【書評】森岡書店店主・森岡督行さん
田中厚子 著「土浦亀城と白い家」

「土浦亀城と白い家」田中厚子 著 (鹿島出版会)

合理的で普遍的な形態
評者 森岡督行(森岡書店店主)

かつて土浦亀城という建築家がいた。特に戦前期、日本のモダニズムを牽引した建築家で、代表作は「徳田ビル」「野々宮アパート」など。本書は、これらの建築が詳細に記述されている一方、写真も多数掲載されているため、作品集としての趣きもある。バウハウスに代表されるモダニズムという流れのなかで、日本にあって土浦は、何を見て、何を考えたか。著者は80年代に定期的に土浦夫妻から話を聞いており、その貴重な体験を踏まえての考察となっている。

印象に残ったのが30年代に語った土浦の言葉。「(今までは)装飾をする為に装飾をしたのでありますけれども、新しい時代の住宅は寧ろ装飾をしない装飾、装飾なしの装飾と云ふことが、一つのモットーぢやないか、と思ふのであります」。あるいは次の著者の見解。「固有の地域としての日本で、住宅をより快適なものにするために『国際様式』を採用した土浦は、日本固有の造形にはこだわらず、あくまで合理的で普遍的な形態を求めた」。

書店の書棚の谷間で本書は異彩を放っているが、徹底して白と青のみで構成されたデザインは、あたかも上記の土浦の言葉を書籍で体現しているようだ。

先ごろ、本書の表紙に写された土浦自邸が2億9千万円で売りに出された。まさに装飾がなく、直線と平面で構成された美しい邸宅。しかし土浦の戦前の住宅で現存するのはこれのみ。本書は文字情報で土浦が考えた普遍的な形態を伝えるだけでなく、本のかたちとしても土浦の理想を表していると言える。End

ーーデザイン誌「AXIS」187号 「書評 創造へのつながり」より。