グローバル市場をいかに意識できるか。
メゾン・エ・オブジェ2018年9月展レポート

2018年9月7日(金)から11日(火)まで、パリ・シャルル・ド・ゴール空港からほど近いノール・ヴィルパント見本市会場で空間デザインとライフスタイルの見本市「メゾン・エ・オブジェ」が開かれた。事前のリリースのとおり、8ホールあるすべての会場が新たなセクター名のもとで再編成されたが、その結果について振り返ってみたい。

▲THE AGORAはデザイナー・オブ・ザ・イヤーに輝いたラミー・フィシュラーのブース

ホール大編成の結果はいかに

メゾン・エ・オブジェがホール再編成に踏み切った理由は、インテリアデザイナーや建築家に向けた「メゾン」ゾーンと、リテーラー向けの「オブジェ」ゾーンに大別することで、目的の異なる来場者が効率よく目当ての出展者と出会う機会を創出するというものだった。

しかし、見本市を定期的に訪れている人には、馴染みのメーカーの出展場所が変わる、ホールのまわり方を考え直さなければならないといった戸惑いも生じたはずだ。実際、訪れる前の私も若干不安だったが、そうした想像できるネガティブな見方は、開幕したらあっという間に消えてなくなったというのが正しい見方だろう。

現地で尋ねた欧州出展者や来場者のほとんどは、「ロジカルでわかりやすくなった」「長年同じ構成で続けているとホールによって人の入りに偏りが出る。変化は必要だ」「近しい製品分野の出展企業がひとつところに集まることのメリットのほうが大きい」と今回のホール再編成を歓迎していたことが印象に残る。

▲ネリー・ロディ社のヴァンサン・グレゴワールのよるインスピレーション・テーマは「Virtuous(徳性)」。エコロジカルな素材や再生プラスチック、子どものためのデザインなどを通じ、現代社会が抱える課題を投げかけた

パリならではの、シグネチャーとWhat’s New

現地では「メゾン」ゾーンに設けられた「シグネチャー」スペースが会場を歩く際のひとつの手がかりになった。天井から大きく「signature」というフラッグが下がり、床のカーペットにも「signature」の文字がパターンで記されていた。例えば、「TODAY」というセクター内のシグネチャー・スペースは、メゾン・エ・オブジェがそのセクターを象徴するブランドとしてフィーチャーしているという意図だ。来場者がこのスペースを見れば、そのセクターが自分の求める製品群なのかを即座に理解することができ、出展者ならば同スペースへの出展に力を注ぐべき場所となっていた。

▲TODAYのシグニチャースペースを表すフラッグ

もうひとつ歩き方の参考になったのは、「What’s New」の充実ぶりではないだろうか。以前から今季必見のプロダクトを一堂に集めた特設ブースとして存在し、メゾン・エ・オブジェ以外の見本市でも同様の趣旨のものは存在するが、ホール1〜4の4カ所に、出展企業3,112社のうち約500社を網羅していた点は注目に値する。

その展示方法も、ただ新製品を並べるのではなく、「シェア」「レジャー」「装飾」「ケア」といったキーワードに沿って、エリザベス・ルリッシュやフランソワ・ベルナール、フランソワ・デルクローが空間を演出したうえで見せていた。

あるベテランのリテーラーが、「What’s Newは出展企業ブースで見たときとは製品が違って感じられ、気づきがあった」と話していたが、一見抽象的に感じられるキーワード「シェア」「レジャー」「装飾」「ケア」を紐解くように最新プロダクトを見せる編集力は、トレンドの発信に力を入れるメゾン・エ・オブジェならではのものと感じられた。

