「デザインのあしもと~Design of the infrastructure」第1回レポート

去る9月20日、東京・六本木のアクシスビル地下1階シンポジアで開催された、街と生活のデザインを考える勉強会「デザインのあしもと~Design of the infrastructure」その第1回の模様を主催者である4FRAMES・御代田和弘さんにレポートしていただきます。

僕がAXISで5年間続けた連載「モラルの土木」「東京土木LIFE」では、日々の生活であまり意識しない街の中の小さな問題を掘り起こし、問題提起を行なってきた。実は、連載の中では解決方法を記述することをあえて避けていたが、それは街や生活に関わるすべてのデザイナーにこのことに気づいてもらい、誰かが解決の糸口を見つけてほしい、と考えていたからだ。僕が専門とする土木という分野は、日々の生活で意識をされることは多くないが、すべての人が利用し関わっている。だからこそ、多くの人がより満足できる生活を生み出すために、さまざまな分野の、特にデザインに携わる人たちが集まって議論をする場の必要性を常々感じていた。そして連載を終えた今、すべてのデザインが関わる街や生活をあしもとから見つめ直し、公共空間をつくるメーカー(舗装、照明、防護柵など)と、そこに関わるメーカー(車、自転車、ベビーカーなど)とが一堂に介し、 数十年先の生活の姿をインフラから考えることを目的に、勉強会「デザインのあしもと 〜Design of the infrastructure」を、2013年9月20日にスタートさせた。

湘南大橋の舗装。手前がコンクリートで奥がアスファルト。

第1回は「SURFACE〜人と道路の境界面」をテーマに、太平洋セメント(舗装)、ブリヂストン(タイヤ)、コンビ(ベビーカー)の3社を招き、それぞれの分野の技術、商品、デザインの考え方について話題提供を頂いた後、会場の参加者とともにディスカッションを実施した。行政をクライアントに持つ公共系のメーカーと一般消費者を対象とする民間系メーカーは、近いところにいながらも関わりを持つことはこれまでほとんどなかった。3社の考え方は、デザインアプローチも三者三様で、見つめる方向も少しずつ異なる。舗装は、公共性の視点から、ヒートアイランド現象やゲリラ豪雨、騒音などの環境への配慮を重視する。タイヤは、そのミニマムな形からデザインの対象が溝(トレッドパターン)に特化し、音、水はけといった快適性、安全性を重視している。その一方で、構造を変える新たなタイヤ開発も進んでいるという。そしてベビーカーは、乳幼児の安全性を第一に捉えつつ、軽量化、コンパクト化といった利便性への配慮に苦心していて、その肝と言えるのがタイヤなのだ。

コンビ 「ホワイトレーベル ディアクラッセ オート4キャス エッグショック FD-700」

環境問題に関しては舗装が負うところが大きいが、快適性・安全性については、共通の問題として衝撃・振動、騒音が挙げられる。この問題に最もデリケートなのが乳幼児を守るベビーカーだ。ベビーカーのタイヤは、軽量、コンパクト、メンテナンスなどを考慮し、エアレスの樹脂製タイヤを採用している。ゴムは重く、空気を入れるメンテナンスも面倒だというユーザー目線の発想だ。このデメリットとして衝撃性が挙げられるが、サスペンションの技術でカバーしている。ベビーカーの衝撃に大きな影響を与えているのが、舗装の目地、段差だ。こうした問題を、タイヤの新技術で軽量化、衝撃性の問題を解決し、舗装の新技術でバリアフリーのさらなる進化を促す、といったことも考えられる。

ブリヂストン「REGNO GR-XT」

また、舗装とタイヤの関係で言えば、音の扱いがポイントになる。現状では「音を抑える」ことに注力しているが、電気自動車の普及に伴い、エンジン音がしないことによる事故の問題も聞こえてくる。これについては、舗装が道路の規模に関わらず、画一的な整備が施されていることに問題を感じる。例えば、走行速度が速い幹線道路では騒音問題が大きく、低速度で走行する住宅地では安全性が優先される。ここで舗装の種類を使い分け、それぞれで音の出方が異なる舗装とタイヤの開発が行われれば、新しい生活環境が生まれるのでは無いだろうか。

クルマや自転車、ベビーカー、靴など、道路と接するプロダクトデザインと、それに応じた舗装のデザインは、相互に機能を補完させつつ、周辺環境に応じてその組み合わせを考えることで、今後のインフラデザインの可能性を広げることにつながると感じた。

デザインのあしもとは、今後も奇数月末の開催を基本に、来年7月まで継続する予定だ。次回のテーマは「RECONSTRUCTION〜歩道空間コンバージョン」。歩道の様々な施設と必要な機能を整理し、無駄の無い歩道空間へと再構築しようという試みだ。(文/御代田和弘)