【ミラノサローネ2018】
新技術への挑戦から生まれるデザイン
SONY 「Hidden Senses」

8年ぶりにミラノデザインウィークへ出展したソニーは、「Hidden Senses(隠された感覚)」というコンセプトのもと、テクノロジーがさりげなく生活の一部に溶け込んだ空間をつくり出した。ミラノ市内のトルトーナ地区に特設した会場は5つのケーススタディーからなる展示で構成され、来場者が新たなテクノロジーを体験できる場となっていた。

「Echo」「Under The Light」「Tactile Objects」「Abstract Electronics」と題された1から4までのケーススタディーでは、見るものや触れるものすべてが人の動きにスムーズに反応する、インタラクティブな仕掛けを展示。例えば、会場入り口から最初に通る壁は、前を通過したり壁面に手で触れたりすると静かに音が鳴る。壁面のウォールライトは、前に立つ人の距離と動きに反応し、光と影あるいは色と形を映し出す。

写真提供:ソニー

花が生けられた花器を動かすと、テーブルの上に投影されている蝶の影が、まるで花の香りに引き寄せられるように追いかけてくる。空っぽの水差しを傾けると振動と音が手から伝わり、本当に水を注いでいるかのように感じさせる。シーソー型ベンチに座って揺らせば水音が体に響き、ボートに揺られている心地がする。

展示の最後のエリア「Day & Night」は、こうした個々の技術を集結させた暮らしの1場面を提案し、「普段の日常風景を変えることなく『新しい日常』に進化させていく提案」を具体化した。展示の評判は会期中に口コミで広まり、入場を待つ長蛇の列ができるほどの話題を集め、何度も訪れる来場者もいたという。写真では伝わりづらい、センシングやデモンストレーションを中心とする展示だったにもかかわらず、SNS等での発信も多かったことが印象的だ。

写真提供:ソニー

「木漏れ日や葉の揺らぎが現れたり、単純な形のオブジェをひっくり返すだけで時計の表示が変わったり、といった普段の生活のなかにある、ちょっとした瞬間と技術力を結びつけたことが、多くの人に受け入れてもらえたポイントかもしれません。国籍や年齢に関係なく、自分がどう動くと展示物が反応するのか分かった瞬間の来場者の微笑みは、印象に強く残りました」。そう話すのは、ソニー クリエイティブセンターの田幸宏崇チーフアートディレクターだ。

今回展示された日常的な風景を通してソニーが目指したのは、人や生活に寄り添うテクノロジーのありかたを提案すること。4年前から社内で継続してきたデザイン開発活動「Perceptual Experience Project」の一環として、新たな体験を提案し、そのフィードバックに基づいて、さらなる開発を進めるための取り組みでもあった。インターフェースやプロダクトといった具体的なデザイン開発とは別に、ソニーデザインがR&Dとして向き合ってきたテーマだ。

例えば、プロジェクターやスピーカー、デジカメなどの製品開発過程で実際に採用されないまま埋もれてしまうユーザーインターフェース技術を、日常空間に落とし込むことによって、違った側面からユーザーの反応を知る。それが、次の開発へ活かすためのフィードバックになるのである。今回の出展ではリアルな手応えを得られたようだ。

「テクノロジーが人を心地よくできることの重要性を再認識できました。今回発表したテクノロジーを活用して、サービスや新しいユーザーエクスペリエンスを提供する可能性は広がっていますね。フオーリサローネ(注:ミラノサローネ国際見本市会場の外で行われる展示全般を指す)の性質上、ブランドとしてのショーケースになる展示が増えてきていますが、われわれはインテリアを意識したというよりも、プロダクトと建築やサービスなどにはボーダーがないのではないかと考えました」と田幸が言うように、本展示はバウンダリー(心の境界線)を取り払い、既存の価値観に縛られずにテクノロジーの広がりを探求する側面もあった。

暮らしに役立つだけではなく、生活に快適さを与えられるという実例が、今後どのように展開されるのか注目していきたい。