「LIVING & DESIGN2018」出展企業インタビュー
着物の絹が空間を彩る【伊と幸 編】

これからの住まいと暮らしを提唱する大阪発の国際見本市「LIVING & DESIGN」は2009年からスタートし、今年で10年目を迎える。今年は10月10日(水)〜12日(金)の3日間で開催される。これまでも出展者×来場者、出展者×出展者のつながりによる商談成立の割合の高さを核に、住空間・リノベーション・インテリア産業の拡大の一翼を担ってきた。

2018年は「NEXT FRONTIER-新たな時代へ-」をテーマに技術革新によってもたらされる新たな可能性に焦点を当て、さらにこの先の住まいと暮らしを提案する。アクシス編集部では開催に先駆けて出展企業に取材。第1回は老舗白生地メーカー伊と幸(京都市)代表取締役の北川 幸さんにLIVING & DESIGN 2018への出展の意気込みや事業の可能性について語ってもらった。

▲伊と幸代表取締役の北川 幸さん。

ーー伊と幸さんが昭和6年に創業されて以来つくられている白生地というのはどういったものでしょうか?

弊社は着物用に染める前の絹生地のメーカーです。着物は染める前はすべて白。白生地を染めた後に着物として仕立てられていきます。弊社の白生地を作家の方に納めた後にお刺繍をされたり、江戸小紋に染められるなどを経て、得意様にお召しいただくという順序です。着物からは絞りや型染めなどさまざまな色柄が想像されると思いますが、それらすべて白生地がなければ成り立ちません。そういう意味では着物産業を底辺を支える、いちばんの川上に位置付けられるような会社です。

▲さまざまな白生地。染色される前の絹の美しい光沢に、改めてお蚕さんの命から紡がれる絹糸の素晴らしさを目の当たりにする。

ーー今回LIVING & DESIGNにはその着物用の絹に由来する「絹ガラス」で初出展を果たされます。絹ガラスの事業はどのような経緯で立ち上げられたのでしょうか。

白生地は着物の原点ですが、現代において着物を新調される方はお茶のお稽古をされている方々などに限られています。私自身、その状況をすごくもったいないと感じていました。日本の美の象徴である着物の文化性や文様の謂れなどを空間にも装えたらと考え、2013年に絹ガラス事業部を立ち上げました。

商品のラインナップは絹の生地を合わせガラスに封入するもの、アクリルにラミネートするもの、樹脂製のシート状のもの、絹生地そのものをファブリックパネルにするものの4種類があります。生地も刺繍のものから金糸などを織り込んだものまで多様な種類からお選びいただけます。私たちは常に絹をメインに扱っているため、染料から職人さんに至るまで最良のチームを組んでいることが強みです。それを基礎に新しい産業技術による加工を試みたり、いろんな人々の知恵と融合したりすることで、私たちがやってきた着物の世界観の延長線上で多くの異なる領域と関わりを持てるよう、事業を展開しています。

ーー今までどのようなところに使われているのでしょうか?

絹を封入したアクリルのパーテーションは医療施設に納めました。医療や福祉関連施設ですと、ガラスは凶器になるという理由で使用ができません。そういった理由からアクリルにして欲しいという要望がありました。アクリルはお店の看板などに使用されることも多いですね。

▲アクリルのパーテーション施工例。

光の透過が美しい絹障子はゲストハウスで使われています。900×2,000 mmほどの大きさまで制作可能です。

▲絹障子の施工例。

絹ガラスを家具に使用したネストテーブルはフランス人女性のデザインユニットと制作し、15年1月のメゾン・エ・オブジェに出展したものです。ガラスの柄やフレームのサイズもフルオーダーに対応できます。海外のデザイナーとの協業はとても刺激的で、ぜひまた取り組みたいと考えています。

▲京都市× パリ市共同事業「Kyoto Contemporary プロジェクト」で生まれたネストテーブル。天板の絹の柄はデザイナーが城壁の石垣にインスパイアされた文様を薄い絹に刺繍で表現したもの。Design by Charlotte Julliard and Peggy Derolez

住宅向けの絹ガラスの施工例としましては、京都のマンションのショールームに納めさせていただきました。キッチンとリビングを隔てる引き戸に絹ガラスを使っています。京都的な和空間を求められつつ、空間自体は洋室なのでモダンな雰囲気に仕上げられるよう考えました。絹ガラスは和洋折衷な空間にもとてもよく馴染みます。

