TOM DIXON SHOP、東京・青山にオープン

英国人デザイナー、トム・ディクソンのブランド初となる旗艦店が7月17日、東京・青山にオープンした。ロンドンのポートベロードックに2009年に誕生した店舗は、彼の家具に限定することなく他のブランドも扱うため、トム・ディクソンのオンリーショップとしては東京のショップが世界初となる。

▲ 照明シェード「Melt」シリーズ。シャボン玉のような型で成型したポリカーボネイトの表面に、金属膜を真空で蒸着。点灯時は内部が透けて見え、消灯時はほぼ鏡面状態となる。

▲「Melt」シリーズはクローム、ゴールド、銅の3種類を展開。


取り揃えるアイテムは家具、照明、テーブルウェア、ステーショナリーといったアクセサリーまで、サイズやカラーバリエーションを含めると600点にも及ぶ。

デザイナーの名を冠したブランドを事業として成立させ、成長させている数少ないデザイナーと言えるトム・ディクソン。一般に言う“正当な”デザイン教育を受けていないものの、ティーネイジャーの頃、陶芸の世界に触れ、「“土”からでも人の欲しがるものをつくることができるということに気がついた」ことで、ものづくりへの関心が芽生えたと言う。

とにかく手で触ってつくってみる性分のようで、自動車修理工場でのバイト中に金属溶接を覚えると、捨てられていた鉄パイプやゴムチューブ、クルマのハンドルを拾い集めて椅子らしきものをつくり、デザイン界の注目を集めた。“リサイクル”という概念がまだない時代に、廃材から新しい家具ができることを示した最初のデザイナーのひとりと言えるだろう。あまりに無骨な椅子ではあったが、これを目にしたカッペリーニ社が製品化をオファーし、1991年、もとのデザインが“整えられた”のを見て、「デザインの力を知った」とディクソンは振り返る。

ディクソンはデザインを工場生産へとつなげる大企業の力を評価しつつも、信念を持って提案したデザイナーの考えを最終的に製品化するか否かを決める主導権を企業が持つという家具業界の仕組みにはがゆさを感じていたと言う。

▲ 照明シェード「Lens」シリーズ。電球の光を効率よく集め、投光するためにポリカーボネイトのシェードにプリズムカットを施した。灯台や光学機器に使われるレンズの仕組みをインテリアの照明器具に応用。ペンダントのように吊っても、床に置いても自立する。

▲ 真鍮の照明と家具「Spun」シリーズ。真鍮板をスピニング加工で円盤状に仕上げ、まるで部品そのものをインテリア器具にしたようなデザイン。


そこでディクソンが選んだのは、デザイナー自らがブランドを持ち、つくりたいものを自分で決め、デザインしたものをつくってくれる企業をパートナーとして選び、販売経路も自身で決めるというものづくりのあり方。従来の家具づくりと異なるこの考え方を、ディクソンはファッションデザイナーが自らのブランドを持ち、素材選びから生産方法、リテールまでをディレクションするファッションのビジネスモデルと重ねる。

ディクソンは制作した家具や照明を着実な販売へつなげるために、インテリアデザイン事務所をパートナーとして迎えたことで、ホテルやマンションといった大規模なインテリアプロジェクトを担うことにもなった。ブランドとして家具や照明以外に、テーブルウェア、ルームフレグランスまで幅広く手がけているのは、こうしたプロジェクトがきっかけだろう。

昨今は日本でも企業のものづくりにおいて、企画段階からマーケティング、販路開拓にまで、外部デザイナーが主導するケースが少しずつ見られるようになった。それでもひとりのデザイナーが自身のブランドを立ち上げるとなると、それを事業として成立させるのはたやすいことではない。

トム・ディクソンがものづくりを始めた1980年代、英国にはデザインを形にしてくれるメーカーはわずかしかなかった。「だったら自分でつくってやるさ」と、多くのデザイナーは自らつくる“デザイナーメーカー”の道を選んだ。

それから約30年、生産を取り巻く環境は異なっても、ものづくりに対するディクソンの姿勢は変わっていない。そんなディクソンに憧れ、ある意味、うらやましく思うデザイナーも多いのだろう。東京の旗艦店オープンの祝福に駆けつけた日本のデザイン界の面々を見てそう感じた。(文/長谷川香苗)


TOM DIXON SHOP http://www.tomdixon.jp

▲TOM DIXON SHOP内観。場所は青山通り沿い、青山学院大学そば。営業時間は11:00〜19:00、水曜定休。