デザイナーと中小企業の協働が切り拓く
ウキマ × hitoe「多機能シール halt+(ハルト)」
商品化への道のりインタビュー

2015年の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)でテーマ賞に選ばれた、板橋区の中綴じ製本会社「ウキマ」とデザインユニット「hitoe(ヒトエ)」のチーム。ウキマが得意とする、凸型の針「アイレット」を使った中綴じ技術による紙のデコレーション用品を提案し、テーマ賞に輝いた。その後、約1年をかけて多機能シール「halt+(ハルト)」として商品化。文具市場にアイレット付きシールという新しい用途を広めようと奮闘するメンバーに話を聞いた。

▲株式会社ウキマ 代表取締役社長 樋下田 稔氏

ーー東京ビジネスデザインアワード(TBDA) に応募したきっかけを教えてください。

樋下田 応募する前年に初の自社商品をつくって、板橋区の展示会に出したところ、売れたんです。その後、区の産業振興公社からアドバイスをもらうなかで、「ふたつ目の自社商品を考えませんか」と、このアワードの存在を教えてもらったのがきっかけです。

▲最初の自社商品「ファイレット」。2つ折のクリアファイルに補強の紙をはさみ、アイレットの針金で綴じてあるもの。パンフレットなどの資料を2穴バインダーに保管したままページを開けるところが便利。

榎本 僕らはたまたまウェブサイトでアワードの情報を見つけました。東京の中小企業が高い技術を持っていることは知っていたのですが、それまであまり接点がなかった。マッチングを経て中小企業の人たちと直接やり取りし、新しい商品を開発できるのは魅力的だと感じました。

▲hitoe 横山織恵氏 榎本大輔氏

ーー数あるテーマのなかでも、なぜウキマさんの技術を選んだのですか。

横山 アイレットっておもしろそうだなと。私たちは広告グラフィックの仕事で小冊子など紙製品のデザインを数多く手がけています。印刷会社とは普段からやり取りしているため「親しみのある分野だからやれるかな」と思いました。

▲2015年のTBDAが開発のきっかけとなった新商品「多機能シールhalt+」

「できない」ではなく、「できる」ためにどうするか

ーー2016年2月の受賞後、すぐに商品開発をスタートしたのでしょうか。

樋下田 わりとすぐですね。今の世の中スピードが大事だし、せっかくなら全受賞作のなかでもいちばんに商品化したいと思いました。7月のISOT(国際 文具・紙製品展)に出品すると決めて、そこでの反応が厳しければ、スケジュール含めて考え直すつもりでした。

▲ISOTでの展示の様子

ーーISOTでの反応はいかがでしたか。

樋下田 評価はとても高かったのですが、コスト削減が大きな課題でした。現状、アイレットの機械が8センチ間隔でしか針を打てないんです。製品を2個つくるのに捨てる部分が3個もあると紙の無駄が大きく、単価が高くなってしまう。hitoeの2人からもつくり方を色々と提案されたけれど、機械の性質上対応できない。でも「できない」ではなく、「できる」ためにはどうしたらいいかと悩んだ結果、治具をつくることにしたのです。治具というのは、中綴じ加工の際、作業位置を指示するために用いる器具のこと。それを機械に取り付けることで、8センチ間隔でアイレットを打っても無駄が少なくなりました。治具をつくるのは初めての経験だったので、仲間に相談しながら現場で何度をテストしました。

▲ウキマ工場にて。

ーーシールのデザインはどのように決めていったのですか。

榎本 「halt+」は1種類のシールをつくって終わり、というイメージではありません。どんどん枝葉が別れて成長していくような感覚で、最初はとにかくいろいろなバリエーションをつくりました。でも当時審査員の山田 遊さんに「(ブランドは)上位の規準をしっかりとつくってから細かな展開を考えたほうがいい」という話を聞いてからは、ブランドの軸となるデザインの方向性をつくっていこうと、トーン&マナーを考えていきました。

横山 最初は「貼る」ことを意識するあまり、シール部分の素材や剥離の仕方とか、そういうことばかり考えていました。でもそれが一段落したときに、「誰に向けて、何をするものなのか」というところで相当もめたんです。単に「自由度の高いシール」では漠然として誰にも刺さらないのではないか。そこからターゲットや使い方を絞っていき、デザインも自然に整理されていきました。2週間に1回のペースで定例会を開いて、交互に行き来しながら話し合いました。

