第10回
「面出 薫 + LPA 光の巡回展『Nightscape 2050 未来の街・光・人』」

照明デザイナーの面出 薫さん率いるライティング プランナーズ アソシエーツ(LPA) が2015年8月のドイツ・ベルリンを皮切りに展覧会「Nightscape2050 – 未来の街・光・人」を開催しています。ベルリンからシンガポール、香港、そして東京と世界4カ国を巡回。この10月〜11月にかけて開催されたシンガポール展をレポートします。

シンガポールの中心部にあるナショナルデザインセンター(NDC)の1階およびアトリウムが会場。3つのインスタレーションで、LPAの25年の活動と建国50周年を迎えるシンガポールの光の歩みの展示です。

照明デザイナーのインゴ・マウラー氏や建築家、伊東豊雄氏などのビデオメッセージ、そしてLPAによる光と照明の今と未来に関するさまざまなキーワードに基づいた動画が上映されているLighting Pavilion。

展覧会のテーマ「Nightscape」には、夜景という意味だけでなく、これからの世界の未来への想いが込められていると面出さんは言います。LEDとともに人工光の技術は飛躍的に進歩している現代、人々や街が健やかにあるために、自然光と人工光が共存していくことが大切。照明器具という形から発せられる光が、将来どんな状況のなかにあるのかという未来をこの展覧会ではポジティブに探求しています。

創立以来、国内外の700を超えるプロジェクトに関わってきたLPA。それはあらゆる角度から街の光を観察・調査するフィールードワーク「照明探偵団」にも及びます。常に光の環境を考え、社会に問いかける姿勢がそこにあります。

技術が進化し、太陽光とほとんど違わない光が将来できるという技術者の見解に対して、同じレベルでその可能性は望んでいないと面出さん。技術がひとり歩きすることなく、その技術が必要とされているかどうかを判断し、アレンジしていくことがデザイナーの役割なのだと語ります。

25年の活動の中で、何か意識の転換となるきっかけはあったのかと聞いてみました。すると、3.11 東日本大震災後だと。周知のように、震災前と震災後では照明や光を取り巻く状況は変わりました。やみくもに節電や消灯を余儀なくされることによって、「暗さの中に大切なものがある」ということを照明探偵団の活動でもしばしば議論されてきました。

面出薫+LPAの近著『LPA1990-2015 建築照明デザインの潮流』(六曜社)には、これまでLPAが手がけたプロジェクトが紹介されています。その1つ1つに、面出さんは問題意識を持ってコメントしています。目指している光のあり方が、時代の進化とともに変化したり、矛盾が生じても、思想とする「光=陰影をデザインする」を基本としていることが一貫して伝わってきます。

LPAが関わるプロジェクトは公共建築から商業施設まで幅広く、特にシンガポールでのプロジェクトは都市環境の開発に大きく関わるものがあり、そのレベルとクオリティには驚くものがあります。面出さんは、シンガポールは日本よりも意思決定が早いと言います。マスタープランが3年で実現まで進むこともあると。照明デザインの価値を国レベルで理解しているのでしょう。

今回の展覧会は、照明デザインの作品展やビジネスプレゼンテーションの場ではなく、光を取り巻く環境と状況をいろんなレベルで考えるプラットフォームとなっています。それは、面出さん直筆のメッセージにも表れています。

“ What do you think our nightscape will look like in the year 2050?
To put it in another way, how do you think it should be ? ”

Lighting Pavilionで上映されている動画には、世界各国の光の風景や地球規模から見た光の功罪、そして人と光との未来が描かれています。この動画を見た後、もう1度面出さんのメッセージを読むと心に響くものがありました。

次は2016年1月8日から香港で始まります。最終地の東京は、5月に月島 テンポラリーコンテンポラリーにて開催されます。(文/谷田宏江、ライティングエディター)

写真・取材協力 : 株式会社ライティング プランナーズ アソシエーツ
https://www.lighting.co.jp/

展覧会facebookページ
https://www.facebook.com/lpa.exhibition/

照明探偵団
http://shomei-tanteidan.org/