窓を開け、世界に挨拶しよう!
窓をアカデミックに研究する
「窓学」の10周年記念展

YKK APの「窓研究所」による窓学10周年の記念展「窓学展―窓から見える世界―」が、東京・青山のスパイラルガーデンで10月9日まで開催されている。

「窓学」とは、2007年に吉田忠裕社長(現会長)が、窓をアカデミックに研究する取り組みとして自ら造語を考案して立ち上げたもの。当初は数名の研究者を招いた社内勉強会だったが、年々参加者が増え、2013年には窓研究所を創設。10年間で55名を超える研究者が集い、50以上ものテーマを研究してきた。本展では、その取り組みをより広く伝えるため、現代アートを取り混ぜた展覧会形式で多彩な研究を紹介している。

世界の研究者も注目する「窓学」

「笑顔で窓を開けることがとても大切だ。窓を開け、世界に挨拶しよう!」。

これは、イタリアの建築家ミケーレ・デ・ルッキが窓研究所のために書いたメッセージだ。その言葉は、まさに窓学の姿勢そのもの。窓学の総合監修を務める五十嵐太郎教授(東北大学/建築史・建築批評家)は、「建築における最も身近なパーツである窓は、建築だけでなくデザイン、技術、環境、健康、民族、視覚芸術、社会など、実はさまざまなテーマに接続している」と説明する。それを一般の来場者にも感じ取ってもらえるよう、幅広いテーマをラインアップしたと言う。

▲ミケーレ・デ・ルッキが、窓学誕生のきっかけとなったリサーチプロジェクト(2005年〜06年)で制作したペインティング。10月3日に行われる窓学国際会議にも登壇する予定。

例えば、五十嵐研究室はこれまで映画や絵画、広告といった視覚メディアのなかで窓がどのように扱われているかを調査してきた。今回の「窓の漫画学」では、「サザエさん」「ドラえもん」「こちら葛飾区亀有公園前派出所」における窓、ドア、開口部の描き方を全巻から抽出して分析。五十嵐教授は、「近隣とのコミュニケーション手段、外に飛び出していくためのSF的な要素、あるいはアクションシーンで破壊する対象として描かれている。窓のあるページにふせんを貼って分類しているので、気軽に楽しんでもらえたら」と説明する。

▲五十嵐研究室「窓の漫画学」。

塚本由晴教授(東京工業大学/建築家)の研究室では「窓のふるまい」について研究する。本展ではその一環として「窓の仕事学」、すなわち人間のパートナーとして仕事をする窓に焦点を当てた。例えば、沖縄・粟国島で塩をつくるためのコンクリートの構造体に穿たれた窓は、風を取り込んで塩水を濃縮するためのもの。益子焼・濱田窯の作業場には手元を照らすための窓、「いぶりがっこ」を製造する小屋には熱や煙を効率よく排出するための窓がある。会場では、こうした「人間、あるいは人間以外のふるまいも拡張するような窓」を実地調査した成果が展示されている。

▲塚本研究室「窓の仕事学」より、粟国島の塩づくりの調査。

ほかにも、人類が窓をどのようにしてつくってきたのか、世界の著名建築から窓の進化を紐解いていく「窓の進化系統学」(村松 伸+六角美瑠)や、光・熱・風をコントロールするという窓の機能性に着目して、実際の住宅建築でシミュレーションした「窓の環境制御学」(小玉祐一郎研究室)など、第一線の研究者による多様な窓学が展開されている。

▲村松 伸+六角美瑠「窓の進化系統学」。差込型の模型を使ってフランスの大聖堂や中国の回遊式庭園などに見られる窓と近景の関係性を示している。

▲小玉研究室「窓の環境制御学」。アルヴァ・アアルトやルイス・カーンの住宅でシミュレーションした光・熱・風の分析を模型と映像を使って発表。

窓をテーマにした現代アート

上記のようなアカデミックな研究成果に加えて、現代アーティストによる窓をテーマにした作品も「窓学を外にひらく」活動として見逃せない。アルゼンチンのアーティスト、レアンドロ・エルリッヒは「本展は、窓の概念を機能だけでなく哲学や民俗文化にまで広げることで、窓の可能性を豊かなものにしている点が興味深い」と話す。新作「窓と梯子―歴史への傾倒」は土台から設営した大作だ。旧い建物の窓が切り取られて空中に浮かんでいるというあり得ない情景は、思いを馳せても決してそこに戻ることができない過去のメタファーでもあると言う。

▲11月には東京で大規模な個展も開催予定のレアンドロ・エルリッヒによる作品「窓と梯子―歴史への傾倒」。

写真家のホンマタカシは2015年から窓学に研究者として参加し、ル・コルビュジエの建築における窓を撮影し続けている。スパイラルエントランスの特設スペースでは、代表作ラ・トゥーレット修道院の宿坊の窓から見える景色をカメラオブスキュラ(ピンホールカメラ)の原理で撮影した写真を掲げる。

▲宿坊の原寸模型のほか、実際にピンホールで撮影したイメージなどを展示。

若手アーティストの鎌田友介による「不確定性の透視図法」は、ひとつの窓枠(フレーム)が見る人の視点によって歪む状況をビジュアライズした。9つの視点をクロスさせた作品を3つ配置することで、窓を通して視点が複雑に交差する空間をつくり出している。

▲鎌田友介「不確定性の透視図法」は、見る人の角度によって窓が台形やひし形などに見える、認識の違いを表現。

10月3日(火)には、「窓学国際会議―窓は文明であり、文化である―」と題した学際的なシンポジウムを開催する(すでに受付は終了)。本展の出展者はもちろん、ミケーレ・デ・ルッキ、建築家の槇 文彦や藤森照信、ほかにも人類学者や社会学者など国内外から27名が参加して9時間にわたり、窓をテーマに語り合う。はたして、多方面に開け放たれたたくさんの窓の向こうに、どのような景色が見えてくるのだろうか。End

YKK AP 窓学10周年記念「窓学展―窓から見える世界―」

会期
2017年9月28日(木)〜10月9日(月・祝)11:00〜20:00(会期中無休)
会場
スパイラルガーデン(スパイラル1F)*入場無料
詳細
http://madogaku.madoken.jp/ http://madoken.jp/ *研究展示は金沢、仙台、名古屋など全国の5大学に巡回予定。

YKK AP 窓学10周年記念「窓学国際会議―窓は文明であり、文化である―」

日時
2017年10月3日(火)10:00〜20:00
会場
スパイラルホール(スパイラル3F)*入場無料 *受付はすでに終了
詳細
http://madogaku.madoken.jp/symposium/