AXIS181号 特集
「地場とデザインの根深い問題と、その解き方」

現在発売中のAXIS 181号特集は「地場とデザインの根深い問題と、その解き方」地場産業の振興にデザインを取り入れようという動きが始まって30年以上になり、自治体によるマッチング事業やコンペなどデザイナーとのさまざまなコラボレーションの手法が試されてきました。しかし一方で、デザインを取り入れたものの、あるいはデザイナーと協業したものの、うまくいかなかったという声を聞くことが未だに多いのも事実。成功と失敗、その差は何か。伝統工芸をはじめ地域に根差した産業を活性化するために、デザインはどう関わるべきか。地場とデザインの間に横たわる根深い問題を浮き彫りにし、その解き方を探っていきます。

特集内の各記事の概要とキーワードなどをご紹介します。

インタビュー 鈴木啓太(プロダクトデザインセンター)
「地場産業とデザイン、何のための協業か? 経営者、デザイナー、行政すべてにある課題」

国内外の地場産業とのプロジェクトに数多く関わり、自らプロダクトブランドを事業展開するなど、企画からデザイン、販売までを手がけるデザイナーの鈴木啓太氏。「成果を出すため、ときにはデザイナーだって泥臭い営業もやらなくてはいけない」と覚悟を語るが、その背景には、経営者やデザイナーなど関係者すべてが考え直すべき課題がある。

「……。僕は前者を「俗」のプロジェクト、後者を「雅(みやび)」のプロジェクトと呼んで区別し、適切なデザインをするように心がけています。企業は自分たちがやるべきことが俗なのか雅なのかわかっていない場合が多い。デザイナーがそれをジャッジしていけるとよいと思います。」

「一方で、シビアな首都圏に比べると地方って楽しいんですよ(笑)。おいしいものもあるし、温泉もあったりして。つい自分らしさというか、いつもならあまり出せない作家性を出してしまいたくなるのかもしれません。本当は俗のプロジェクトをやるべきなのに“自分の作品”を持ち込んでしまうケースがある。これはデザイナーのリテラシーの問題かと思います。」

辰野しずか(+st)
「本気の人と組む。気持ちの変化を汲み取る」

デザイナーの辰野しずか氏は、自らのミッションとして伝統産業のプロジェクトに携わっている。メーカーにも熱意や覚悟を求めたいが、「デザインが大事にされない」状況に戸惑うこともあるようだ。

「商品開発はものをつくるだけでは終わりません。売るためのビジュアル、ロゴ、ブランディング、販路開拓など諸々やるべきことがある。本来であればプロデューサーとプロダクトデザイナー、グラフィックデザイナーがチームになって取り組むのが理想ですが、現状はひとりのデザイナーがその労力をすべて負担している」。

小関隆一(リュウコゼキデザインスタジオ)
「企業とデザイナーが対等な関係で目的意識を共有できるかどうか」

主に東京の中小企業との商品開発において数々の成功事例を導いてきたデザイナーの小関隆一氏。地場産業とデザインの根深い問題とは「ビジネスとして本気で取り組もうとしている人がまだ少ない」ことだと話す。

「デザイナーを呼んできて商品化を目指すもののうまくいかない事例が多い。商品化は事業においては過程であって目標ではありません。未だにそこを目標にし続けること自体がとてもまずいと思っています。」

有田焼創業400年を巡る産地の現実
佐賀県を代表する地場産業、有田焼が今年、創業400年を迎える。全盛期の約6分の1にまで低減した売り上げの回復と次の100年に向けた発展を目指し、佐賀県が中心となって大規模なプロジェクトを推進中だ。

「私自身の軸足はブレません。産業として成立するものをつくること、自分の会社を絶対に変革すること、有田焼の産地をどうにか再生すること……。(百田陶園 百田憲由社長)