▲最初に商品化した「halt+」の丸型(サークル)シール。ノートの背表紙につけてバインダーにはさんだり、ゴムをかけてブックバンドにできる。

商品の魅力を伝えるには、まず自分が好きになること

ーー今年1月に販売を開始しました。販路はどのように開拓していったのですか。

樋下田 最初につくった自社製品の販路に乗れないかと期待したのですが、なかなか簡単にはいきませんでした。「自由度が高い商品だけに、使い方が特定できない」と扱ってもらえなかった。その後、東京都の中小企業振興公社にアドバイスや推薦をもらいながら、少しずつ新しい販路を開拓しています。

▲5月に販売開始となった「halt+」のタグシリーズ。「トラベルタグ」「スタディタグ」「ステーショナリー」の3種類があり、ブックバンド用のチャーム付きゴムが付属する。

ーー販売上の課題などはありますか。

榎本 商品が置いてあるだけでは、使い方がわからず埋もれてしまいます。アイレットという言葉自体が一般的ではないため、どうしたら端的に使い方を伝えられるかが課題です。

樋下田 悩んでいたら、異業種の方が「文具好きの人が集まる朝活がある」と教えてくれたんです。そこで、早起きして朝活に出かけ商品を見てもらったところ、皆さん素直に「おもしろい」「便利だね」と言ってくれた。それぞれ商品を持ち寄るので多様な情報が手に入るし、相談に乗ってもらえます。それが縁で文具の好きな人やメーカー、販売店の人が集まるイベントにも参加するようになりました。

ーー自ら動いて発信していくことが大切なんですね。

樋下田 自分がつくったものを使って、好きになって、自信をもって説明できるくらいになれば、興味のない人にも強く伝えることができると思います。自分が気に入らないならつくっちゃダメです。

横山 朝活では「私はこんなふうに使っています」と、われわれが考えもしなかったようなゴムのかけ方をしていたり、クリアファイルに貼ったり、「なるほど!」と教えてもらえることが多いのです。フェイスブックで使い方を発信してくださることもあります。商品名についている「+(プラス)」は、同じシールでも貼る対象物によって全く違った使い方ができるというコンセプトを表しているので、そこをどんどん深く、ニッチに追求していきたいんです。

榎本 「halt+」に合うデザインのノートやブックカバーなど、他のアイテムと組み合わせることでシールの良さや使い方をアピールできると思います。逆に文具メーカーが出しているノートに合うシールをデザインするなど、OEMの展開も可能だと考えています。

マッチングが成功する秘訣はコミュニケーション

ーー商品開発プロジェクトに参加してよかったことを教えてください。

樋下田 最初、「halt+」の丸いシールは単色で考えていたのですが、hitoeさんから追って2色づかいも提案されました。自分だけではそういう発想は全く思い浮かばないので、デザインの力は大きいなとつくづく感じましたね。
もう1つは、商品がきっかけで交流範囲がすごく広がったということ。取引先や銀行の人が「こんな商品があるならこういう人に会ったほうがいい」と、今までとは全然違う人たちを紹介してくれるようになったんです。逆に自社商品を流通にのせているという実績が会社の「品質保証」になって、製本の問い合わせがきたり、受注も決まりやすくなりました。

ーー企業とデザイナーのマッチングにおいて大事なことは何でしょうか。

榎本 コミュニケーションに尽きます。プロジェクトがはじまってから1年半経ちましたが、どんどん仲が良くなっている(笑)。そうでなければ良い製品は生まれないと思います。そのために樋下田さんと僕たちの間に線を引かないように意識しています。もちろんデザイナーとしてのこだわりを捨てるわけではないのですが、樋下田さんが発信するのだから樋下田さんがいやだと思うものはつくらないようにしたい。

横山 「デザインをこうしたい」「この技術ではできない」といったぶつかり合いは多々ありました。デザインと技術の折り合いの付け方って本当に難しい。でもお互いの理想だけをぶつけあっていても答えは生まれないので、双方でできることの重なりをどうやって探していくかが大切だと思います。(Photos by 西田香織End

アイレット付きシール「halt」 http://hal-t.com/

株式会社ウキマ http://www.ukm.co.jp

2017年度東京ビジネスデザインアワード
提案募集:2017年8月16日〜10月25日
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/