佐藤直樹個展「秘境の東京、そこで生えている」。
完成を想定しない、スリリングなアートと音楽をレポート!

アーツ千代田3331で開催中の「秘境の東京、そこで生えている」、観る人を圧倒する展示風景。ベニヤ板に木炭で描かれている。

会期中に100メートルから150メートルへと増殖する展示

「WIRED」日本語版創刊よりアートディレクターとして担当するなど、ディレクター・デザイナーとして第一線で活躍している佐藤直樹氏がこの5~6年間、絵を描き続けてきたことをご存知だろうか。

2012年頃から木炭画を描き始め、2013年東京電機大跡地の壁に描いた「そこで生えている。」(3.6×9.5メートル)で様々な方面に大きな反響を呼び起こした佐藤氏。2014年からは完成を想定せず、ただただ無目的に描き続けているという。現在、アーツ千代田3331で開催されている個展「秘境の東京、そこで生えている」では合計150メートルにもなる壁を植物の絵で埋めていく、一大プロジェクトが進行中だ。

どこまでも根を伸ばすかのように増殖する絵は全長150メートルにもなる。ギャラリーの真っさらな空間を支配しているようだ。

会場に足を踏み入れた途端、彼が描く植物の強烈な生気に圧倒されるだろう。
絵はすべてシナ材のベニア板に木炭で描かれている。木炭は従来デッサンや下絵に用いられる画材だが、定着性が弱く恒久的な作品には不向きだという。しかし先史時代、洞窟の壁面に絵を描くのに用いられたのが木の燃えさしであったなど、最も古い画材のひとつとも言われている。佐藤氏の作品は木炭だからこそ表現できる繊細な濃淡で、「恒久的ではない」目の前で変幻していく様子を描いている。

どこの絵の前に立つかによって、見える景色も全く変わるのが面白い。

音楽で変容する空間に、身を委ねる

5/23(火)に行われたテニスコーツのライブ風景。

個展を訪れた日、テニスコーツのライブ「無人島で聴きたい音楽」が開催された。本展では会期中、通常の展示では考えられないほど平日休日問わずたくさんのイベントを開催しており、音楽はもはや、展示を構成する重要な要素であると言える。

テニスコーツは、さや(ヴォーカルほか)と植野隆司(ギターほか)のふたりによるバンドだが、その時々のコラボレーションによって「不定形」であることが魅力のひとつ。今回の場合は、佐藤氏の描く夥しい数の植物とのコラボレーションだ。この日は80名ほどの観客を前に、マイクも使わない完全なアンプラグドでライブが行われた。

様々な楽器を持ち替えながら歌い、絵のある世界と私たちの座っている世界との行き来に誘う。

ライブが始まると、テニスコーツの縦横無尽に漂う音楽の力で絵の植物たちが生き生きと葉を伸ばし始め、増殖し、会場に光が届かないほどの背丈になって覆いかぶさるような感覚に陥った。まるで、ジャングルだ。

会場を取り囲む圧倒的な大きさの植物を見上げていると、自分たちが座っているからなのか、小人のような人間でない生き物になった気持ちさえしてくる。それほど佐藤氏の描く植物には生命力があり、畏怖の念を抱かせる。

新作となる植物立像図(2.4×1.2メートル)は26枚にも及ぶ。

そもそもなぜ、「そこに」生えているのではなく、「そこで」生えているのだろう。
考えてみると「そこに」という言葉には、常に見つける側の優位がある気がしてくる。

見つける側(人間)の解釈によって整理され名付ける行為は、物事の恐怖心を取り除いてくれる代わりに、本来そのものが持っている力も削いでしまうのではないか。本展はここで鳴り響く音楽も含め、増殖し侵食する生命力の強さにありのまま身を委ねているようで、それは観るものに、見てこなかった世界への恐怖心と好奇心のどちらをも抱かせる。

佐藤氏は、そこではっきりと存在しているものにただ率直に光を当て、描いているのだろう。

会期中もなお描き続けられており、この作品は完成という終着地を持っていない。

だからこそ本展で体験できるこの空間は、今だけのものだ。「そこで」という言葉の通り、そこには意思というよりも運命めいた必然性に導かれて描かれた絵がある。

6月11日(日)までの会期を逃さず、ぜひそれぞれに体感してほしい展示だ。

佐藤直樹個展「秘境の東京、そこで生えている」

会期
2017年4月30日(日)から6月11日(日)12:00-19:00 火曜休
※関連イベント開催により閉場時間が早まる。
会場
アーツ千代田3331(1階メインギャラリー)
東京都千代田区外神田6丁目11-14
入場料
一般800円/学生・シニア700円/高校生・障害者無料
※イベントは別途チケット代あり。詳細はHPにて。
イベント
5月30日(火)【ライブ】大友良英「2台のギターによるワンマン・アンサンブルズ」
6月1日(木)【ナイトツアー】山崎阿弥「声が灯す夜のとばり」
6月3日(土)【ライブ】今井和雄×越川T×多田正美(マージナル・コンソート)
6月6日(火)【パフォーマンス】首くくり栲象×向島ゆり子「奇蹟の園」
公式HP
http://ithasgrown.com

同時開催 “NAOKI drawings @ sagacho archives”

会期
2017年4月30日-6月11日 金・土・日・祝のみ
13:00-19:00
会場
佐賀町アーカイブ
アーツ千代田3331 B110
公式HP
http://www.sagacho.jp/ja/exhibitions/