芦沢啓治とトラフ建築設計事務所が手がけた、
マテリアルコネクション東京の新拠点

マテリアルコネクションは、数多くの先進素材をライブラリーに揃えるとともに、素材、メーカー、デザイナーをつなげる役目を果たしてきた国際的な企業だ。1997年にニューヨークで設立され、日本でも2013年からマテリアルコネクション東京が会員制ライブラリーの運営やコンサルティングを行う。その新しい拠点が、六本木のAXISビル地下1階にオープンした。

マテリアルコネクション東京の新しいライブラリーは、建築家の芦沢啓治がデザインした。従来よりも多い2,300種類以上の素材を常時展示するとともに、イベントなども開催できるように、主要な展示什器を天井から吊り下げて可動式にしたのが特徴だ。

「システムとしての使いやすさやコストに配慮し、きちっとプロダクトをデザインしていくと、空間が自然にできあがっていくと考えました。この空間はもともと展示やシンポジウムが行われていた、デザイン関係者にとってお馴染みの場所。什器を動かして中央を空けると、以前のような場所に戻るんです」と芦沢は話す。

什器を吊り下げると、床に置くのに比べて什器を薄くできることから、空間は軽やかになり、展示できる素材のサンプルも増えた。また移転前のライブラリーでは背面のフックにサンプルを掛ける仕様だったが、下部のレールに立てかけることでコストを抑えている。

エントランスとライブラリーの間には、エキシビション・スペースを配置。マテリアルコネクションがフォーカスする素材を展示し、不定期で入れ替えていく。ここで使うテーブルも芦沢によるデザインで、ニュートラルな空間の中で適切な存在感をもたせるプロポーションや大きさが意図された。

またライブラリーと同じフロアに開設した同社の新オフィスは、トラフ建築設計事務所が手がけている。ライブラリーと同じく地下フロアにある細長い空間を、快適なオフィスとするのは難易度が高かった。トラフ建築設計事務所の鈴野浩一は、こう話す。「天井が4mと高くて細長い、奥まった感じの空間だったので、奥に行くほど階段状に床を高くして、空間を見下ろせるようにしたら気持ちいいだろうと思ったんです。床の高さが変わるのに対して、テーブルの高さを手前から奥まで同じにして、手前は立ちながら打ち合わせができるようにしました」。

以前、この空間の天井にあった四角い照明は、いちばん奥の壁面に設置して窓のように見せ、快適さを高めた。カーテンには、マテリアルコネクションが扱うステンレス蒸着のテキスタイルを使用した。ただし空間全体としては、新しい素材を引き立てるように、通常は下地材に使われるパーティクルボードが多用された。素材のサンプルや資料が増えることを見越して壁一面に設えたシェルフも、パーティクルボードとグレーの棚板やコンテナボックスで構成している。

今回のプロジェクトがユニークだったのは、ライブラリーとオフィスの担当が分かれているにもかかわらず、彼らが一緒にミーティングやディスカッションを行ったことだ。だからライブラリーに鈴野の意見が反映されることも、オフィスに芦沢の意見が反映されることもあったという。また以前から使われていたものの再利用やコスト面の配慮など、両者間で感覚が共有されたところも大きい。

マテリアルコネクションは、主要なサービスを会員制で行っている。そのため企業のあり方は、社会に対して直接的に広く開かれたものになりにくい。一方、新しいライブラリーとオフィスがオープンしたAXISビルは、ショップやギャラリーなどが軒を連ねるところ。マテリアルコネクション東京の一連の空間デザインは、そのコンテクストをふまえ、既存の空間の要素を残すことで、企業と社会の間に従来と違う接点をつくり出すだろう。革新的な素材とデザインのマッチングは、現在のプロダクトデザインにとって普遍的なテーマである。その関係の活性化が、こうした場所から伝播していく姿が思い浮かぶ。End

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