高輝度反射材をさまざまな領域で活用する、
リフレクタークリエイティブプロジェクト「RE:LIGHT(リライト)」
商品化への道のりインタビュー

▲八欧産業の工場にて。左から、八欧産業の嶋さん、電通チームの三浦さん、本田さん、良知さん。

東京ビジネスデザインアワード(TBDA) 2015の優秀賞に選ばれた「RE:LIGHT(リライト)」は、高輝度反射材のレーザー加工技術を活かして古着をリメイクするというファッションブランドの提案だった。受賞後、商品化の検討を進めるなかで、ファッションだけでなく、さまざまな分野で反射材の可能性があると考えたメンバーは「リフレクタークリエイティブプロジェクト」として展開していく。オンリーワンの加工技術をもつ八欧産業と、プロジェクトを推進する電通のプロジェクトチームに話を聞いた。

——反射材とはどういった素材なのでしょうか。

嶋 雅浩(八欧産業 常務取締役) 反射材とは、正確には「再帰性反射材」といって、道路標識のように車のライトが当たると光って見える製品です。交通標識、ガードレールなど物に付いている場合と、スポーツウェアやシューズ、ワークウェアなど人が着けている場合があります。物に付ける場合は、貼り付ける粘着シートタイプが主ですが、人が着ける場合は、縫製やアイロン転写タイプもあります。当社では、貼り付けるシートに印刷や型抜きなどの加工もしますが、アイロン転写タイプのフィルムのカットや圧着の加工設備も持っています。

▲八欧産業 常務取締役 嶋 雅浩さん

——今回の「RE:LIGHT」で使用している高輝度反射材の特徴はどういったところにあるのでしょうか。

 高輝度反射材は輝度(反射の度合い)の特に高いフィルムを使っています。表面のガラスビーズの背景にシルバーの反射層があり、フラッシュ撮影するとものすごく光ります。さらに、当社では数年前に新しいレーザー加工機を導入し、この高輝度反射材を高速でカットし細かい絵柄を施すことが可能になりました。TDBAの応募案では、この材料と技術を使っています。

——そうしたなか、東京ビジネスデザインアワード(TBDA) に応募したきっかけを教えてください。

 当社には営業担当がおらず、紹介による受注だけで50年以上やってきました。会社独自のノウハウや加工方法があるので、クライアントの要望に対して技術と設備をそろえて応えてきたというスタイルです。ですが今回は、「非常に細かい加工ができる」というオンリーワンの技術をもっと広く知ってもらうためのきっかけとして応募しました。

ナイトアクティブな若者に向けた提案

▲「リフレクタークリエイティブプロジェクト」の電通チーム

——3人は電通の同期で、こうしたアワードに精力的に応募されているそうですね。なぜ今回、数あるテーマのなかでも八欧産業の高輝度反射材を選んだのですか。

三浦慎也(電通 コミュニケーション・プランナー) TBDAの説明会での八欧産業の内容紹介で「こんなに光る材料があるんだ」と驚いたんです。独自性のある材料と技術に興味を感じました。

——高輝度反射材と古着を結びつけようという考えはどこから。

三浦 学生の頃からずっと古着に興味があって、自分でも古着屋をやっていたこともあり、自然にアイデアが浮かびました。

本田 新(電通 アートディレクター) 単に反射材で新しい製品をつくってもなかなか受け入れられない。でも古着というリサイクルの文脈に安全という付加価値を組み合わせたら面白いのではないか。古着ってちょっとシミがあるだけで売れなくて廃棄されてしまうんです。デザインを付加すれば、そういった状況も解決できるのではないかと思いました。

——提案では、「ナイトアクティブ」という言葉で夜間に活動的な若者のカルチャーまで訴求していますね。

良知(らち)耕平(電通 コミュニケーション・プランナー) 小学生や高齢者は安全のために反射材のキーホルダーを身に付けていることが多いんです。一方、実際に夜間に活動的な若者たちは「ダサいからつけない」。ナイトアクティブな彼らこそポジティブに身に付けられるプロダクトができたら意義のあるビジネスになるよね、という話をしました。

——提案時の、古着にプリントした反射材のデザインはどのように考えたのですか。

本田 古着にもともとあるロゴやグラフィックを活かして、その上に反射材のレイヤーを重ねるような、できるだけシンプルなデザインにしたいと考えました。光の入射角と反射角をモチーフに、直線的で幾何学的なグラフィックを検討しました。

