大型商業施設から小規模物件まで。
日本から世界へ発信する
「3M ダイノックフィルム」(前編)

上質な素材感と高い意匠性を謳う、塩化ビニール製の化粧フィルム「3M ダイノックフィルム」。耐久性とメンテナンス性に優れる同製品は、1960年代に発売されて以来、半世紀以上にわたって、建築やインテリアの現場で支持されている。

身近な空間に広く普及しているため、毎日のように目にしていながら、表立って脚光を浴びることのない建築部材。その背景にはデザインへのヒントが溢れている。

3月の新柄発表を機に、スリーエム ジャパンの谷岡 哲コンストラクションマーケット事業部長と黒崎真由デザイナーのふたりに話を聞いた。

▲ スリーエム ジャパン コンストラクションマーケット事業部 事業部長 谷岡 哲氏


ーーダイノックフィルムは新柄157点を追加して、全928柄のラインアップになりましたが、開発期間はどれくらいでしたか。

前回の新柄の発表が2014年3月なので、ちょうど2年です。これまでは3年ほどの周期でしたから、開発のスピードを早めています。

お客様から高い評判をいただいていること、リノベーション市場が拡大していること、開発の効率的な体制が機能してデザインストックが溜まったことなどが理由に挙げられます。これにより、お客様の多様なニーズにいち早く対応できるようになると考えています。


ーーどんな体制で開発に臨まれているのでしょうか。

日本(山形)で製造していますが、デザインワークは日本(東京)が中心となり、米国(ミネソタ州セントポール)、イタリア(ミラノ郊外)の3拠点でグローバルに連携しています。

製品化するデザインの3倍から4倍の数のサンプルをつくり、体育館のような大きな空間に貼り出して、お客様からの評価を反映しながら最終的な検討をします。

大型案件ではお客様のリクエストにかなうデザインを検討する場合もあります。100種類以上のサンプルをつくり、採用されるのはその半数以下です。



▲ 2014年オープンの虎ノ門ヒルズ。空間の基本コンセプトとインテリアに合わせて、オフィスやトイレ、共用スペースなどの壁・床・天井をダイノックフィルムでつくり込んだ


お客様が空間に求める仕上がりを表現できるフィルムをいかに早く、確実に開発できるか。そのノウハウや生産体制を築けていると自負しています。


▲ グラントウキョウノースタワーの大丸東京店にもダイノックフィルムは採用されている。同百貨店のアイデンティティである幾何学模様にあう色柄の特注製品を開発した


2008年オープンの東京ミッドタウンでは、空間の天井や柱など、木目をはじめとして複数の柄が多く採用されておりその総面積は57,000㎡に及びます。日本の建築基準では不燃性能が定められていて天然の木は使いにくい現状があります。加えてコストが高いほか、綺麗な木目が揃いづらいというデメリットもあるからです。

また、本物の木では、徐々に反ってきたりクラック(ひび割れ)が起きたりすることもありますが、塩ビ製のフィルムはそういったことはありません。しかもデザインを変えたい場合は貼り替え工事をするだけで済みます。

▲ 数あるフィルムの中でも木目調の製品は人気があり、バリエーションも豊富


今後、東京ミッドタウンをはじめとする商業施設も開業から年月がたった際には改修を行う場合があります。いかにメンテナンスをしっかりして、開業当初のイメージを保てるか。商業施設の大きな課題ですが、それが比較的やりやすい製品とも言えますね。


▲ 東京ミッドタウンのガレリア。ダイノックフィルムは耐候性にも優れ、長年の使用でも大きく様変わりしないという


ーー今後の展開についてお聞かせください。

今から半世紀前、ダイノックフィルムはクルマの外装材から始まり、インテリア用途に軸足を移して、デザイン開発をしてきました。耐久性があるので、汚れや傷がつきやすいパブリックな空間で広く採用されています。

昨年は初の試みとして「3M 施工事例コンテスト」を開催しました。3M ダイノックフィルムと3M ファサラガラスフィルム(光の透過性をコントロールしながら意匠性を持たせるガラス用の装飾フィルム)を使った実例をエントリーしていただき、表彰する内容です。審査委員には建築家の妹島和世さんと中村拓志さんをお招きしました。http://contest-3m.try-sky.com/



▲ 2015年度の最優秀賞に輝いたのは、日建設計とアンズスタジオによる東京日本橋タワー。重厚な金属パイプのような外観を、ダイノックフィルム(VM-1487:メタリック・ヘアライン)を巻いたアルミ材で表現


私たちが把握する施工事例は比較的大きな物件ですが、エントリー作品には小規模なクリニックや歯科医院などもありました。こうした作例をもっとアピールしていただく機会をつくるとともに、そういった事例を活用しながら水平展開したいと考えています。

▲ 実物サンプルが貼り付けられたカタログやサンプルはウェブから請求可能。1日に平均で400〜500件の問い合わせがあるという


また現在、国内のホテル需要が高まっています。稼働率が上がるとメンテナンスも必要になりますが、オーナーは一時休館をなるべく避けたいはずです。短期間で模様替えができるダイノックフィルムは、こうした場面でも需要が高いのです。新規物件だけではなく改修を検討している方々にも、製品の良さが伝わればいいですね。(文/神吉弘邦)

→後編に続く