第5回 さて、今年の
「シンガポールデザインウィーク」は?

3月8日(火)〜20日(日)まで開かれる3回目を迎えたシンガポールデザインウィーク。今回は「“より大きく、よりよい”イベントになる」と、主催者であるデザインシンガポールカウンシルのエグゼクティブディレクター、ジェフリー・ホー氏は、2月18日に行われた記者会見で語った。

カウンシルのチェアマン、ロバート・トムリン氏も、「デザインウィークは、アジアのプレミアデザインイベントとしてますます存在感を増している」と自信をのぞかせる。

その自負の裏には、過日、ユネスコのクリエイティブシティーズ(創造都市)にシンガポールが認証されたこと、期間中、前年を上回る100を超えるイベントが予定されている自信に加え、建国50周年にあわせた昨年の“SG50”という祝祭的な行事を終え、気概も新たにデザイン都市国家としてのアイデンティティを推進していくという関連機関の強い意思が感じられる。

2014年、ナショナルデザインセンターの開館に合わせてスタートしたシンガポールデザインウィークは、骨幹となるナショナルデザインセンターでの展覧会やイベントとともに、シンガポールの若手デザイナーを中心とした作品やアクティビティを発表するSingaPlural、パリで開催されるデザイン見本市のアジア版MAISON & OBJET ASIA、そして家具の国際見本市International Furniture Fair Singaporeがパートナーイベントとして開かれる。

このような短期間に国内外のデザイン関係者が一堂に集まる機会をつくり出すだけではなく、一般や学生、家族連れなど多くの観衆がデザインに触れることのできるプログラムにも効果が表れてきている。

とはいえ、前回はそれぞれのイベントの開催場所が離れていたり、プログラムやワークショップの詳細が事前に十分に告知されなかったりすることで、内容を消化しきれずに終わってしまった、という声が聞かれた。

開催を間近に控え、そのあたりがいかに改善され、事前告知がどのように行われるのかが気になるところだが、今回のラインアップ、キーイベントを下記に紹介したい。


<デザインシンガポールカウンシル主催のイベント>
http://www.designsingapore.org

●イノベーション バイ デザイン カンファレンス
日時 3月15日(火)、16日(水)9:00〜17:00 
会場 ナショナルライブラリー内のドラマセンター(ナショナルデザインセンターの向かい)
入場 無料(登録制)

今回初めて開催されるイノベーションとクリエイティビティに関するカンファレンス。基調講演者として、良品計画の会長・金井政明氏、アーティスト/デザイナーのハイメ・アジョン氏を招き、シンガポールで活躍する各界のクリエイターとともに、デザインがいかに革新のプロセスに影響を与え、ビジネスを成功に導いているかを幅広い観衆に向けて発信する。デザインシンキングがどのようにビジネスに反映されているのかを知る実利的なセッションになりそうだ。

▲ 金井政明氏(左)とハイメ・アジョン氏


●デザイン & メイク フェア
日時 3月8日(火)〜20日(日)11:00〜20:00
会場 ナショナルデザインセンター

“デザイン・イン・シンガポール”“メイド・イン・シンガポール”をキーワードに、ローカルのインディペンデントなデザイナーやクラフトメーカーによるプロダクトを展示。ハンドメイドの石鹸づくり、ガラス絵、皮革品の製作、陶器の人形づくりなど、一般向けのワークショップを通じて、日常的な生活のなかにデザインを取り入れることの楽しみを知ってもらおうという狙いだ。


●プレジデント・デザインアワード 2006-2015
日時 3月8日(火)〜4月8日(金)
会場 ナショナルデザインセンター内のアトリウム

政府が国内のデザイナーとその年に竣工・発表されたプロジェクトに対して与えるデザイン賞が「プレジデント・デザインアワード」。発足してから今年で10周年を迎え、国内で活動する建築・デザイン界の功績を国家レベルで評価する欠かせない恒例行事となっている。過去10年間の受賞者、受賞作品を一堂に集めて展示する。


●デザイン・トレイルズ Thoughtful design
日時 3月19日(土)、20日(日)11:00〜18:00

ナショナルデザインセンターを25分ごとに出発するシャトルバスに乗って、“心のこもったデザイン”をテーマに若手のデザインスタジオやデザインショップが集まる地域を巡るフリーツアー。20世紀前半に建てられたショップハウス(店舗住宅)が密集し、ここ数年の間にトレンディなエリアに変身を遂げたコミュニティのツアーには、ローカルデザインの今を知る楽しい発見のひとときとなるかもしれない。


<パートナーイベント>

●SingaPlural 2016 Making “Sense” of Design
日時 3月7日(月)〜13日(日)11:00〜22:00
会場 99 Beach Road
入場 10ドル(3月5日までにオンラインで購入の場合は5ドル)
主催 Singapore Furniture Industries Council in Partnership with DesignS
   http://www.singaplural.com