 アイロン転写タイプは印刷するものもありますが、スクリーン印刷の場合は版をつくるとイニシャルコストがかかります。レーザー加工は版が不要で、かつ、自由なデザインを何パターンでも試せるのが強みなんです。線の細さは機械で加工できる限界までチャレンジしています。

「TOKYO DESIGN WEEK 2016」で大反響

——その結果アワードで優秀賞を受賞しましたが、商品化の段階で古着のリメイクブランドを立ち上げるのは難しいという結論に達したのですね。

三浦 古着は安定した在庫が得られないことや、1点1点選んで加工しているとコストが見合わないことがわかりました。リメイク工場にも相談しましたが、「既に成熟した古着文化にチャレンジするならデザインを根本的に見直さなければダメだ」と。

そこでいったんファッション以外にも、どんなシーンなら反射材を面白くデザインして入り込めるか、領域を広げて考えることにしたのです。たくさんアイデアを出し合いながら、スニーカーやスマホケースなどの試作を重ねていきました。

——そうするなかでファッショブランドの「Metaphor….(メタファー)」と出会ったのですね。

三浦 ファッション専門のグループ会社に「一緒に取り組んでくれる人を紹介してほしい」と頼んだところ、紹介してくれたのがメタファーの深津研人さんでした。すぐに興味を持ってもらえて、一緒にアイデア出しをすることになりました。

 一方で、僕らは透明の反射材があることを知りまして。フラッシュ撮影したら元のデザインがガラッと変化して楽しめるような“フラッシュジェニック”なものができるのではないかと。そこから深津さんとどんなモチーフにするか詰めていったのです。

本田 今、若い人たちがロックバンドの「バンドTシャツ」を好んで着ている。そこにテレビ画面の砂嵐や、バグってギザギザになったデジタル画像のイメージを組み合わせて、フラッシュ撮影すると“画像が荒れる”ような表現を楽しめるのではないかと考えました。

——そうしてできあがったTシャツを「TOKYO DESIGN WEEK 2016」に出展しました。反響はいかがでしたか。

三浦 来場者の反応はものすごかったです。決して大きなブースではなかったのですが、たくさんの人が集まってフラッシュ撮影してくれて、素材の面白さを再確認できました。

▲TOKYO DESIGN WEEK 2016での展示ブースの様子。

 最初は反射材の効果を見てもらうために懐中電灯を手渡していたのですが、すぐにその必要がないことがわかった。今や誰もがスマホのフラッシュという光源を持ち歩く時代になったんだ、ということがいちばんの驚きでした。

展示ブースの壁面にも反射材を仕込んであって、フラッシュ撮影すると絵柄が変わる。その様子がちゃんと写真に残って、SNSを通して伝わっていく。反射材というのは、今の時代にマッチした商材なんだなということを実感しました。

新しい技術や材料を試していきたい

——「RE:LIGHT」プロジェクトの今後について教えてください。

三浦 反射材はまだまだ安全対策グッズとしての域を出ていない。この素材の面白さをもっとビジネス化していきたいと思っています。TDWでは「スマホで楽しめる」という手応えを掴んだし、プロモーション活動としてのアイデアはほかにもいろいろあります。それらをどんどんかたちにしながら、影響力のある人と一緒に発信していくことが大事かなと思っています。

良知 交通や安心安全といった反射材本来の目的を訴求する分野にも行ってみたいですし、反対にストリートカルチャーやストリートスポーツと反射材をかけ合わせたらどうなるかも試してみたいです。

 TBDAで提案したレーザー加工技術のほかにも、当社独自の技術を次々と開発しているところです。熱転写フィルムだけでなく、ほかにも色々な反射材を扱っているので幅広く使っていきたいと思います。

本田 毎回嶋さんと打ち合わせするたびに新しい技術を見せていただくんですよ。それで僕らも刺激を受けています。デニムの裾に小さな反射材を仕込んでスケボーして遊んでいる人もいるし、反射材を使った広告表現も増えてきているので可能性がある。これからもいろいろな分野で反射材の面白い使い方を提案していきたいと思っています。

―ありがとうございました。(Photos by 西田香織End

RE:LIGHT(リライト) http://re-light.tokyo

八欧産業株式会社 http://www.yao-sangyo.co.jp

2017年度東京ビジネスデザインアワード
提案募集:2017年8月16日〜10月25日
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/