生きているミュージアム
「NIFREL」がオープン1
「鑑賞」ではなく生き物同士が
「対面」する場所

11月19日、大阪・万博記念公園に大規模な商業施設「EXPOCITY」が開業し、その敷地内にミュージアム「NIFREL(ニフレル)」がオープンした。運営は大阪・天保山にある水族館「海遊館」で知られる株式会社海遊館。「感性にふれる」をコンセプトに、水族館や動物園の領域を超えてアートの要素を取り入れ、生き物や自然の魅力を直感的に伝える新感覚のミュージアムだ。

建築面積は約3,500㎡(約1,060坪)、延床面積は約7,200㎡(約2,180坪)の3階建て。メッシュ状に並ぶ窓が印象的な建築の設計施工は竹中工務店。鑑賞できるのは2フロアで、テーマごとに演出の異なる生体展示ゾーンと、順路の中盤とラストに設けられた映像インスタレーションおよびシアターによって構成されている。

「生きているミュージアム」を冠するニフレルの特徴は、動物園や水族館の概念を覆すような展示の数々だ。生き物は、魚類、爬虫類、両生類、鳥類、哺乳類約150種2,000点で、いわゆる生息環境による分類ではなく、「いろ」「わざ」「すがた」「みずべ」「うごき」というトピックによって分けられている。

例えば、エントランスを抜けてすぐの「いろにふれる」ゾーンでは、13台の円柱型水槽が並び、ルリスズメダイの青やシロボシアカモエビの赤といった色の美しさにフォーカス。水槽の周りにはカーテン状の照明が配され、空間全体が7色に変化しながら魚の色を際立たせている。

▲「いろにふれる」ゾーン

▲「いろにふれる」の展示室

▲ 水槽の蓋をなくしたことで水面のゆらぎなども美しく見える。「美しく見せる」こともニフレルの重要なテーマだ


続く「わざにふれる」ゾーンでは、テッポウウオが水を吹いて捕食するシーンを間近に見たり、カブトガニを水槽の下から覗くこともできる。サメやエイなど大型の魚を展示する水槽では、キュレーター(飼育員)が魚を呼び寄せて体に触れる様子を実演。これはショーではなく、魚の健康診断に必要な飼育技術で、海遊館が得意とするものだ。ほかにも餌やり、水槽の掃除といった水族館の裏方的な仕事も“展示”として見せていく。

▲「わざにふれる」ゾーン。覗き込めるような高さの大型水槽を配置する

▲ 大きなオオテンジクザメをトレーニングする様子も見られる

▲ 魚をさまざまな方向から見ることができる


水槽はすべて建築設計段階から並行してデザインされたもので、水面からも観察できるように蓋をなくして独立型にするなど、できるだけ生き物に“手が届きそうな”距離感を目指した。3つ目の「すがたにふれる」ゾーンは魚の形をはっきり見せるため、暗い空間に水槽が浮かんでいるような演出が印象的だ。ニフレル広報の西前綾子氏によると「水槽の下から照明を当てて、生き物の姿や形が浮かび上がるようにしています。光が屈折しないように底面のガラスの歪みを取り除くなど、何度もテストを繰り返して完成させた」とのことだ。

また、気になったのは解説パネル(種名板)などが水槽や壁面に掲示されていないこと。水槽の中を覗くと、透明の小さなプレートに魚の名称と特徴がなんと俳句調で記されている。「プカプカと空気の力で浮き沈み」(オウムガイ)。「ジンベエの鼻先泳ぐは護身術」(コガネシマアジ)。前代未聞の解説文だが不思議と頭にスッと入ってくる。すべてニフレル館長とキュレーターが考えて、俳人の夏井いつき氏が監修したそうだ。「海遊館を運営するなかで、細かい解説をつくってもなかなか読んでもらえないという反省があった」と西前氏。「ならば余分な情報を省いてできるだけシンプルにしよう。そして生き物を見て興味を持った人が各自で能動的に調べてもらえるようにしよう、という考え方でこのようなかたちになりました」。

▲ ユニークな俳句調の種名板

▲「つれあいは生涯ひとりいちずです」(フリソデエビ)。カップルにおすすめ

▲「すがたにふれる」ゾーン。1つ1つの水槽の展示や演出についても「いかに美しく、直感的に伝えるか」を重視した現場のアイデアが生かされている

▲ 砂から顔を出す姿が人気のチンアナゴも、透明なポリマーを敷くことで「潜っている部分」が見える


ニフレル=に触れる、の趣向は後半の2階フロアにも貫かれている。むしろクライマックスに向けて“触れられる度”がエスカレートしていく。「みずべにふれる」ゾーンは、あたかも“水のかたまり”を切り取ったようなケースが順路を取り囲むように配置され、イリエワニやミニカバ、ホワイトタイガーなどが展示されている。いずれも透明のアクリルやガラスによって仕切られているだけなので、生き物との境界をほとんど感じさせない。

▲「みずべにふれる」ゾーン。奥にカフェも併設されている

▲ カフェのオリジナル商品「食べる水」。同館のシンボル「水」をモチーフにした不思議な食感だ


最後の「うごきにふれる」ゾーンに至っては、入室した途端ワオキツネザルが足元をスタスタと通り過ぎていくので驚いた。ペリカンやフクロウもまさに“その辺に佇んでいる”といった様子で、もはやどちらが展示で鑑賞者なのかわからなくなってくる。キュレーターのひとりは「排泄物の始末を徹底します」と冗談混じりに話しながらも、「管理は大変ですが、来場者の皆さんが心から驚いたり喜んだりする姿を見られるのはキュレーターとしても嬉しい」と笑顔を見せた。

▲「うごきにふれる」ゾーンは、生き物が自由に動き回る生活エリア

▲ ご覧のとおり、小川が流れているだけで境界がない

▲ 振り返ると、自由なワオキツネザルがこちらを観察していた


水が育み、つないできた自然。擬似的にその環境を切り取って再現するのではなく、むしろ余分な情報や境界線をなくすことで、生身の生き物同士が対面するような場をつくり出したニフレル。来場者ひとりひとりが、ここにいる生き物と同じように、水に生きる者としての感覚を呼び覚ますような体験を通じて、自然と人間の関係ひいては地球や宇宙のなかにいる自分という存在について考えるきっかけとなるのではないか。同館が掲げる「感性にふれる」というコンセプトの真意はそこにあるのかもしれない。(文・写真/今村玲子)



NIFREL(ニフレル)

住 所:大阪府吹田市千里万博公園2-1 EXPOCITY内ニフレル

営業時間:10:00~20:00 
     ※最終入館は閉館の1時間前まで。季節により営業時間変更の可能性あり

休館日:年中無休 
    ※設備点検等で臨時休業の場合もあり

入場料:大人(16歳以上・高校生)1,900円、子ども(小・中学生)1,000円、
    幼児(3歳以上)600円

詳 細:http://www.nifrel.jp



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。