今回で5回目を迎えるSingaPlural (シンガプルーラル)は、昨年と同じ99 Beach Road を会場としながら、さらに多くの出展を予定している。今年のテーマは“Senses – the art and Science of Experiences”(感覚ーー経験することのアートとサイエンス)。広告、建築、都市計画、ランドスケープ、インテリア、家具、グラフィック、ファッション、と各クリエイティブ分野の作品が一堂に集まることで、五感を刺激するインスタレーションとプレゼンテーションを体感してもらおうという試み。英国統治下にあった1930年代に中央警察所として建てられたコロニアル建築の会場もユニークだ。


●MAISON & OBJET ASIA 2016
日時 3月8日(火)〜11日(金)11:00〜19:00
会場 マリーナベイサンズ エキスポ&コンベンションセンター 
主催 SAFI Asia Pte Ltd
   http://www.maison-objet.com/en/asia

パリをベースに開催されるインテリアとライフスタイルの国際見本市“メゾン エ オブジェ パリ”のアジアバージョンがシンガポールに登場して3回目。今回もマリーナベイサンズが会場となる。過去2年、国内だけではなくアジア各国から集まったデザイン関係者で賑わい、連日、各国のパネリストを招いたインテリアデザイン&ライフスタイルサミットが、多くの聴衆を惹き付けた。

今年のデザイナー・オブ・ザ・イヤーに選ばれたのは、香港を拠点に活動するインテリアデザイナーのアンドレ・フー。アジア各国の若手のデザイナーに与えられる賞「ライジング・エイジアン・タレント」には、オーストラリアのLAB DE STU、台湾のKIMU、タイのEASE、フィリピンのStanley Luiz、日本の田中千尋、シンガポールのLekkerが選ばれた。

アンドレ・フーは、マリーナベイサンズの対岸にあるフラトンベイホテルのインテリアデザインを担当したので、この機会にホテルを訪れてみるのもオススメ。


●International Furniture Fair Singapore 2016
日時 3月10日(水)〜13日(日)9:00〜17:00
会場 シンガポールエキスポ ホール1〜6
入場 2月28日までに登録すれば無料。以降は20ドル
主催 International Furtniture Fair Singapore Pte ltd
   http://www.iffs.com.sg

シンガポール国際家具見本市(IFFS)はASEAN家具見本市、The Décor Showとの合同イベントで、さらに今年はfurniPRO Asiaが同時開催。IFFSは1981年の設立以来恒例の見本市だが、デザインウィーク中に開催することで、活性化と集客の拡大を図る。


<その他イベント>
上記が主催者によるメインイベントとなるが、それ以外にも任意団体による付随イベントとして、一般参加を募るものづくりワークショップ、デザインセミナー、デザイナーによる街歩きをはじめ、学生向けのマスタークラスやデザイン学部の学生たちによる展示、子ども向けのものづくりワークショップなど各種イベントが予定されている。以下、主だったものをピックアップする。


●Light Tour of Marina Bay/CBD area
日時 3月9日(水)18:00〜20:30
主催 International Association of Lighting Designers (IALD) singapore chapter
シンガポールの夜景がどのように変容してきたかを、IALDメンバーとともに、変貌著しいマリーナベイやセントラルビジネスエリアを歩くガイドツアー。


●Supermama Trunk Show
日時 3月11日(金)19:00〜23:00
会場 265 Beach Road
主催 Superandco Pte Ltd (Supermama) 
デザイナーとメーカーをつなぐ役割を果たしているショップ&ギャラリーのSupermamaが、新ショップをオープンするとともに最新プロダクトを紹介する。


●Urban Ventures
日時 3月12日(土)16:00〜22:30 
会場 Keong Saik Road 事前登録制
主催 Lopelab
トレンディなレストラン、バーが立ち並ぶチャイナタウンのストリート、Keong Saik 通りの車道を閉鎖して、夕方から夜にかけての賑わいをつくり出すプレイスメーキングを行う。


●Pecha Kucha Night Singapore
日時 3月15日(火)19:00〜21:00 
会場 ナショナルデザインセンター オーディトリウム
主催 Favorite Merium
シンガポールで活動する各界のクリエイターたちが自らの仕事を紹介するトークイベント。


主催者たちのコメントから、デザインを身近なものとして一般市民に広く楽しんでもらおうというだけではなく、デザインシンキングをビジネスモデルに組み込んでいくこと、そのためのプラットフォームづくりがデザインウィークの大きな目的であることを再確認した。

見本市に出展したり視察のために渡航する場合には、ナショナルデザインセンターや99 Beach Roadなどにも足を伸ばし、今のシンガポールデザインのリアルな姿を見学されてはいかがだろうか?(文/葛西玲子)


*Singapore Design Week 2016
http://www.designsingapore.org/sdw

*シンガポール政府観光局
http://www.yoursingapore.com

*2015年のシンガポールデザインのレポート、および2016年のバックナンバーは、こちらをご覧ください。



葛西玲子/東京生まれ。1995年に面出 薫率いるライティング プランナーズ アソシエーツ(LPA)に入社。照明探偵団事務局の責任者として文化イベントの企画運営などを担当。2000年よりシンガポールに出向し、現在LPA-S代表を務める。その傍ら、シンガポールをはじめとしたアジア各国の建築文化を中心としたレポートを各メディアに寄稿中。