地域交流の場
「つむじ」をオープン。
モデルハウスを地域の人と文化が交流する場に

東京・東村山市を拠点とする相羽建設が市内に地域交流の場「つむじ」をオープンした。モデルハウスの見学や宿泊体験を行うだけでなく、交流の拠点としてマルシェや料理教室、手仕事体験などイベントを開催していく。地域に根づく工務店ならではのコミュニティデザインが注目される。

東村山市を含む多摩・武蔵野エリアは都心のベッドタウンとして発展し、特に住宅メーカーと分譲業者が圧倒的な数の住居供給を担っているという。こうしたなか小規模な地域工務店の選択肢は、新築に絞ってエリアを拡大するか、逆にサービスを多様化してエリアに寄り添っていくかという二択を迫られている。

相羽建設の二代目、相羽健太郎社長は後者を選んだ。「僕ら工務店は土地に根づいていることが前提。町医者のように専門外のことも含めて地域で暮らす人に寄り添っていきたい」。そのためには町にひらかれた業務形態になると同時に、地域そのものの価値を高めていく必要がある。そこでモデルハウスを地域交流の場に活用するというプロジェクトを立ち上げたのだ。

▲「つむじ」の敷地には4棟のモデルハウスが建つ。(1)「i-works 2015」(2)舎庫(3)3階建て木造ドミノ住宅(4)「つむじ」のランドマーク「巣箱」

「つむじ」のプロジェクトには建築家の伊礼 智氏、家具デザイナーの小泉 誠氏、造園家の小林賢二氏が参加した。伊礼氏はこれまで相羽建設と協働で住宅ユニット「i-works」の標準化を進めてきた。「つむじ」ではその最新版となる「i-works 2015」のモデルハウスを建設し、宿泊体験などを通じて性能と意匠の双方を体験してもらうという。

▲「i-works 2015」の内部(2階)。3.5間☓3.5間の正方形にすることで、玄関位置が変わってもそのまま使えるプラン

小泉氏も相羽建設とはリフォームショールーム「あいばこ」で協働していた。今回は同社が挑んだ3階建て木造ドミノ住宅(スケルトン・インフィル構造)のインフィル部分のデザインを担当。スケルトン・インフィルは住宅の骨となる構造・壁(スケルトン)、それ以外の設備や間仕切り(インフィル)を切り離すことで、ライフスタイルに合わせて自由に間取りを設計できるのが特長だ。

小泉氏がインフィルの設えに組み込んだのは、「大工の手」という活動。同氏を含む発起人が呼びかけ、大工職人に家具をつくってもらうことで手仕事の環境改善を図る取り組みだ。現在は全国70社の工務店が連携して活動している。今回はモデルハウスをイベント会場やカフェとして使用することを前提に、椅子やテーブル、キッチン、間仕切りとソファが一体になった置き家具などを製作した。材料はプレカット時や工事現場で出る端材、家を建てる際の補強材を使用している。

▲ 3階建て木造ドミノ住宅では、1階を仕事や趣味といったプラスアルファの空間として訴求。「つむじ」ではイベントやマルシェの会場として使われ、夜間にはバーを営業するアイデアもあるそうだ

▲ 3階は自由に間仕切りできる寝室や子供部屋として訴求するが、「つむじ」では講座や物販などの場所にもなる。「大工の手」でつくった家具は強度試験にも合格している

このほか小泉氏は床面積10㎡以下の小さな”居場所”として「舎庫(しゃこ)」をデザイン。敷地内には原寸試作があるが、今後は、ひとりの居場所や仕事場、店といった町にひらかれた小さな場としての可能性がありそうだ。

▲ 「舎庫」は家と家具のあいだのような6畳弱の”小さな居場所”。ガレージスペースに建てることをイメージしている

▲ 「舎庫」の内部。柱や梁はなく、国産杉を積層させた構造用面材で組み上げる、これまでにない構法を開発。基礎部分に蓄熱して全体を温めるといった工夫もあり、オプションでFRPで防水加工した塔を取り付けることもできる

自身も多摩地域を拠点とし、このプロジェクトに2年半関わってきた小泉氏。「本当は地域活動をしたいと思っている商店は多い。しかし、こうした交流の場をつくれるのは、土地を持つ工務店ぐらいかもしれない。(まちづくりの)新しいやり方だと思う」と話した。

▲ 小泉氏は、「つむじ」のランドマークとして大人ふたりが入れるほどの「巣箱」をデザインした。「環境と馴染みながら、地域の人にとって愛着のあるものにしたい」と同氏

相羽建設では「つむじ」の運営に合わせて地元のクリエイターにも声をかけ、地域の魅力を伝える冊子も発刊する。社会性や使命感というよりはまず「自分たちがわくわくしたいから」と、同じ価値観を持つ人が集まりはじめている。名称の「つむじ」は近くの「久米川辻」(辻は交差点という意味)から取り、人・モノ・コトが行き交う交差点をイメージしているそうだ。今後ここからどのような“うず”が生まれていくのか、いちばん楽しみにしているのは地域の人々かもしれない。(文/今村玲子)

「つむじ」ができるまで
http://aibaeco.co.jp/tsumuji/

人と文化が交わる場「つむじ」公式サイト
http://tsumuji.life/



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。