変化するソニー・クリエイティブセンター
コミュニケーション領域でイニシアチブを発揮する

最終回では、ウェブサイト「Sony Design」のリニューアルについて、さらには変化し続けるクリエイティブセンターの役割や位置づけについて話を聞いた。

インタビュー・文/廣川淳哉

写真(ポートレート)/五十嵐絢也


ソニーがコミュニケーションに力を入れるワケ?


——ウェブサイト「Sony Design」をリニューアルしたのはなぜでしょうか?

池田 恵:Sony Designのウェブサイトには、プロダクトデザインやプロジェクトの背景、意図を発信することで、ユーザーの感性価値をいっそう高め、感動体験をサポートするという狙いがあります。より多くの方に向けて発信し関心を持っていただけるよう、サイト全体のデザインからコンテンツの内容までを一新しました。デザインが生まれるまでのストーリーを紹介するコンテンツでいちばん多く読まれているのは「Xperia Z1」や「SSTフォント」の記事ですね。

▲ Sony Designのウェブサイト。左が、Design Projectsの中にあるSSTフォントのページ。右が、Feature Designの中にある「Xperia Z1」のページ


池田:Feature Designの新しい記事を公開すると同時に、ソニーのコーポレートウェブサイトのトップページにバナーを貼っています。ほかにも、製品紹介のウェブサイトやキャンペーンサイトからもリンクを貼ったり、Facebookでも紹介するなど、なるべく多くの方に見てもらおうと考えています。

▲ 辻 哲郎(クリエイティブセンター スタジオ1 デザイナー)


——どんな人に読んでもらいたいですか?

辻 哲郎:リニューアルする以前は、デザイン業界にいる人々やデザインを勉強している人々に読まれることを前提としたコンテンツでしたが、2013年6月にリニューアルした際に、読者の間口をもっと広げようと考えました。

具体的には、以前はテキストもたっぷりあって、デザインのストーリーを長々と説明していましたが、リニューアル以後、専門的な言葉を使わず、簡潔にわかりやすくビジュアルで説明するように心がけています。読者の目に届くように写真を大きく、プロダクトデザインの美しい部分をしっかりと見せ、Sony Designの考え方を表現しています。

市川和男:もはやデザイナーだけがデザイン感度が高いということではなく、一般の人のデザインに対する感度がひじょうに高くなっています。Sony Designのウェブサイトでも、製品の隣に試作やスケッチを並べれば、言葉で説明しなくても「ああ、こう考えてデザインしたんだな」とか「ああ、これが原型なんだな」と理解してもらえます。言葉で長々と語るよりは、もっと直感的に、もっと感性的に、ビジュアルで伝えるメディアにしていきたいと考えています。 読者をデザイナーに限定するのではなく、一般のデザインコンシャスな層に伝わるような、広く興味を持ってもらえる内容にしていきたいですね。

▲ Feature Designの「2014 BRAVIA」のページ。左が、BRAVIAと居住空間との調和を示したシチュエーションカット。右は、BRAVIAのデザインコンセプトの変遷を描いたスケッチ


——クリエイティブセンターでは、デザイン以外を手がけることもあるのでしょうか?

池田: 開発系のプロジェクトもありますね。最近だと「Smart Tennis Sensor」が製品化されました。これは、もともと、音解析技術を使ってラケットの「弦」からくる振動を読み取り、スイングを視覚化できるのではないか、というエンジニアの発想が始まりです。社内で技術発表の機会があった際に、このアイデアを見たクリエイティブセンターのメンバーが、開発に加わりました。

▲ 2014年5月に発売した「Smart Tennis Sensor」。ラケットに取り付けると、プレイ中にプレイヤーのショットを分析。プレイ内容を可視化し、テニスの上達につなげられる


福原寛重:サイズを小さくしたほうがいいとか、センサーをどこに取り付けるべきか。また、それこそどんなコミュニケーションをしていくかといった内容を、開発の初期段階から議論しました。

池田:スマートフォンに表示するUIなども、部門内外のテニス愛好者に実際に使ってもらって意見を聞いて、試作をつくりながら進めました。アイデアは具現化しないと伝わりにくいので、デザイナーの描くイメージなどが、開発スタッフの意識共有に役立ちます。新しいカテゴリーの製品開発には、クリエイティブセンターが初期段階から関わっていることが多いです。


——そもそも、ソニーではなぜ、クリエイティブセンターという名称を使うのでしょうか?

池田:1997年にクリエイティブセンターという呼び方になりました。その頃は、プロダクトデザインだけでなく、R&Dやリサーチにも本格的に取り組み始めた時期です。その後、新規ビジネスの提案にも踏み込むなど、一般的なデザイン領域を超えて業務内容が広がってきました。

私もデザイナーではないのですが、クリエイティブセンター内には、会社の方向性を考えてプロジェクトを推進したり、どうやってデザインを会社の活動に結びつけるかを考えるチームもあります。インターフェースなどUIのデザイナーにも、ビジュアルデザインの担当者とインタラクションデザインの担当者います。

福原:私が入社したときにはまだデザインセンターという名称で、入社から半年後くらいにクリエイティブセンターになりました。その後、クリエイティブセンター内に開発チームができたり、もともとはノンデザイナーの人も増えていきましたね。

例えば最近では、音にシンクロして光るという、中南米をメインターゲットにしたオーディオ「SHAKE-7」を担当したデザイナーはもともとエンジニアで、クリエイティブセンターに異動してきました。彼は自分でプログラミングを手がけ、 商品化を決定する前のプレゼンテーションの段階から、エンジニアリングとデザインをミックスした提案をしています。

▲ 中南米向けのオーディオ「SHAKE-7」(左)と「MHC-GPX88」(右)。音に連動した光の演出が特徴


市川:多様な人材を抱え、プロダクトデザインだけでなく製品開発にさまざまなかたちで参加するクリエイティブセンターがコミュニケーション領域に関わるのは、有効かつ効率的だと思います。製品開発から参加するなど、製品の本質を理解していなければ、表面的なコミュニケーションになりかねません。製品やサービスが多様化し、さまざまなカテゴリーがあるなかで、感性価値を高めるためには一貫したコミュニケーションが必要です。製品の本質を伝えるために、クリエイティブセンターが率先して取り組むべきだと思います。(終わり)

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