デザインディレクターである僕が、若い中国人デザイナーに教えられたこと

▲今回の写真は、いつもお世話になっている、中国のモデル業者様2社の写真です。Photos by Misa Nakata

みなさんもそうだと思いますが、私がデザイナーをやっていて、いつも考えてしまうのが、提案と商品化のバランスです。特に家電のような大量生産を前提とした商品のデザインは、かっこ良く美しいものを創造し実現すべきというデザイナーの視点と、いかに合理的につくるかという製造業に携わる一員としての発想が、常に相克しています。

それを社内では「着地感」と呼んでいますが、そのバランス感覚を持っていることがインハウスデザイナーのひとつの能力だと思っています。……いや、ずっと思っていましたが、中国に来て、明らかにそれとは異なる発想で動いている人たちや出来事に直面し、今までの自分の発想がいかに狭い範囲に縛られていたか、純粋な挑戦心を忘れていたか、反省させられたということがありますので、その一端をご紹介したいと思います。

▲いつもワンちゃんがお迎えしてくれます。彼は野良犬っぽいですが、凛々しい写真目線です。

ある日の出来事です。その日は上海から少し離れた事業所で、朝から洗濯機のデザインプレゼンを行うということで、ホテルに前泊してビュッフェで朝ご飯を食べていたときのこと。ウチの若い中国人デザイナー(金さん)と会ったので、同席して食べながらお喋りをしていました。

津田「おはよう。デザインモデルはうまくできた? CGの確認だけで、最終のモデルは見ていないけど大丈夫かな?」

金さん「ばっちりです。今回は提案のポイントとして金属のイメージが大事なので、ちゃんとアルミの押し出し成型でつくりました」

津田「ん? 押し出し成型? アルミの?!」

金さん「そうです。押し出し成型でつくりました」

津田「お、押し出し!? どこ? どこを押し出し成型でつくったのかな? 操作部のダイヤルかな?」

金さん「ボディです」

津田「(絶句)……ボディを?! もう一度聞くけど……アルミの、押し出し成型、だよね? 洗濯機のボディって600mm×600mm以上あるよね? かなり大きいサイズだけど」

金さん「はいそうです。以前、別のデザインモデルの検討のときに、津田さんは、アルミ板の張り合わせではリアルじゃないからカッコ悪いって言われていたでしょ? だから今回は押し出し成型で一体モノでつくりました。きれいに仕上がってますよ!」

津田「あ、言ったよね、確かに言った。べ、ベストな仕上がりなんだね……」

金さん「めっちゃかっこいいです。一発でデザイン決定、間違いなしです!」

津田「了解、金さんありがとう……(絶句気味)」

▲モデルを加工するNCマシンは日本製やドイツ製の最新鋭の機械が使われています。

その後、実際にデザインモデルの仕上がりを見て私が驚きの叫び声を上げたのと、金属イメージの迫力あるデザインで一発方向決定になったことは言うまでもありません。

家電などのものづくりをおわかりの方なら、このやり取りのギャップに気付かれると思いますが、まず第一に、高価なアルミの押し出し成型を、製品でなくデザインモデルでやってしまう、という発想自体が日本人の僕では思い付かなかったのです。

実はあとでわかったのですが、中国のモデル業者は家電などのモックアップをつくっている一方で、自動車など大型商材の原寸大プロトタイプや仮金型なども一緒につくっていることが多く、アルミの押し出しも関連会社を辿っていけばつくれてしまうのです。それも日本よりはるかに安い価格で、です。

また、もうひとつ。デザイナーのマインドとして、本当にいい仕上がりを求めるために、「できること」より「やるべきこと、やりたいこと」をシンプルに優先して、モデル業者に相談して、さらにそれを実現させたということ。この迷いなき判断と実行力は、中国人ならではと思いました。

私は、小さいながらもデザイン組織のリーダーなので、自分のスキルに対する多少の自負もありましたが、知らず知らずのうちに、前例や経験、事情や都合に慣れてしまい、ベストオブベストを求める素直な気持ちを忘れていた。それをウチのスタッフに教えてもらったということです。

みなさんも忘れていませんか? 素直な気持ちと挑戦心……?!End

▲このような大きなNCマシンも。クルマのパーツを削り出せるほどのビッグサイズです。