イノベーター企業「Lövepac(ラブパック)」の射出成形技術が切り開く
次世代素材ジルコニアセラミックスの未来

温かみのあるテクスチャーと強度を兼ね備えた次世代素材、ジルコニアセラミックス。そのポテンシャルに着目し、用途開発に取り組む北欧発のメーカーがある。高度な射出成形技術を誇るLövepac(ラブパック)だ。来日したマネージングディレクターのダン・ウォン氏にジルコニアセラミックスの将来性について聞いた。

▲左から、ジルコニアセラミックス製ヘッドセットのグリル、ヘッドセット筐体、スマートバンド留め金、ヒンジ(蝶番)。Lövepacのジルコニアセラミックスはカラーバリエーションが豊富。現在、約20色を標準色として取り揃える。その他の色は新規開発により対応可能な場合もある。

ジルコニアセラミックス、その特性とは?

Lövepacは2015年のCESでユニークなスマートジュエリー「ミラージュ(Miragii)」を出品した。スマートフォンと連携させた、ジルコニアセラミックス製ブルートゥースイヤホン搭載のペンダントヘッドである。ジルコニアセラミックスは、アップルウォッチのケースを筆頭に、ここ数年でウェアラブル製品にも使用されるようになってきたものの、もともと人工歯、人工関節などの医療分野で用いられることが多い素材だ。ジルコニアセラミックスの意匠性の高さを生かしたスマートジュエリーは、素材の新たな可能性を提示するアプローチとして注目された。

▲CES 2015に出展されたスマートジュエリー「ミラージュ」。ジルコニアセラミックス製のペンダントヘッドには、スマートフォンと連携させたボタンサイズのブルートゥースイヤホンとプロジェクターを搭載。プロジェクターの前に手のひらをかざすと、赤く光る文字で発信者情報が投影される。

「セラミックスは珪石(けいせき)や長石など純度の高い天然素材から生まれる焼き物です。高純度に精製した天然原料に化学的原料を配合して機能性を高めたファインセラミックスのなかでも、ジルコニアセラミックスは高強度で耐摩耗性に優れているだけではなく、人体にアレルギーなどを起こしにくい高い生体適合性、断熱性、靭性(= 粘り強さ、しなりやすさ)を持っています。そんな機能性の特長と併せ、天然由来の豊かな手触り感も兼ね備えているひじょうに稀有な素材なのです。にもかかわらず、まだまだ医療分野をはじめ、フェルール、ノズルなどの機能部品、時計ケースなどの宝飾製品と、主な利用分野は限られている。これだけのポテンシャルがあれば、もっと幅広い領域での用途開発が可能なのでは?」。

エネルギッシュに身振り手振りを加えつつ、自社のサンプル製品を示しながら、ダン・ウォン氏はジルコニアセラミックスへ賭ける思いをそう語った。

高度な射出成形技術が強み

▲Lövepac の射出成形技術により製造されたジルコニアセラミックス製スマートバンドのケース。ねじ穴、リブなど筐体内部の構造部分も射出成形により、追加工なしで成形されている。同社の射出成形技術は複雑かつ緻密な形状の成形が可能で、最終形状に仕上げるための追加工をほぼ必要としない。ウェアラブルプロダクツ用部品製造に多く実績を持つ。

1968年に設立されたLövepacは、パーツメーカーとして機構・外装部品を大手家電メーカーに供給してきた。86年よりスウェーデンの老舗プラスチック成形加工メーカーNolato(ノラート)のグループ傘下となり、射出成形、金型製造、加工技術までの一連のノウハウを生かし、ジルコニアセラミックス成形技術の開発に取り組んでいる。

射出成形技術は、精密かつ複雑な形状の加工に適している。例えばスマートフォンやICレコーダーなどモバイル機器のスピーカーグリルに見られる、針でついたような微細孔も、射出成形なら寸分の狂いもなく加工可能だ。射出成形なら、というよりは、Lövepacの技術なら、と表現するほうが正確かもしれない。

「ジルコニアセラミックスは脱脂、焼成の過程で成形後のサイズから30%程度収縮します。そのため、収縮率を想定した精密な金型設計、成形性を十分に考慮して調製された材料の配合比、焼成時の厳密な温度管理が、高精度の部品製造のカギとなります。私たちは、多くの時間と労力を生産条件最適化のための研究開発に注ぎ、試行錯誤を繰り返しながら、ユニークなジルコニアセラミックスの射出成形技術を確立してきたのです」。

高度な加工技術を実現するために欠かせなかった要素が、もうひとつある。材料へのこだわりだ。ベストな材料配合比を編み出すにも、材料そのものが高品質でなければ本末転倒になってしまう。「われわれは成形メーカーである以上に、高品質な材料と他の追随を許さない成形技術とを組み合わせ、ジルコニアセラミックスの新たな用途を切り拓くイノベーターを目指しています」。

新領域のイノベーターとして

そこでLövepac が手を組んだのが、日本を代表する総合化学メーカー、東ソーだった。同社は、ジルコニア粉末のパイオニアとして知られ、ジルコニアの世界シェア80%を誇る。ジルコニアの工業化黎明期、その用途開発や拡販に尽力し、シェア拡大に貢献した。その立役者が、現在、東ソーの機能性無機材料部においてジルコニア関連のビジネスを統括する川上隆昭氏だ。

「川上さんとはかれこれ6 年ほど、良好な関係を築いてきました。何度もお目にかかっていますが、ジルコニアセラミックスの話になると、お互い時間を忘れて議論に没頭してしまうなど、開発へのモチベーションを大いに刺激されます。ジルコニアセラミックスで新たな未来を築きたい。私たちは、そんな大志を抱いています。彼は私にとって、メンターであり同志でもあるかけがえのない存在です」。

Lövepacはこれまで国際見本市などで、積極的に製品を発表し続けてきた。ブースの内装にもラグジュアリーブランドのようなスタイリッシュなテイストを盛り込み、今までの射出成形加工メーカーに抱かれがちなイメージを払拭してきたという。前述のCESで発表したミラージュも、その一例だ。多彩なプロダクトを手がけるLövepacだが、今後、ジルコニアセラミックスのどのような新用途を想定しているのだろう。

「熱、化学薬品、過酷な環境にも耐え得るこの素材独自の特性を生かし、もっとスケールの大きな製品への活用が実現できると考えています。利用分野に特に制限は設けていません。アイデアさえあれば、あらゆるプロダクトへの応用が可能なはずです」。

「ジルコニアセラミックス業界は、まだまだ開発途上の新領域」と熱っぽく語るウォン氏。ジルコニアセラミックスの用途開発におけるフロントランナーを目指すLövepacの今後の動向に注目したい。End(文/岸上雅由子 写真/林 雅之)

Lövepacに関するお問い合わせはこちら

問い合わせ先
shingo.kato@nolato.com(担当者:加藤)

※この記事はAXIS192号に掲載されたLövepacとAXISの企画記事です。