第2回
「IPCC ISUZU PEDALCAR CHAMPIONSHIP 2014」

はじめまして、いすゞ自動車 デザインセンターの中島栄二です。ふだんはデザインCADによるデータ作成を担当しています。ペダルカープロジェクトではAチームのシャシ設計を担当しました。前回は、社内で行ってきたプロジェクト「ワーキンググループ」の取り組みと、約18カ月におよぶペダルカープロジェクトについて紹介しましたが、今回は去る2014年11月末に開催された白熱のレースイベントの模様をお伝えします。

初めてのレースイベント
会場は、いすゞ自動車藤沢工場内にある「いすゞプレミアムクラブ藤沢」。ふだんは省燃費・安全運転講習会など、お客様向けの各種セミナーを開催している施設ですが、今回はその一部を利用してレースイベントを開催しました。

自分たちでペダルカーをつくるのも初めてでしたが、レースを企画するのも初めて。たった1日のレースイベントを成功させるため、約7カ月前からレース運営委員会をつくり、会場選定やコースレイアウトの設計、レース形式、表彰台やシャンパン(会社内のため炭酸水です)まで、レース運営に関わるすべての準備をしました。

レース当日は早朝から会場入りし、参加者全員で会場の設営やコースづくりを行いました。コースの白線にはガムテープを使用し、コーナー部分の内側には紙の筒を半分に割ってカラーテープを貼った「手づくり縁石」を並べていきます。はじめは勝手がわからなくても「多少の歪みはご愛嬌」とわかれば、作業もはかどります。入念な事前準備のかいもあり、手づくりながら雰囲気満点の特設レース場が完成しました。車両の搬入も無事終わり、ピットにはデザインセンターと試作部による計6台の車両とともに、チームの衣装に身を包んだ参加者も勢揃い。会場は緊張した空気に包まれていきました。

たまらない高揚感と一体感
本戦前の練習走行では、ゆっくりとコースを回って走行感覚をつかみ、徐々にスピードを上げ車両の限界性能を確認。1周135m、7つのコーナーから成るコースを周回して感じたことは「とにかく楽しい」、しかし「スタミナが必要」ということ。参加者たちは次々と交代して自分たちのつくった車両で走ると、次第に高揚感とともに自然と声が出ます。しかし、走り始めて1分を超えたあたりからは一転、ペダルは鉛を付けたように重くなり、喜びの表情は徐々に消えていくのでした。時間とともにかなりの体力を消耗することもわかり、「3分間の本戦レースは簡単ではない」ことを実感したのです。

車両の乗り心地は、外観や乗車姿勢、シャシ構造などの違いから各チームさまざま。いずれの車両も最高速、旋回性、制動力のすべてにおいて申し分なく、堅牢なフレームのおかげで安定感のある走行ができました。大きな故障や事故による破損もなく、無事にレースを迎えられたことにほっと一安心です。

「絶対にコース上で抜いてみせる!」「でも飛ばし過ぎると体力が持たないぞぉ」。本戦レースに向けた作戦会議で自然と会話も弾みます。レギュレーションにより全車両の最高速は同等。コース上で相手に競り勝つには「仕掛けどころ」と果敢な追い抜きに必要な「スタミナ」が重要になります。単独走行で1周の最速タイムを競う予選を経て、いよいよ2台が同時に走行するトーナメント形式の本戦レースが始まりました。

気づきが満載のレース
「いいぞ、その調子だ!」「おー、ついに抜くぞー」。がむしゃらにペダルを漕ぎ続けるドライバーたちに、身を乗り出して声援を送る観客たち。スタートから仕掛けて相手を引き離したり、背後で様子をうかがいながら抜き去るチャンスをうかがっていたりと、駆け引きはさまざま。次々と繰り広げられる白熱のレースに観客席には歓声と拍手が飛び交い、まるでお祭り騒ぎです。

3分間のレースも終盤にかけて、ドライバーの疲労はピークに達しスピードが落ちます。「頑張れー、もうひと息でゴールだぞ!」。ムチを打つ声援がドライバーに届くと、ペダルカーは最後の力を振り絞るかのように再びスピード上げ、無事にチェッカーフラッグを受けました。会場からはドライバーたちの健闘を称える拍手が鳴り響きます。「仕掛けどころ」や「スタミナ」も重要ですが、いちばん大切なのは「皆で盛り上がる気持ち」なのかもしれません。

勝利を祝うシャンパンファイトに合わせて大きな歓声と拍手が湧き上がります。審査は「プレゼンテーション」「スタイリング」「レース」の3項目に分け、参加者全員が総合的に評価。総合優勝は、本格的なレーシングウェアで登場し、国産初の乗り合いバス「スミダM型」を忠実に再現した「コスミダ」を駆る「試作部チーム」が獲得。最後にデザインセンター部長が「着眼点の違う各車両を見て改めて勉強になった。みんな集まればいろいろなことができる。また面白いことが一緒にできたら」と締めくくりました。

今回のペダルカーレースにはさまざまな気づきが満載でした。自分たちでつくった車両を運転する爽快感やコースで競う面白さ、観戦する楽しさなどはもちろんですが、ワクワクする雰囲気やそれぞれの感情を共有したいという気持ちが、ひとりひとりの力を予想以上に引き出したことは確かなようでした。(文/いすゞ自動車 デザインセンター 中島栄二)

次回からは白熱のレースを繰り広げた6台の車両を紹介していきます。

前回までの記事はこちら