▲キッチンを程よく目隠ししてくれつつ、空間を美しくつなぐ絹ガラスの引き戸。

実は先日、ハイアット・リージェンシー・東京日本料理「佳香」様にも絹ガラスを納品致しました。内装のリニューアルに際し、店内の引き戸にアーティスティックなパーテーションを設えられたいというご要望をいただいて制作致しました。

▲ハイアット・リージェンシー・東京の「佳香」に納品された絹ガラス。

ーーこちらに使用された絹ガラスの生地は「霞絹」ですが、なぜこちらを選ばれたのでしょうか?

リニューアル以前は和紙だったようですが、あまりに透明感がなく、お客様のお食事の進み具合などを確かめる際に戸を開けなければいけませんでした。しかし、あまりに透明度が高いとプライバシーが保たれません。美しい意匠が視線を集め、サーブをする人は戸を開けずともお料理の進み具合などを知ることのできる程度の透明度がある「霞絹」がちょうどいいのでは、とご提案致しました。今回のLIVING & DESIGNでもブースをご一緒するケイミューさんの黒っぽいスレートの壁面にこの霞絹を合わせ、洗練された日本的なテイストをプレゼンテーションする予定です。合同での出展をとても楽しみにしています。

▲絹ガラスの「霞絹」。

ーー絹ガラスシリーズの機能性については、どんな特徴があるのですか。

絹の弱点は水濡れと紫外線による劣化の2点が挙げられます。ガラス、アクリル、絹障子は水濡れの心配がありません。絹が露出しているファブリックパネルに関しても撥水加工を施しています。また、絹ガラスの場合、ガラスとガラスの間に中間膜(糊の代わりに絹を圧着させる樹脂製のシート)で絹を挟み込む5層構造を採用しています。ガラスは本来紫外線を通しますが、中間膜の樹脂がもつ紫外線を透過しづらい特性を生かし、絹の劣化を防ぐ仕組みです。

ーー今後、どういったところに絹ガラスが取り入れられると考えていらっしゃいますか。

現在注目しているのは、高齢者向けの住宅や福祉関連施設、ホテルのコンシェルジュ機能のあるようなマンションへの導入です。今の段階でも引き合いが多く、今後も力を入れていきたいと考えています。

新築の着工戸数は今後少なくなるだろうと予想されていますが、京都でもリノベーションをしてゲストハウス化している物件が多くあると聞いています。「和のテイストでありながら、現代の居住空間に馴染むもの」という条件で内装材などを探される方がますます増えるなか、以前に想定していたよりもはるかに市場のニーズにフィットしてきていると感じています。

▲京都市中京区の伊と幸ビルのファサードにも絹ガラスが使われている。屋外の環境でも品質を美しく保ち続けている。

ーー最後に、LIVING & DESIGN 2018に期待されていることを教えてください。

大阪での出展は初の試みなので、大変楽しみにしています。今はまだ2020年のオリンピックに向けて東京に注目が集まっているかもしれません。しかし、21年にはワールドマスターズゲームズ2021で関西にも多くの方が訪れると予想されています。開会式は京都、閉会式は大阪で予定されていますので、たくさんの方が宿泊されるでしょう。今まで以上に関西における内装の需要が上がってくるのではないでしょうか。これを機に絹ガラス事業を広く知っていただけましたらと思っております。

伝統的な着物文化を白生地で支えてきた伊と幸さんの絹ガラス事業は、つくり手の技術を未来につないでいく柱のひとつになっていくに違いありません。LIVING & DESIGN2018でケイミューさんと合同で魅せる世界観にも注目が集まります。ありがとうございました。(インタビュー・文/編集部・松渕彩子)End

LIVING & DESIGN 2018 開催概要

会期
2018年10月10日(水)〜12日(金)3日間
時間
10:00-18:00(最終日は17:00まで)
ブース
伊と幸さんのブースはNo.40です
会場
大阪南港ATCホール(大阪市住之江区南港北2-1-10)
入場料
1,000円
公式HP
http://www.living-and-design.com
主催
LIVING & DESIGN 実行委員会
問い合わせ
LIVING & DESIGN 実行委員会事務局
info@living-and-design.com