【インタビュー】三輪モーターサイクルの雄
「日本市場に参入した理由」

北米を中心に市場が広がっている三輪モーターサイクル。身体全身で風を感じることができる爽快感と、威風堂々とした安定走行を一度に楽しめる乗り物として、近年日本でもその走りを待望する声が少なくありません。そんななか、同市場において高いプレゼンスを誇るカナダのBRP(ボンバルディア・レクリエーショナル・プロダクツ)社が日本市場に「Can-Am スパイダー ロードスター」を投入することを発表。11月より、正規販売ディーラー13店舗を通じて販売がスタートします。

BRP社といえば、世界でも水上バイクやスノーモービルでトップシェアを持つメーカー。1942年に設立され、世界105カ国に販売網を持つ、カナダきってのグローバルカンパニーとして知られています。モーター サイクルでもコンバーチブルスポーツカーでもない、新感覚の乗り物といわれるスパイダー ロードスターの発売を機に、日本でも同社の存在感の高まりがいっそう期待されることでしょう。

今回発売となるのは、ツーリングモデルの「スパイダー RT」です。前二輪・後一輪からなる独自のY-アーキテクチャーを採用し、上から見て三角形のプロポーションを持つトライク(前一輪・後二輪)とは逆構造となっているのが特徴です。同社でデザイン&開発を統括するデニス・ラポアント副社長は、このY-アーキテクチャーこそBRP社のデザイン理念を示すものだといいます。

▲三輪で路面をしっかりホールドし、安定かつ安心感のある乗り心地を可能とするBRP社独自のY-アーキテクチャー。

ケベック大学モントリオール校でデザイン学士号を取得した後、1985年にBRP社に入社以来、一貫してデザイン開発に携わってきたラポアント氏は、「3つの柱」という言葉でもって同社のデザインの特性を解説。「われわれは常に高度なイノベーターでありたいと考えています。課題を解決するだけの進化ではなく、デザインや技術面において常に革新的なものを目指すハイイノベーションを指向する。それが最初のポイントです。さらに、機能性に優れ、感情に強く訴えるような感動の提供も重要」と続けます。

▲「一度乗ったら、その乗り心地の虜になる」といわれるスパイダーRT。パワートレインには新開発の1330cc直列3気筒エンジンと6速トランスミッションを組み合わせています。2014年モデルでは燃費性能も大幅に向上。1回の燃料補給で約400kmの連続走行が可能に。価格は標準モデルのスパイダーRTが198万4500円、電子式リアエアコントロールサスペンションなどを備えたスパイダーRT-Sが267万7500円、最上級モデルのスパイダーRTリミテッドが290万8500円。

外観では他のオンロード車のどれにも属さないユニークな個性を有し、独自の構造は走行時における高い安定性と制御性をドライバーに約束します。そして、新しいライディング体験によるかつてない”WOW” の提供と、これらすべての出発点が、Yアーキテクチャーにあることに疑問の余地はありません。

スパイダー RTの魅力はそれだけに止まりません。その圧倒的な存在感ゆえに、並走していてもクルマのドライバーの視界から消え去ることがほとんどないという点です。ラポアント氏は、「二輪のように視界から外れてしまうことがないので、前を走行するクルマを追い越そうとする際に、スパイダーの操縦者はひじょうに安心感を抱きながらクルマを追い抜くことができます。二輪の持つ爽快感と四輪の安定感が、一般に語られる三輪の論理的なメリットとするならば、3つ目の有利点として走行時の安心感が挙げられるでしょう」と説明します。

他にも、ボッシュとの共同開発によるアンチロックブレーキ、トラクションコントロール、スタビリティコントロールを統合したビークル・スタビリティー・システム(VSS)を備えるなど、これまで以上に高い安定走行を実現。新開発のECOモードスマートアシストシステムの搭載によって燃費性能も向上させるなど、日本市場への期待を強く伺わせる仕様になっています。仕様詳細、試乗会の日程や予約方法についてはBRPジャパンのホームページより確認できます。