「最初は、地場の産地によくあるデザイナーとコンサルタントに対するアレルギーを感じました。でもあえて“よそ者”を自覚して関わることで、仲間には言い出せなかった悩みや解決しきれなかった課題を浮き彫りにできる利点もあります。」(佐賀県窯業技術センター特別研究員 浜野貴晴氏)

インタビュー 桐山登士樹(富山県総合デザインセンター デザインディレクター)
「ビジョン、具体的な数値目標、つまりマーケティングの意識。そしてデザインの実践」

富山県総合デザインセンターにかかわりはじめて23年目となる桐山登士樹氏。今や、富山ではデザイナーとの協業によって大きな成果を上げている企業が増えてきている。さまざまな困難や試行錯誤を経て、いくつもの企業を成功に導いた富山県総合デザインセンターの手法には他県からも大きな注目が集っている。

「私は企業の皆さんに『補助金は借入金だと思ってください』と言っています。それはいつまでも続くものではなく、長くても3年や5年で終わります。もらったものは利子を含めて返すというつもりで、売り上げ目標を立てて、商品開発に取り組まなければダメです。」

「地方の自治体のまずい点は『何か1つでもうまくいけばそれでいい。あとは自分でがんばってやりなさい』と放ってしまうことなんです。するとその人や企業の経験値がないところでたくさんのことをやらなくてはならず、困ってしまう。本当は飛び立つまで丁寧にアドバイスして支えてあげないといけないんです。」

“現代生活”で選ばれる軽やかさを求め–山梨「ボーンジュエリー」
ジュエリー産業の歩んできた歴史は古く、現在でも日本一の出荷額を誇る山梨県。家業として営まれる各工房では、親から子へ、技と美意識が伝授されている。今、産地ではマーケットの変化に対応すべく、次世代も持続可能な産業として生き残る可能性が模索されていた。

「他力の卸しに頼らない、自分たちでつくったものを自分たちで売るやり方を大切にしたい。身内の足跡を見ながら、日々苦しみながらものづくりをする姿勢が強み。」(仙洞田知紘 山梨文化会館経営企画室)

「技術はあって当たり前で、それだけではきっと飽きられる。なぜこのジュエリーがあるのか、なんでこの形なのか、自分の仕事で伝えていきたい。」(後藤晃一 グローリーデザイン)

原田祐馬(UMA/design farm)
「人々を巻き込み、関係性を育み、背中を押す仕事」

「クライアントとデザイナーの関係というより、人と人の交流から始まる」。デザイナーの原田祐馬氏は、地域について地元の人たちや仲間と一緒に考え、活動するなかからふさわしい提案ができると話す。そこには、一方的にデザインを依頼されるのとは全く違う関係性が生まれている。

「地元の人にとって僕は、いつのまにか来ている“スナフキン”のような存在かもしれません。デザイナーというよりも、巷の“兄ちゃん”みたいな(笑)。デザイナーらしいかかわりよりも、まず、その場に一緒にいて共に考えることから始まります。」

インタビュー 服部滋樹(graf代表、滋賀ブランディングディレクター)
「マーケット以前に、つくり手と向き合っていく。そして、面白くできるかどうか」

grafの活動と同時に、日本全国で地域のブランディングを多数ディレクションしてきた服部滋樹氏。いきなりものづくりを目標とせず、地域のリサーチに時間をかけ、そのプロセスのなかから新しい「つくり方」を引き出すことで、地域の産業を持続させていく。

「昔から、相手のオーダーは疑ってかかれと思っているので、おかしいと感じたらオーダーそのものを見直す作業からデザインを始めるんです(笑)。」

「僕、コンセプトをつくるのが大嫌いなんです(笑)。そもそもコンセプトの種はすでにある。種は植えられて芽も出ているけれど、落ち葉が覆い被さって見えなくなっているだけ。」

「これは後輩にもよく聞かれるんですが、選ぶのではなく、面白くできるかどうかで判断すればいいと思います。面白くできる自信があるんだったら受けるべき。」

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