デザイナー柳原照弘による「Layerscape」展。
境界を漂い、新たな状況を生み出すクリエイション。

▲Photos by Kuroda Natsuki https://www.kurodanatsuki.com/

東京・銀座の「クリエイションギャラリーG8」で、現在、柳原照弘の個展「Layerscape」が行われている。プロダクトや家具を中心に活動している柳原が、国内初となる個展を開催するにあたり、なぜグラフィックデザインの展覧会で知られる場を選んだのか。既成概念にとらわれない自由な発想、境界をいとも簡単に超える軽やかな振る舞いこそ、柳原照弘のデザイナーとしての態度を表している。

「紙もひとつの物質だと考えれば、その上で表現されるものが、グラフィックなのか、プロダクトなのかを簡単に決めることはできません。二次元も考え方によっては三次元へと変化する。空間、プロダクト、グラフィックを超えたところにあるクリエイションの可能性を探りたいのです」(柳原)。

エントランスからすぐに展示されている一連の平面作品は、従来にはないトレーシングペーパーの質感を持つポリエステルベースのNTパイルに、表裏両面で印刷したもの。空間に立ち上がるぼんやりとした人物像に、シャープな直線のグラフィックを加えることで、厚さ数ミリの紙のなかに不思議な奥行きを導き出している。

一方で、奥の部屋で展示されている有田焼やクリスタルガラスの作品群には、特徴のあるテキスタイルを用いたインスタレーションを展開。布を重ねることで生まれるモアレ効果や鈍いタマムシ色に輝く布などを通して作品を鑑賞することで、ポイントによって多様な見えがかりを設けている。

「デザインとは、新しい気づきや何かを始めるきっかけをつくるためのもの。実際に製造するプロセスや、完成した後に日常に馴染んでいく段階では、つくり手と使い手の存在が絶対的に必要であり、デザイナーがそれを細かく定義したり、制限をかけるようではダメだと思うんです。だからこそ、僕はあくまでも『状況をデザインする』ことに徹したい。世の中すべての人がそれぞれの感覚で受け入れ、反応するための余地をきちんと残しておきたいのです」(柳原)。

「Layerscape」は、作品を通して自身のクリエイションの軌跡を示す、レトロスペクティブ的な展覧会ではない。作品と鑑賞者が交わることで起きる状況によって、どんな思考や情景が浮かぶのか。柳原独自のデザインアプローチは、人間の個性や揺らぐ気持ちを目に見える形として表しているようにさえ映る。(文/デザインジャーナリスト 猪飼尚司)End

柳原照弘(Teruhiro Yanagihara)/1976年香川県生まれ。大阪芸術大学卒業後、2002年にスタジオを設立。自身のデザインのほか、クリエイティブディレクターとして「KARIMOKU NEW STANDARD」「TYP/Mopho」「2016/」などのプロジェクトの立ち上げに関わっている。http://teruhiroyanagihara.jp/

柳原照弘展「Layerscape」

会期
2018年7月4日(水)〜8月7日(火)
11:00〜19:00 日曜・祝日休
会場
クリエイションギャラリーG8
東京都中央区銀座8-4-17 リクルートGINZA8ビル1F
*入場無料
詳細
http://rcc.recruit.co.jp/g8/