以下は、デニス・ラポアント副社長との一問一答です。

――2007年に一般公道を走行する乗り物として三輪モーターサイクル市場に参入した背景を教えてください。

 開発プロジェクトがスタートしたのは1996年です。当時のBRP社のプロダクトポートフォリオを見ると、水上、雪上、オフロードを走る乗り物は完備されていましたが、大きなピースが1つ欠けていると感じていました。それが一般公道用の車両です。そこで私たちがこの分野に参入するならどのような乗り物がよいかをかなり長い時間をかけて検討しました。二輪ではすでに1世紀以上の歴史を持つメーカーが存在し、しかも市場は飽和状態。一方で、北米の統計データを見ると二輪を所有する層は人口の5%程度にすぎないことがわかりました。ならば、未開拓の95%の層にアプローチし、自らの手で新しいマーケットを創造できないか? これまで培ってきたパワースポーツヴィークルのノウハウを生かした新たな車両とは? そのことを自問自答するなかで、三輪の乗り物の可能性を見出したのです。

――改めて伺います。三輪モーターサイクル、すなわちCan-Am スパイダー ロードスターの魅力とは?

 二輪の爽快感と四輪の安定感に加え、安心して走行できる点がまず挙げられます。また、今までになかったアーキテクチャーを採用することで、ユニークなプロポーションを実現し、技術革新的な雰囲気をまとうことにつなげている点も大きな訴求ポイントではないでしょうか。運転面についていえば、自分の向かいたい方向にステアリングを切るだけでいいので、二輪と違って直感的に乗り物を操れるというメリットがあります。スパイダーでは、カーブをしたければステアリングの操作だけで簡単に曲がることができます。

▲デザイン&開発を統括するデニス・ラポアント副社長。ラポアント氏の父もボンバルディア(BRPは同社のレジャー製品部門が独立するかたちで現在に至る)で設計デザインに従事。親子二代にわたりボンバルディアの製品デザインに関わってきたといいます。

――そうした操作感覚は、水上スキーやスノーモービルで培ったノウハウを踏襲している?

 そうです。これは私たちがライダーアクティブと呼ぶDNA的な発想です。行きたい方向にステアリングを切るだけでいいという。

――デザインについて、決まりごとはありますか。

 私たちのプロダクト全般について言えるのですが、フロントフェイスの造形には表情が不可欠だと考えています。人間のような顔つきをしたものもあれば、動物の表情を想起させるものもあるように、車両の性格によって見せ方は違ってきます。荒野を駆け抜けるようなセグメントの車両ならば、荒々しい大地を滑走する動物の表情を起点にフロントビューのデザインを展開します。今回のスパイダー RTの場合は、お気づきかもしれませんが、ジャガーの顔つきをスターティングポイントとしてデザインを発展させていきました。パワフルで俊敏な足回りという車両のイメージにピッタリと考えています。

――三輪モーターサイクルの市場には、ヤマハをはじめ参入を狙っているメーカーも多いと聞きます。競争を勝ち抜く策は?

 競争は大歓迎です。競争が激しければ激しいほど、このカテゴリーに対する世間の注目は増しますし、車両が市民権を得た証になるからです。そのうえで、私たちはこの市場のトップランナーとして勝ち抜く自信を持っています。スパイダーを製品化するまでの間、さらに製品化してから今日まで、常に試行錯誤を続けてきた。ドライバーの意見をキャッチアップし、課題も把握しています。市場を理解することで、次に何が求められているかを正確に描くことができるのです。これから数年後に出てくるであろう次世代スパイダーの構造についてもすでに十分イメージができており、常に他社の先を行っているという自負は今後も揺らぎません。

――次世代モデルでもYアーキテクチャーは踏襲されるのでしょうか。

 遠い将来のことにはなかなか答えづらいのですが、Yアーキテクチャーは私たちの技術的な大きな特徴なので、ドライバーの求めがあるかぎりこれを使い続けていきます。もちろん、それ以外のさまざまな選択肢の存在も否定しません。今のアーキテクチャーに統合できる新たなイノベーションがあれば、どんどん展開していきたい。(インタビュー・文/編集部・上條昌宏)

▲1996年にスタートしたスパイダー ロードスターの開発では、デザインスタジオのメンバーらによって膨大な数のスケッチが描かれました。あらゆる可能性を検討したうえでBRP社初のオンロード車が世に出たのは、それから10年超後の2007年。

Can-Am スパイダー RT
全長×全幅×全高:2,667×1,572×1,510mm
ホイールベース:1,714mm
シート高:772mm
最低地上高:115mm
乾燥重量:459kg
収納スペース:155リットル
燃料タンク:26リットル
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