商品化への道のり
「東京ビジネスデザインアワード審査委員長・廣田尚子氏インタビュー 編」

東京ビジネスデザインアワードは、東京都の中小企業とデザイナーを結びつけ、新事業実現化を支援するためのコンペティションだ。スタート3年目にして、すでに商品化に至っている事例は、塗って剥がせる水性絵の具「マスキングカラー」、曲げパイプ技術を使った知育玩具「pipegram」 木地挽きと寄せ木の特殊技法を活かした食器ブランド「ひきよせ」、点字印刷をインテリアアイテムに展開した「Twinkle Piece」と4件ある。 このようにスピード感をもって企業の新しい基軸となる事業をデザインの視点から構築していく上で重要なことは何だろうか。今年の東京ビジネスデザインアワードのテーマも発表され、アワードに応募するデザイナーに期待すること、マッチングの狙いについて、審査委員長の廣田尚子氏に話を聞いた。

(上)2012年度(第1回)テーマ賞「マスキングカラー」太洋塗料株式会社(大田区)×小関隆一
(中上)2013年度(第2回)最優秀賞「pipegram」武州工業株式会社(青梅市)×小関隆一
(中下)2013年度(第2回)優秀賞「ひきよせ」株式会社ラ・ルース(渋谷区)×山田佳一朗
(下)2013年度(第2回)テーマ賞「Twinkle Piece」株式会社新興グランド社(北区)×MEDIUM

求めているのは事業計画全体の提案
東京ビジネスデザインアワードが求めているのは「製品のデザインではなく、用途の開発に始まり、それを新しい事業としてマネジメントしていくための事業計画全体の提案です」と廣田氏。製品のアイデアが生まれ、形が決まり、生産され、流通にのって消費者に届く。プロダクトのデザインはその流れの一部でしかない。デザイナーに期待されているのは、川上から川下まで、企業を一貫して導くことのできる舵取り役ということだろう。

大企業であれば商品企画からマーケティング、広報などが連携する内容にあたる。中小企業にとってはひとりのデザイナーによるトータルな関わりが最善だが、デザイナーが果たす役割の幅が広く、ジャンルをまたいだ能力とスキルが求められる。そこでデザイナー側はコンサルやグラフィック、プロダクト、プロモーションなど多様なメンバーによるチームでこのアワードに参加して、より大きな成果を出す新しい仕事のしかたにも積極的にトライして欲しい。

チームを編成していく力
「デザイナーがビジネスメイキングのキーパーソンになるためには、職人を含め、さまざまな部署の人たちの才能をつないでチームを編成していく力が必要になると考えています」と廣田氏は強調する。企業と新事業の立ち上げを進めていくと、業務の役割分担やデザイン契約の交渉など、目に見えないコミュニケーション力が必要とされる場面が多いことも忘れてはならないと言う。

アワードも過去2回を経て、普段は製品のデザインを行っているデザイナーからも製品づくりのトータルなディレクションへの提案が増えているそうで、アワードの成果を実感している様子。「応募してくる企業の技術力の高さに毎年驚かされます。こんなこともできるんじゃないだろうか、と審査委員同士で議論が白熱するくらいです。そんな企業の技術を最大限まで使い切るような用途開発、ビジネスプランの提案を待っています」と今年の提案に期待を込める。今年のデザイン提案募集期間は8月5日から10月16日まで。(文/長谷川香苗)

廣田尚子/プロダクトデザイナー 、有限会社ヒロタデザインスタジオ代表 。東京芸術大学デザイン科卒業後、GKプランニングアンドデザインを経てヒロタデザインスタジオ設立。プロジェクトマネジメントの視点からデザイン開発を行い、企業の持つ技術や素材の魅力を引き出して拡げる仕事を日用品のデザインを中心に幅広く展開。中小企業との協働も多く、さまざまな地域でデザイン導入の心構えやプロセスについての講演やアドバイスを行う。女子美術大学芸術学部デザイン学科教授。グッドデザイン賞審査委員。
Photo by Osamu Kurihara

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