第4回
「CPSと共生デザイン」

Photo/ Copenhagen Media Center, photographer Tuala Hjarnø

「共生(ともいき)デザイン」の重要性を説明するために、現在進展しつつある技術・社会トレンドについて簡単に触れてみたいと思う。読者の皆さんは、AXIS、jiku、インターネット、各種メディアを通じて、日々技術による社会変化の早さを実感されているのではないだろうか? 毎日の様に新しい技術の紹介やスマートフォンとSNSなどの動向が報道されている。変化は加速しており、もし3年間無人島に住んでいたならば確実に浦島太郎になるだろうと容易に想像出来る。

メディアは断片的な情報しか紹介しないので、こうした技術や社会変化の行き着く先について予測するのは難しいが、これから10年間の変化を前提に考えるならば、重要な技術としてモバイル、ソーシャル、クラウド、ビッグデータ、センサー技術、M2M(マシン・ツー・マシン)、組込み技術、人間とコンピュータの相互関係などが挙げられると思う。そして、これら個別技術が社会システムとして統合された場合の1つの形態(アプローチ)としてCPS(サイバー・フィジカル・システム、日本ではIT融合とも紹介されている)がある。CPSとは実社会に普及した組込みシステムなどが構成するセンサーネットワークなどの情報を、サイバー空間の強力なコンピューティング能力と接続し、高効率で高度な社会を実現するためのシステムのことである。

実は既存の航空管制システム、ITS(高度道路交通システム)などもCPSの形態の1つである。そして、CPSの特徴としてデータ、デジタル、ネットワーク、効率化、標準化、制御、監視などがあり、今後10年でCPSはIT技術と連動しすべての社会システムに導入が進むものと予測されている。あまりピンと来ないと思うが、イメージとしてはコンピュータにより自動化された社会システムが、エネルギーや交通システムの様な基盤インフラに留まらず、農業、医療、福祉、教育など私たちの身近な社会システムに広く展開されるというものだ。

こうしてみると、CPSは私たちの社会をより便利に、そして豊かにしてくれるので何か問題でもあるのか?との疑問を持たれると思う。確かに一面では効率的で便利な社会が実現するのだが、筆者はCPSで議論されていないものとして、まさしく共生デザインの概念でもある自然、人々が相互関係を通じて共生し、物質面だけでなく人間としての精神面も向上させるアプローチがあると思う。具体的な要素としては、個性、文化風土、歴史、自然、精神文化などがある。こうした側面が議論されないままCPSが展開された場合、果たして本当に豊かな社会システムを構築出来るのかと懐疑的になる。意外なことにデンマークではCPSとしては議論されていないが、さまざまな社会インフラとコンピュータシステムのIT融合が進展しつつある。そして、日本や他国で議論されていない共生(ともいき)デザイン的なアプローチ、環境との共生、グリーン成長、国民の幸福、福祉といった要素がきちんと含まれているのである。(文/中島健祐、デンマーク大使館 投資部門 部門長)

中島健祐/通信会社、コンサルティング会社を経てデンマーク大使館インベスト・イン・デンマークに参画。従来までのビジネスマッチングを中心とした投資支援から、プロジェクトベースによるコンサルティング支援、特にイノベーションを軸にした顧客の事業戦略、成長戦略、市場参入戦略等を支援する活動を展開している。デンマーク大使館のホームページはこちら