており、民間企業が資材提供などの支援を行っている。

プロジェクトのきっかけはこうだ。2011年5月、東京大学大学院の小泉秀樹准教授(都市工学)が同市周辺で支援活動のための調査にあたっていた。そのとき、以前から知り合いだった同市在住の吉田和子さんを訪ね話を聞いたのが始まりだった。

▲赤いエプロン姿の女性が吉田和子さん(りくカフェのオープニングで)

この頃、大きな被害を免れた吉田さんの自宅は、周辺にある仮設住宅向けの支援物資の供給拠点として使われていた。歯科医院を経営する吉田さん自身も「地域のために役立ちたい」という思いから、近隣の開業医である鵜浦淳子さんらと協力し、スーパーや文房具店、書店などに声をかけ、鵜浦さん宅の敷地内に“仮設の商店街”をいち早く立ち上げていた。

小泉准教授は、住民主導の地域活動が進んでいることに感銘を受けたという。「しかもコミュニティの中心に病院があることが重要なポイント」と説明する。「高齢者との接点を持つ病院やクリニックは、今後まちづくりの担い手として大きな役割を果たすことが期待されている。ここではすでにそれが実践されつつある」。

▲鵜浦さんの敷地内に形成された仮設の商店街

そうしたなか、小泉准教授は吉田さんや鵜浦さんたちから、「今後、これらの仮設を本設(恒久建築物のこと)に移行していくのを手伝ってくれないか」と頼まれる。なかでも「みんなが気軽に集まって話ができる“リビング”のような場がほしい」ということが、地域の切実なニーズだった。近隣に住んでいた人同士が、異なる仮設住宅に入居すれば、会うことは難しくなる。仮設住宅には集会室もあるが、よその入居者が使うわけにはいかないというのである。

震災前のコミュニティの再生と、コミュニティ空間の必要性を感じた小泉准教授は、「本設のコミュニティ施設“まちのリビング”を計画しながら、まずは敷地内に仮設のカフェをつくってはどうか」と提案。「仮設を運営しながら小さなプロジェクトで力をつけていき、本設ができたらスッと移行する。僕らはこれを小さな復興のモデルと考え、仮設だけでなく本設に向けたお手伝いもすることにしたのです」(小泉准教授)。


コンパクトながら使い方は自由な空間

住民と小泉准教授の間で「まちのリビング」プロジェクトの構想が進んでいた頃、建築家の成瀬友梨さん(東京大学 助教)と猪熊 純さん(首都大学東京 助教)は、独自に復興支援の可能性を探っていた。「企業のできる支援策として義援金の提供だけでなく、もっと被災者の目の前でカタチになり、企業にとってもよりメリットのある方法はないかと考えていました。企業が継続的に支援できるような空間の提案を練っていたのです」(成瀬さん)。そして、大手住宅メーカーの住友林業に提案書を見せたところ、賛同してもらうことができた。

その後、小泉准教授と成瀬助教が情報を共有。「一緒にやろう」と話が進み、敷地における仮設カフェの配置プランニングと仮設カフェの設計を成瀬さんと猪熊さんが担当、住友林業が構造材など一式を提供することになった。住友林業は他社にも声をかけ、旭化成建材やダイキン工業など10社近くから部材や施工の協力を得ていった。

成瀬さんと猪熊さんは住民と一緒に配置を考えたり、屋根の色を検討するミニワークショップを行うなど、議論を重ねながら設計を進めていったという。

▲各施設の配置図。仮設店舗で営業しながら、同じ敷地内で徐々に本設へ移行していく計画だ

「りくカフェ」は35平米(約10坪)ほどのコンパクトなワンルーム。住民の要望で、外からの入りやすさを重視し、大きなガラス窓からは内部の様子がよく見える。カフェ内はオープンキッチンで、料理のつくり手が常に席を見渡し、客と対話することができる。「最初は限られた空間を有効利用するためにキッチンを壁につけようとしましたが、それではつくり手がお客さんに背中を向けてしまうことになる。向かい合って話をしたり、キッチンに立つ人が気軽に交替できるような空間にしたいと思いました」(猪熊さん)。

▲室内全体を見渡せるオープンキッチン

板張りの土間部分にはテーブルと椅子を置き、40cmほど高い小上がりには靴を脱いで座れるなど、空間に起伏を設けることでコンパクトながらもさまざまな使い方が可能だ。「仮設住宅の集会室の標準プランを見ると、キッチン、広間、和室などに仕切っているものが多いのですが、ここでは敷地が狭いこともあり、みんなが顔を合わせられるよう1つの部屋にすべての機能がまとまっているほうがよいと考えました」(猪熊さん)。竣工後、土間に販売コーナーを設けたり、小上がりをステージにしてライブを行ったりと、利用者が工夫して高低差を活用しているという。

▲土間にはテーブルを設置。当初土間部分は土足を想定していたが、完成後誰からともなく靴を脱ぐようになり、靴箱を設けることに


地域の活動拠点として再出発するために

現在、仮設カフェのある敷地内では本設の病院と歯科医院、薬局が建設中だ。それらが完成する8月以降には、仮設カフェの営業は続けながら、本設としての「まちのリビング」の工事がスタートし、2012年12月には竣工する予定である。

目下の課題は、その資金。仮設のときは企業の協力を得ることができたが、本設では全面的な支援は難しい。そのため住民と小泉准教授らは助成金の可能性や事業の収益性について検討を重ねている。小泉准教授の構想によると、今後建設予定の「まちのリビング」では、人が集まるカフェを中心に、医療や介護の機能、コミュニティを再生する機能、音楽会などのエンターテインメント機能を備えた地域の活動拠点となることを目指す。「とはいえあくまで担い手は住民。現地の人の声を聞きながら、その人たちの姿がきちんと見えるようなかたちをつくっていくための手伝いがしたいのです」(小泉准教授)。