▲「シェア」「レジャー」「装飾」「ケア」というキーワードごとに出展企業の製品を展示したWhat’s New。

日本企業のなかからピックアップ

さて、日本の出展企業からいくつかをピックアップしたい。ひとつは、前年は大阪デザインセンターとして、今年は中小機構として出展した「IMAGINATIVE MATERIALS」(ホール6)。各地域のインテリア素材メーカー13社を束ねた展示で、ドアハンドルのユニオン(大阪)、ステンレスの黒色酸化皮膜で知られるアベル(大阪)、いぶし瓦の光洋製瓦(兵庫)、特殊加工を施したアルミと錫をアピールしたナガエプリュス(富山)、丹後ちりめんのブランド「TANGO OPEN」(京都)らが含まれていた。

本ブースを束ねるプロジェクトマネージャーの大高申一さんは、「ほかにはないインテリア素材を探して採用する、特別なスキルを持ったプレスクリプターの存在」を挙げる。欧州では馴染みのある職能のプレスクリプターに素材への要望をヒアリングしたうえで出展候補を選定し、各社の製品を海外市場に合うようにブラッシュアップしているという。前年の手応えとして、いぶし瓦がスイス時計メーカーの店舗内装材として世界600店舗で使用されたという実績を語った。

▲前年の出展でスイス時計ブランドの店舗素材に用いられた光洋製瓦

本プロジェクトのクリエイティブ&マネージングディレクターの松浦隆展さんは、日本企業の繊細で高品質なものづくりに敬意を示しつつも、それだけはダイナミックな欧米のインテリアデザインのなかでは埋もれてしまうと話した。また、中小企業や伝統産業を守るためには、マスマーケットに向けたビジネス展開の必要性も語った。具体的には、瓦を瓦の形のままアピールするのではなく、瓦の特質と特徴を抽出してタイルに変えるといったことを出展企業とともに探ってきたという。今後、瓦の重さや施工時の簡易性といった課題にどう対応していくか、さらなる企業努力が求められる点にも言及した。

▲特殊加工を施したアルミと錫を出展したナガエプリュス

▲XX社が協業する丹後ちりめんのブランド「TANGO OPEN」

IMAGINATIVE MATERIALSに今年初めて出展した企業のひとりが、「メゾン・エ・オブジェを訪れるインテリアデザイナーや建築家は、みんな新しい素材を探し求めている。最も驚いたのは、店舗のグローバル展開というような世界市場に向けたプロジェクトを抱えている人が多いこと」と語ったとおり、今回も同ブースは具体的な成果を持ち帰れたようだ。彼らの手応えは、日本の他の伝統産業や企業にとってもヒントになるのではないだろうか。事実、大高さんは「日本では想像できないような大きなプレミアムマーケットが広がっている」と語っていた。


▲塚本カナエさんとタイガー魔法瓶がプロダクトデザインを手がけた「Maho Nabé(魔法鍋)」。会場ではアラン・パッサールさんがデモンストレーションを行った

そのほか、タイガー魔法瓶(ホール1)が欧州市場に向けて初めて投入した無水鍋「Maho Nabé(魔法鍋)」のデモンストレーションをパリの三つ星レストラン「アルページュ」のオーナーシェフであるアラン・パッサールさんを招いて行ったり、広島県安芸の瑞穂が熊野筆の技術を用いて立ち上げた化粧筆ブランド「SHAQUDA」(ホール5)として初めて単独出展したり。さらには、徳島の絹や(ホール7)がプロダクトとしてではなく藍染の革を素材として披露するなどして注目を集めていた。SHAQUDAの丸山長広社長は「デザイン、コンセプト、製品の背景をふくめて認めてもらえたという実感がある」と、絹やの山田明弘代表取締役は「自分たちの手仕事を信じて評価してもらえる場所。藍染は明らかに色の深みや質が違うと共感を得られた」とそれぞれ手応えを語った。

▲瑞穂の化粧筆ブランド「SHAQUDA」は、地域ブランドがデザイナーと組んだ成功例だ

▲藍染の革を展示した絹や

次回のメゾン・エ・オブジェは、2019年1月18日から22日まで。日本企業のさらなる進出とともに、新たな出会いにも期待したい。End

▲長崎県波佐見の西海陶器は、セバスチャン・バーンと組んだシリーズ「ha’」を発表