【鑑賞券プレゼント:5組10名様】
「国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―」。
全力疾走の建築家、安藤忠雄の軌跡

9月下旬、内覧会には大勢の記者が詰めかけ、その建築家が現れるのを今や遅しと待ち構えていた。取材陣の前には、その建築家が30年かけて7つの施設を設計してきた香川県・直島の大きな模型が横たわっている。背景のスクリーンにはまだ何もない敷地に立つ、若き日の建築家の姿が映し出されていた。「その建築家」とは言うまでもなく、安藤忠雄。独特の風貌、元プロボクサーで独学で建築を学んだ異色のキャリア、代名詞であるコンクリートの建築作品、どれをとっても唯一無二の存在感を放つ。こんな建築家は後にも先にも現れないだろう。

本展は、そんな稀代の建築家・安藤忠雄の仕事に迫る大規模個展だ。活動の原点である「住まい」の設計から、「光の教会」に代表される建築における「光」、「余白の空間」や「場所を読む」といった、安藤建築を知るうえで欠かせない6つの要素に沿って、89のプロジェクトを紹介している。

展覧会も「全力疾走」

通路の向こうから特徴的な声色が響いて、安藤がゆっくりとした歩みで登場した。司会者からマイクを受け取ると、第一声は「2014年に大手術をしましてね」と久しぶりに会う友に声をかけるかのよう。「膵臓と脾臓を全部取って、展覧会を頼まれたけれどどうしようかなと思っていたんです。でも医者が『希望と夢さえあれば生きていける』と言ったものですから。なんでもそうかもしれないが、自分の夢と希望がしっかりなければいかんのではないか。そう思いまして、やらせていただくことにしました」。

▲大勢の記者に囲まれる安藤。

▲実際のアトリエを再現した「安藤忠雄の仕事場」。

やるからにはちゃんとしたものをやりたい。「建築というものは体験しなければわからない」という想いから野外に「増築」したのが、「光の教会」の1分の1模型。どんなときも「全力疾走」を信条とする安藤らしい、本展最大の見どころだ。訪れる人は誰もが度肝を抜かれることだろう。ANDOの名を世界に知らしめた、あの伝説的な教会の空間が寸分違わず、東京のど真ん中に出現したことに。ましてやその中に実際に入って、あの伝説的な光の現象を体感できることに。

▲野外展示場に設置された「光の教会」(1989年)1分の1模型。

▲再現された「光の教会」内部。

▲「光の教会」模型。

▲「光の教会」の平面ドローイング。

メインの展示スペース(セクション3〜5)は仕切りをなくして開放し、プロジェクトを点在させている。香川県・直島の一連のプロジェクトをはじめ、大阪・中之島プロジェクト、国内外の美術館、パリで進行中のものまで、大きく精細な模型やドローイングを通して見てまわることができる。

▲安藤建築でしばしば見られる「卵型」のスペースが会場にも。ここでは、直島の一連のプロジェクトを紹介するインスタレーションを展示。

▲「中之島プロジェクトⅡ―アーバン・エッグ(計画案)」の断面ドローイング。緻密で美しいドローイングも見どころのひとつだ。

「模型は全部自分たちで手づくりしたものしか出さないと考えました」。安藤が教える学生たちが必死で作業した成果でもある。安藤は「彼らはもう結構です、と言って二度と来ませんでしたね」と冗談めかして言うが、そのスケールやクオリティの高さを見るにつけ、学生たちの苦労がしのばれて到底笑えない。「でも人間というのは、若いときにギリギリまで追い込まれてやったほうがいいんじゃないかと私はいつも思っている。彼らも、何かいい体験をしたのではないかと思っております」と涼しい顔だ。

理想を追い求めて自ら「全力疾走」しつつ、関係者にも負担をかけることを厭わない。時には施主にでさえ。初期の代表作「住吉の長屋」(1976年)は、絶賛と同時に「住みにくい」と批判も浴びた。真ん中に庭があるため、雨が降ったら住人は傘を差して外を通りトイレに行かなければならない。「村野藤吾さんが建築賞の審査で住吉の長屋に来たとき、『この賞は安藤ではなく暮らしている人にやれ』と言ったが、正しいと思っています。住宅というのはそこに住む人がいちばん頑張らないとといけないんですよ。この方は40年以上、ずっと住んでいますからね」。

▲「住吉の長屋」(1976年)の模型。

人の記憶に残る建物をつくりたい

安藤が全力疾走なら、パートナーも全力疾走だ。ベネッセの福武總一郎、サントリーの故・佐治敬三、またフランソワ・ピノーといった個性的で独自の哲学を持つ実業家に信頼され、彼らの情熱と長く付き合うなかで斬新なアイデアを実現してきた。

▲フランソワ・ピノーとは、パリやヴェニスで3つの文化施設をつくった。ヴェニス、サン・マルコ広場対岸の「プンタ・デラ・ドガーナ」(2009年)の模型。歴史的建造物を現代美術館に再生した。

▲ピノーとともに現在進行中のブルス・ドゥ・コメルス(パリ)は2019年初春に完成予定。

「佐治敬三さんに『お前は面白い人間だから青春の限りを生きろ。20代、30代だけが青春ではない。70歳、80歳でも夢と希望があるうちは青春なんだ』と言われたものですから、まだまだ。人々の記憶に残るような、そこにあってよかったなあと思われるような、建物をつくっていきたいと思います」。

約270点の設計資料や模型で紹介される89ものプロジェクト。会場は底知れぬパワーに溢れていて、もっと作品を見てみたいという気持ちになる。東京には表参道ヒルズや21_21 DESIGN SIGHTをはじめ、いくつもの安藤建築がある。本展の関連企画として、これらの建築を巡るスタンプラリーも用意されているので、秋空の下、安藤建築を体感しに歩いてみるのもよいだろう。

また、本展会場ではぜひ音声ガイドを借りることをおすすめしたい。安藤自身の軽妙な語りによるプロジェクトの裏話や思い出話が、鑑賞体験をより楽しく深いものにしてくれるはずだ。End

▲「21_21 DESIGN SIGHT」の模型。本展会場から最も近い安藤建築だ。10月7日〜28日、ギャラリー3にて「安藤忠雄 21_21の現場 悪戦苦闘」を開催。

国立新美術館開館10周年 安藤忠雄展―挑戦―

会期
2017年9月27日(水)〜12月18日(月)10:00〜18:00 金曜・土曜は20:00まで
休館日
毎週火曜日
会場
国立新美術館 企画展示室1E+野外展示場
詳細
http://www.tadao-ando.com/exhibition2017/
プレゼント
5組10名様に、鑑賞券をプレゼントいたします。件名に「鑑賞券プレゼント 安藤忠雄展」と明記のうえ、お名前、ご職業、ご住所とともに、axismag@axisinc.co.jpまでお申し込みください。締切は2017年10月9日(月・祝)。応募多数の場合は抽選のうえ、当選者の発表はチケットの発送をもってかえさせていただきます。