建築については、「皆さんが仮設カフェをうまく使っているので、本設の“まちのリビング”も基本的には仮設の延長線上にあるものになるでしょう」と猪熊さん。そのうえで、「仮設カフェが1つの“試運転”になっている。これから1年かけてさまざまな意見が出てくるはずなので、それらを拾い上げながら住民にとってぴったりの建築を設計したい。それが仮設でスタートする意義だと思います」と言う。成瀬さんも「このプロジェクトには全員が楽しみながら参加している。このように空間が活性化する機会に関わることができ、私たちも建築家として勉強になっています。今後も地元の人にとって無理のないかたちを模索し、継続的に応援していけるような施設をつくっていければ」と抱負を語る。

▲天井高が高く、開放的な空間


住民の情熱こそが復興の“芽”

住民にとって、専門家や建築家、企業とのやりとりから生まれた居心地のよい空間は復興の象徴のようなものだ。まちづくりと建築を両輪で進める意義について、小泉准教授は次のように説明する。「すぐれた空間やデザインは、考えていることを前に進めるために必要です。ものができることでプロジェクトが動いていることが誰にでもわかる。空間自体がプロジェクトの推進力になっていると感じます」。

仮設カフェの盛況で、行政もプロジェクトに関心を示し始めているという。住民主導で専門家と民間企業がサポートする今回のような事例を今後各地で展開していく可能性はあるのか。小泉准教授は「このプロジェクトを1つのコミュニティ再生のパイロット事業とし、プログラムづくりを進めていく考えもある」としならも、「今回も住民の熱意がなければ成功しなかったでしょう」と話す。「あらゆる復興において住民のやる気が最も大切な“芽”であり、それがないところに上からいくら水を与えても何も育たない。別の場所で展開するとしても、やりたい人をいかに見つけて支援していくかが重要です」と力説する。

▲オープニングパーティより

確かに驚かされるのは、自分たちでコミュニティの場を求め、自らつくり上げていく吉田さんや鵜浦さんら住民の意欲と発意の強さである。現地で運営のサポートにあたっている、小泉研究室の大学院生である大宮透さんによると「プロジェクトはかなりスムーズに進んでいる」とのこと。「とにかく現地の方がやる気に溢れて元気なのです。住民の方が“これをやりたい、あれが面白い”とどんどん意見を出してくれるので、こちらはその声を受け止めて言語化・視覚化していけばいい。今のところ全く苦労がありません」(大宮さん)。

仮設カフェのオープニングパーティでは、明るくアクティブな“マダム”たちが協力企業の担当者を腕を奮ってもてなし、「仮設ではありがとうございました。本設もぜひお願いします!」と笑顔で訴える場面もあった。担当者はおそらく照れながらも嬉しかったに違いない。また、そのような楽しいやりとりや雰囲気を見ているうちに、地元デザイナーや経営コンサルタントからも「手伝いたい」と協力の申し出が相次いでいる。住民、企業や専門家といったそれぞれの立場を超えて、コミュニティ再生に向ける思いを共有し、協力しあえたということ。まさにそれこそが最大の成功体験とはいえないだろうか。今後の本設移行に向けた展開にも注目していきたい。(文/今村玲子)

▲左から、猪熊 純(首都大学東京 助教)、小泉秀樹(東京大学 准教授)、成瀬友梨(東京大学 助教)、大宮 透(東京大学大学院)


プロジェクト名:陸前高田まちのリビングプロジェクト

現地メンバー(プロジェクトの主体):
鵜浦淳子、及川恵里子、黄川田尚子、吉田和子
鵜浦 章 (鵜浦医院 代表)
黄川田信一(森の前薬局 代表)
吉田正紀(吉田歯科医院 代表)

専門的支援メンバー:
小泉秀樹(東京大学 准教授)
成瀬友梨(東京大学 助教)
猪熊 純(首都大学東京 助教)
後藤智香子(UDCK ディレクター)
阿礼めぐみ(成瀬・猪熊建築設計事務所)
似内遼一、松田悠暉、 大宮 透、的場 弾(東京大学大学院)
藤井和哉、福島紘子(首都大学東京大学院)

協力企業代表:
住友林業株式会社(木部材供給および施工全般)

主たる期間:2011年5月~

活動内容:
もっとも大きな津波被害を受けた陸前高田市の住民による発意で、仮設住宅に暮らす人がホッと一息つけるような「まちのリビング」として仮設のカフェを計画。東京大学大学院の小泉秀樹准教授(都市工学専攻)と、建築家の成瀬友梨さん(東京大学 助教)・猪熊 純さん(首都大学 助教)、後藤智香子さん(UDCKディレクター)、東大・首都大の都市計画・まちづくり・建築の専門家と学生、住友林業をはじめとする企業の支援によって2012月1月9日にオープン。カフェの運営は住民が行っている。

規模:延床面積34.78 ㎡(10.52 坪)平屋建て
構造:木造軸組構法
所在地:岩手県陸前高田市

活動のポイント:
・住民による発意によって始まり、常に主体が住民であること
・民間企業、専門家(大学)、地域住民が協働で取り組む
・施設を製品ショーケースにするなど、企業が支援しやすい方法を模索していること
・仮設での実験的運用から本設建築への段階的移行を目指す

現在進行中の課題:
・来年の本設への移行にむけてプロジェクトは継続中
・資金確保や収益性、助成金などについての検討
・本設施設の設計に向けた調査など

ウェブサイト:
陸前高田まちのリビングプロジェクト http://rikucafe.com/
活動ブログ http://blog.livedoor.jp/riku_cafe/
陸前高田まちのリビングプロジェクト(facebook