法隆寺釈迦三尊像のクローン文化財とは何か? 東京藝大と富山のプロジェクト

1400年の歴史を持つ国宝・法隆寺釈迦三尊像の「クローン文化財」が制作され、オリジナルの姿に蘇った。

▲ 3D原型をもとにした釈迦如来像の鋳型制作。シリコンゴムの鋳型の中に、溶かした蝋を塗っていく蝋型という方法。塗っては乾かしを繰り返し、蝋でミリ単位の厚みをつけていく。この厚みが金属の厚みとなる。


もともと聖徳太子の病気平癒を祈願するために日本最初の仏師と言われる鞍作止利(くらつくりのとり)が制作した釈迦三尊像は、飛鳥彫刻の代表作として多くの人々に感動を与えてきた。このプロジェクトでは、東京藝術大学、高岡市、南砺市、およびそれらの地域に数百年にわたって息づく伝統技術の工房が連携し、「門外不出」の国宝の再現を試みたのである。

プロジェクトの目的について、髙橋正樹 高岡市長は記者会見で次のように説明した。「東京藝大の工芸分野に関する学術的知見を活用し、高岡市と南砺市の伝統技術を用いて国宝の再現に臨むと同時に、地場産業の活性化に向けた好循環モデルをつくりたい」。


釈迦三尊像を計測できるまたとない機会

総合監修を務める東京藝術大学の宮廻正明教授によると経緯はこうだ。2年前に東京・上野の東京藝大学大学美術館で法隆寺展を開催した際、釈迦如来像の左右にある脇侍が出展されたことから法隆寺金堂内に人が作業できるほどのスペースができた。またとないこの機会を生かして、釈迦如来像と脇侍の3Dデータを計測して型をつくり、本物と同じ銅の成分と質感を再現して「クローン文化財」をつくるというプロジェクトを立ち上げたのである。

東京藝大が釈迦三尊像の3Dデータ計測、および3Dプリント出力による原型づくりを担当。これを元に伝統工芸高岡銅器振興協同組合の5工場が分担して3体の仏像と光背の鋳物を制作した。さらに井波彫刻協働組合の工房が合計500kg以上にも及んだ仏像を支える基壇の制作と彫刻を手がけた。最後に東京藝大での着色作業を経て完成し、3月10日(金)〜20日(月・祝)の11日間、富山県高岡市の「ウイング・ウイング高岡」で完成披露の展覧会「法隆寺 再現 釈迦三尊像展―飛鳥が告げる未来―」が開催されている。

▲ 東京藝大による3D計測の様子(以下、写真はすべて東京藝術大学COI拠点)。

▲ 完成した釈迦如来像の型。

▲ 大光背の鋳型づくりはガス型鋳造で再現。原型の複雑な形状の部分に鋳物砂をかぶせ、凹凸や細かい線を1つ1つ写し取る。大光背の構成には、こうした寄せ型が100個近く必要。完成した寄せ型を抜き取って大光背の枠にパズルのようにはめ込んでいく。

▲ 鋳造の作業は上型と下型の鋳型を重ね、1,250度で溶かした金属を4つの穴から流し込む。冷えて固まった鋳型を割って、中から大光背を取り出す。

▲ 鋳物のクローン文化財の釈迦三尊像。ここから着色して仕上げする。

▲ 大光背の仕上げ作業。


オリジナルを超越するクローン文化財

今回の制作物は「クローン文化財」という位置づけであり、レプリカ(複製)とは異なる。というのも、3D計測できない耳の後ろや背中といった部位は、東京藝大の専門家によってコンピュータ上で造形されたものであり、大光背もなんらかの理由で部分的に変形・消失した現状の再現ではなく「もともとの姿」を推測して補正されているからだ。

宮廻教授は、「クローン文化財は同一素材を使い、なるべく当時の製法に沿ってつくります。レプリカとの違いは、オリジナルを超えることができるということ。国宝にはいっさい手を加えることができませんが、クローン文化財であれば付けたり引いたりすることが可能。もともとの姿を再現することができます」と説明する。

さらに門外不出の作品と同じものを海外で展示することができ、日本の文化をより多くの人に伝えていくことができるという。場合によっては鑑賞者が手で触れることもできる。「時空を遡るかたちで、文化を共有できるのではないか。消失したものも、叡智と技術によって次の世代に文化を継承できる。それが本プロジェクトの価値です」(宮廻教授)。

▲ 釈迦三尊像を支える木造の台座部分は、南砺市の井波彫刻でつくられる。台座の骨組みづくりはこの道50年の彫刻大工による。正確な寸法に合わせて裁断したヒノキ材を使い、箱型の台座を組んでいく。三体の仏像と大光背、全部で500kg以上を支える台座。堅牢な構造にするために、コンマ数ミリ単位の調整をしながらカンナで削る。

▲ 台座(上座)に彫っているのは「返り花」。蓮の花弁を表した彫刻だ。井波彫刻の歴史は600年前の瑞泉寺建立に始まる。山門や本堂を飾る彫刻を名工たちが手がけ、やがて一般住宅の欄間や祭りの屋台飾りに伝わった。今でもおよそ180人の彫刻師たちが、伝統の技を守り続けている。

▲ 台座(下座)の着色は東京藝大で行われた。


20日まで、完成した釈迦三尊像を披露

3月10日から始まった展示では、空間構成を南砺市出身で富山大学芸術文化学部准教授の横山天心氏、展示什器のデザインを隈 研吾氏が手がけた。金堂における釈迦三尊像の配置を再現するため、高岡市のガラスプリンティング技術を使い、透明なガラスパネルの中に仏像が透けて見えるような展示だ。

本展のキュレーターを務める伊東順二特任教授(東京藝術大学社会連携センター)は、「法隆寺の開眼法要は文化や精神性において国を1つにすることを目的とした公共事業という側面があったと考えられます。本展では、文化を通して地域の技術や精神性を発信する、いわば”心の文化事業”というものを試してみたい」と説明した。(文/今村玲子)


「法隆寺 再現 釈迦三尊像展 ―飛鳥が告げる未来―」

期間:2017年3月10日(金)〜20日(月・祝)
   10:00〜18:00 ※入場は17:30まで

会場:ウイング・ウイング高岡 4階ホール、ホワイエ

主催:400年を超える高岡市の鋳物技術と600年を超える南砺市の彫刻技術を活用した地場産業活性化
   モデルの構築・展開事業推進協議会

詳細:http://www.city.takaoka.toyama.jp/sanki/sangyo/shinsangyo/shakasanzon.html



今村玲子/アート・デザインライター。出版社勤務を経て、2005年よりフリーランスとしてデザインとアートに関する執筆活動を開始。現在『AXIS』などに寄稿中。趣味はギャラリー巡り。