vol.1 YKK AP & アトリエ・ワン
「WINDOWSCAPE」展

イタリアで開催されたミラノサローネ国際家具見本市の会期中、市内随所で開催された展示のなかから、気になったイベントのレポートを数回にわたってお伝えしたい。

「家具」の見本市であるミラノサローネにおいて、メインとなるのは企業による新作家具の発表だ。しかし、例年増えているのが、メーカーが建築家を起用して自社の世界観やビジョンを伝えるためのインスタレーション展示だ。窓について誰よりもよく知っていると自負する建材メーカーのYKK APはアトリエ・ワンとともに、窓の持つ魅力を伝える「WINDOWSCAPE」と題した展示をインテリア誌『INTERNI』が主催するグループ展「FEEDING NEW IDEAS FOR THE CITY」内で発表した(4月18日まで開催中)。

展示会場は、ルネサンス期の15世紀に建てられたミラノ大学の中庭。その中庭を囲む回廊の一角に、弧を描くかたちでアトリエ・ワンによる60もの窓を連ねたトンネルのような空間が立ち現れた。回廊のアーチをつなぐように設置されたインスタレーションは、外側から見ると白い壁にいくつもの窓が切り取られただけのように思える。しかし、なかに入ると、それぞれの窓に対してクリスタルガラスのカット面のように、あるいは庇のように、さまざまな角度で鏡板が配された空間が広がる。外の景色が鏡に乱反射して、まるで万華鏡のように、窓が無数に増幅して見えるという仕掛け。つまり壁がない。視覚的には窓だらけの空間だ。

これまで世界各地の窓を観察し、社会、文化によって異なる窓のあり様を「窓の振る舞い」と捉え、YKK APとともに独自の「窓学」として探求してきたアトリエ・ワンの塚本由晴。「窓は公と私、内と外のどちらにも接している域。だから人は窓を覗き込んでみたくなる。そんな窓だけでできた空間をつくったら、人はどのように振る舞うか見たかった」と塚本は言う。

「窓」という建築の内と外とをつなぐ一種の「メディア」が街や人を引き付ける。鏡面を通して増幅したり、反転する景色に目がクラクラしながらも、老若男女、ワンちゃんまでもが窓のなかを覗き込む姿があった。「FEEDING NEW IDEAS FOR THE CITY」のテーマにふさわしく、「WINDOWSCAPE」はミラノの街への新鮮な介入であり、窓の持つ可能性を探る機会となっていた。(文/長谷川香苗)