弁護士からみたデジタルファブリケーション時代
「情報と物質の間をデザインする」

はじめまして。FabLab Japan NetworkFab Commonsというプロジェクトを担当している弁護士の水野 祐です。ようやく「FabLabとはなにか?」について、なんとなくわかりかけてきていた読者の方でも、弁護士がFabLab?と疑問に思われるかもしれません。Fab Commonsは、ものづくりに関する法的課題や仕組みづくり、オープンデザインにおけるライセンスがどのようにあるべきかを検討するFabLab内のプロジェクトです。そうです、FabLabは「(ほぼ)なんでもつくる」コミュニティとして、ものづくりをする作者とユーザーとの間の契約(ライセンス)や取り巻く環境もデザインしようとしているのです。

もう少し具体的に説明します。私はクリエイティブ・コモンズ・ジャパン(CC)にも所属していて、主にCCライセンスに関するリーガル面を担当しています。CCライセンスは、主に情報コンテンツを前提としたライセンスですが、CCライセンスが世界中のさまざまな分野に広がるなかで、それがハードウェアやプロダクトのような物質にもそのまま適合するのか、という疑問を持つのは自然の成り行きでした。

情報である設計図、写真、CGなどと、そこから生まれる物質としてのプロダクトとの間にはまだハードルがあります。設計図をプロダクトに落とし込む過程には、材質・縮尺の相違など予測不可能な間違いが混入し、完全な再現は難しい状況があります。つまり、オープンソースとして設計図が共有されていても、それに基づいてプロダクトを制作する段階で、作者によってそれぞれ少し違ったものができ上がってしまうのです。ただし、われわれFab Commonsは、このような情報と物質との間に横たわる再現不可能性をネガティブなものと捉えるのではなく、新しい創造のきっかけとしてポジティブに捉えるべきではないかと考えています。そして、この部分にこそ、パーソナルファブリケーション時代における最適なものづくり環境のヒントがあるのではないかと考えています。

Fab Commonsは、昨年、京都市立芸術大学での「共創のかたち」展、無印良品アトリエ・ムジでの「家具のかたがみ」展という2つの展示に、このようなものづくりの法的環境に関する問題意識を投げかける作品を出品しました。「bit(情報)とatom(物質)のあわい(間)をデザインするFab Commonsの今後の活動にもご期待いただけたら幸いです。(文/水野 祐、 Fab Commons, FabLab Japan)

この連載はFabLab Japanのメンバーの皆さんに、リレー方式で、FabLabとその周辺の話題についてレポートしていただきます。