国立科学博物館 特別展
「元素のふしぎ」レポート

地球上で最も多い元素は? 答えは「鉄」である。

近年、周期表のカードゲームや元素関連の図鑑や書籍が相次いで出版されるなど、中高生を中心に空前の「元素」ブームだそうだ。そんななか開催されている本展について、企画を担当した理工学研究部理化学グループ長の若林文高さんは、「元素についてたくさんの文字情報が出ているが、実際のものを見る機会は少ない。できるだけ実物を展示することで元素に興味を持ってもらいたい」と話す。

▲ 会場の冒頭で、超新星爆発によって元素が生まれたことが紹介され、宇宙や地球などの惑星、自然や私たちの身体もまた元素によってできていることが示される

▲ 約90年前のアメリカの周期表(山形大学蔵)。元素とは物質をつくる基本要素であり、古代ギリシア時代から「世界は元素でできている」という考え方が唱えられてきた。その後も研究は進み、19世紀から20世紀初頭にかけて「周期表」が確立された

会場では、118種類の元素すべてについて性質や用途などを紹介し、放射性のため実物展示が難しいもの以外は純粋な単体およびその元素を含む製品を展示。各元素は周期表に沿って並んでおり、会場全体が大きな“元素図鑑”になっているようなイメージだ。

▲ 宝石の元素を紹介するコーナー。さまざまな宝石の性質は元素の種類と割合、原子の並び方に関係している

水素や炭素、アルミニウムといった誰もが身近に感じる元素のほか、コンピュータの半導体や太陽電池に使われるケイ素(シリコン)、液晶ディスプレイに使われるインジウムなど、あまり聞いたことのない元素まで、それぞれ特性を生かした用途が紹介されている。化学に詳しくない人でも「これに使われていたのか」と日常生活にリンクしやすく、楽しみながら見ていくことができる構成だ。

▲ 99.999999999%の超高純度シリコン単結晶。ガラスの主成分であるケイ素(シリコン)は温度が上がると電気抵抗が減るため、その結晶は半導体としてコンピュータなどに使われる。高分子のシリコン樹脂とは異なる

▲ ケイ素を含む製品

ストロンチウム(蛍光灯の蓄光剤や花火に使われる)やジルコニウム(セラミック包丁や人工の大腿骨の骨頭に使われる)といった聞き慣れない元素も、使用されている製品を聞けばグッと身近に感じられるかもしれない。

▲ ストロンチウムを含む製品

▲ ジルコニウムを含む製品

会場には手で触れられる展示もいくつかある。元素体重計は、来場者が台の上に乗ると身体を構成する主要な元素の重さが示されるもの。また金、銀、銅、アルミのかたまりを持ち上げて重さを比べたり、金属の音を鳴らして聞き比べるなど、体感的に元素の違いを知ることもできる。

▲ 「身体は元素でできている」ことを実感する、元素体重計

▲ 金属の重さを持ち比べられる展示

展示の終盤では、周期表の第六周期、希土類(レアアース)が並ぶ。携帯電話などのハイテク機器や自動車の駆動モーター、LEDなどに欠かすことのできない素材の成分となるが、周知のとおり確保は難しい。「消費が増える一方で、希少な資源として有効に使うことが求められている。ここではそうした考え方を紹介した」と若林さん。

ちなみにレアメタルとは「地球上の存在量が稀であるか、技術的・経済的な理由で抽出が困難な金属のうち、現在工業用需要があり、今後も需要があるものと、今後の技術革新に伴い新たな工業用需要が予測されるもの」(経済産業省)。そのなかにレアアース17種類が含まれている。

▲ レアアースとレアメタルの展示

会場入り口で配布される周期表を手にしながら、実生活と密接につながっている元素の世界を楽しんでみてはいかがだろうか。会場を出る頃には「世界は元素でできている」と実感。身近なものの見方も変わるかもしれない。(文・写真/今村玲子)


特別展「元素のふしぎ」

期 間:2012年7月21日(土)〜 10月8日(月祝)

会 場:国立科学博物館

休 館:毎月曜(月曜が祝日の場合は火曜)
    ただし、7月30日、8月6日、8月13日、8月20日、8月27日、10月1日は開館

入場料:一般・大学生1,300円(1,100円) 小・中・高校生500円(400円)
    前売り・団体券(カッコ表示)、金曜限定ペア得ナイト券、水曜限定レディース券などあり



今村玲子/アート・デザインライター。出版社を経て2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。趣味はギャラリー巡り。自身のブログはこちらへ