中村政人 個展
「明るい絶望」ーー社会やまちのなかに潜む創造性を読み解く

アーツ千代田3331で、アーティスト中村政人氏による個展「明るい絶望」が開催中だ。1989年から94年にかけて韓国と日本で撮影した写真約700点と最新のインスタレーションを展示している。

©Masato Nakamura 写真提供:3331 Arts Chiyoda(以下、写真すべて)


順路は、89年から3年滞在したソウルで撮影した一連の写真から始まる。当時の日本はバブル経済の絶頂期。大学院を卒業したばかりの中村氏は、自身のなかで日本人としてのアイデンティティが揺れていることに危機感を覚え、最も近いアジアである韓国へ飛び出した。ソウルではとにかく街の外に出た。「公共の断片に社会のディテールを見つけたとき、日本人である自分がそれにどう反応し、何を読み取るのか。他者の視点で意識的にものを見るトレーニングをしていた」(中村氏)。写真は、休戦中の軍事パレ―ドや市場、路上販売、広告や看板など、住人にとってはなにげない日常の1コマばかりだが、そこに潜む人間の作為と無作為、逞しくしなやかな創造性に氏の鋭い視線が注がれている。


▲ 中村氏が1989年から94年にかけてソウル、東京、大阪で撮影した約700点の写真が並ぶ展示室


帰国後に作家デビューした中村氏は、村上 隆氏や小山登美夫氏といった同時代のアーティストやキュレーター、批評家らとともに「中村と村上展」「ザ・ギンブラート」「新宿少年アート」など日本現代美術における伝説的なプロジェクトを次々と仕掛けていった。ここでも中村氏は常にカメラを構え、銀座や新宿の雑踏にゲリラ的に設置された作品やパフォーマンス、そして“渦が加速していく時代”の真っただ中で野心を漲らせていた若者の群像を、行為の中心に立ちつつ、やはりどこか他者的な視点で捉えている。

その後も中村氏は都内を中心にさまざまなアートプロジェクトを立ち上げた。最も大規模でかつ現在進行形の功績が、統括ディレクターとして千代田区の閉校をアートセンターに再生させた「アーツ千代田3331」が挙げられるだろう。今年5周年を迎えたこの施設は、海外からアーティストを招いたり、若手の発表の場としても機能し、また、3.11以降はアートを介して東北と東京をつなぐ拠点にもなっている。こうしたかたちのない活動においても中村氏は、社会やまちの動きのなかにあるさまざまな人の創造性を丁寧に拾い上げ、発信していこうという姿勢を貫いている。

今回発表された新作インスタレーションも、「90年代からアイデアを温めてきた」という同氏らしい作品だ。1つは自動車の鈑金と同じ工程で制作された、ボンネットのような金属パネルが空間を取り囲む「絵画作品」。ドローイングから粘土でモデルをつくり、切り出した鉄板にプレス加工を施し、実際にフェラーリやランボルギーニといったメーカーが発注する工場で塗装まで行っている。「モーターショーなど展示用につくられる特別なパーツは手作業で何度も磨きをかけて表面を滑らかにしている。自動車は工業製品でありながら、すべての工程において地道で繊細な作業が求められる手業の世界だ」と中村氏。色と形そして製造技術を抽出することによって、自動車という概念のある側面を切り出してみせる。

▲ 新作インスタレーションの展示室。ランボルギーニやフェラーリなどと同じ塗装を施したパネルが並ぶ

▲ TOYOTA LEXUS
Heat Blue Contrast Layering 8×1 2015 1,700×1,500mm 鉄、自動車用塗料


もう1つは、自身の故郷である秋田県の実家に置かれていた土産の民芸品を等身大にスケールアップしたもの。こちらも現存する製造技術を駆使してつくられている。旅先で目にしたことのある懐かしい人形たちは「人間を表している」と同氏。「時間の経過とともに隅に置かれ、場に溶け込んでいく人形の姿のなかに、むしろ純化され、力強く増していく存在感がある。赤瀬川原平さんが提唱した“老人力”に通じるような強さを宿すものとして呈示したいと思った」(中村氏)。

身近なモチーフを拡大化して見せるという手法は中村作品の十八番であるが、これも10cmに満たない小さな木彫りの人形が、重さ400kgの巨大な物体になると破壊的とも言える存在感で迫ってくる。制作にあたっては、現在も続いているこけし工房の職人やその紹介を通じて出会った和太鼓職人の協力を得て実現させた。アートを通じてこうした異業種や異なる領域をつないでいくことも、中村氏がずっと力を注いでいる活動の1つだ。

▲ 新作インスタレーションの展示室。フランス風人形や木彫り人形など、地域の土産物を等身大にスケールアップした

▲ 胡蝶 群馬 2015 1,810×1,170×750mm 欅、ウレタン塗料


「日本に帰国して作家デビューしたときから画廊や美術館、アートを取り巻く制度に対してずっと違和感を抱いてきた」と同氏。90年代前半に新宿や銀座などまちなかでゲリラ的に取り組んできたアートも、美術界に張り巡らされたさまざまな線引きはさておき「まず動いてみよう」という動機から始まった。社会や既存のシステムに対する違和感が、写真やインスタレーション、そして目には見えない地域との交流やイベントなど領域を超えた活動や作品となる。本展では、表現のかたちは違っても同氏の一貫したまなざしと姿勢を鮮明に伝えている。(文/今村玲子)



中村政人 個展「明るい絶望」
中村と村上展/ザ・ギンブラート/新宿少年アート/秋葉原TV/カンダダ/アーツ千代田 3331/トランスアーツトーキョー

会 期 2015年10月10日(土)~11月23日(月・祝)

開場時間 11:00-20:00 ※最終入場時間 19:30

休場日 会期中無休

会 場 3331 Arts Chiyoda 1F メインギャラリー
    〒101-0021東京都千代田区外神田6丁目11-14

詳 細 http://m.3331.jp/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。