生誕100周年 アキッレ・カスティリオーニのエッセンスを集めた展覧会を開催。
ジョヴァンナ・カスティリオーニ、来日インタビュー

▲「シリアスな表情」をリクエストしたところ、いたずらっぽい笑顔で応じたジョヴァンナさん。

イタリアデザインの巨匠、アキッレ・カスティリオーニの生誕100周年記念展「”If you are not curious, forget it” -Achille Castiglioni」が、フロスのショールームで開催中だ。同展に合わせて来日したジョヴァンナ・カスティリオーニさんは、次女であり、アキッレ・カスティリオーニ財団の副社長。等身大のポートレートに囲まれながら、父アキッレ・カスティリオーニをめぐるストーリーをユーモアたっぷりに語ってくれた。

――アキッレ・カスティリオーニの娘であるあなたは、財団の活動に関わる前は、地質学の研究者だったそうですね。

2002年に父が亡くなった後、私の母が、アキッレのスタジオとアトリエを公開して、皆さんにご覧いただけるようにしようと決めました。ただ、私は地質学、兄は医学を専門にし、どちらもデザイン畑ではなかったんです。そんな私たちにできることと言えば、父とその作品をめぐるストーリーについて語ること。それをやっていくことにしたのです。現在も、私たち家族3人と、父と20年以上一緒に仕事をしてきたアントネッラと共に、アキッレの歴史的な資料を守り、伝える活動に取り組んでいます。

――ご自身の夢を諦めたわけではない?

夫が地質学者なので、一家に一人いればいいかと(笑)。私自身は、地質学とは別の在り方で、歴史やアーカイブを守り、伝えていくことができればいい。ですから、メアリー・ポピンズのように、おもちゃのたくさん詰まったスーツケースを下げて、旅を続けているわけです。

▲ユーモアたっぷりに父の思い出を語る。

「好奇心がないなら、やめちまえ」

――2018年はアキッレ・カスティリオーニの生誕100周年です。このアニバーサリーイヤーにどのような活動を行いましたか。

今年は、ミラノのスタジオと外部の会場で合わせて4本の展覧会を開催しました。現在スタジオでは、1984年にアキッレが家具メーカーのザノッタと一緒に制作した展覧会を再現した展示を行っています。彼は、自分がデザインしたふたつの照明のパーツを合体させて、特別な照明をつくったのです。その展覧会は34年前に、東京で行われたんですよ。

――春にミラノのスタジオで行った展覧会「100 ☓ 100 Achille Castiglioni」についても教えてください。

100周年のお祝いに、100人のデザイナーにお願いして、アノニマスなもの、そして値段の高くないものを贈ってもらいました。例えば、深澤直人さんはガーデニング用のグローブ。フィリップ・スタルクさんはペーパークリップ、ジャスパー・モリソンさんはホチキス、マルセル・ワンダースさんはクラッカーに使う装飾用の薄紙、パトリシア・ウルキオラさんはメジャー、バーバー&オズカビーはレモン絞り。さらにフロスのデザインチームからも贈られて、その数は今も増え続けているんです。

――なぜ「アノニマスなもの」をお願いしたのでしょう。

有名なデザイナーだからこそ、その人の目で見て面白いと感じているもの、誰がデザインしたか分からないような無名のものを持ってきてほしかったんです。本展のタイトル「”If you are not curious, forget it” -Achille Castiglioni」にもあるように、父の口癖は、「好奇心がないなら、やめちまえ」。好奇心はデザインの基本。常に好奇心を持ち続け、自分の頭のなかを更新していくことは、アキッレより若いデザイナーたちにも共通していると思います。

生き生きとポーズをとる等身大のアキッレ

▲アキッレ・カスティリオーニの等身大ポートレートが照明と共に並ぶ。

――本展「”If you are not curious, forget it” -Achille Castiglioni」では、どのような作品を展示していますか。

照明は、フロスのアーカイブを中心にセレクトされています。生産終了のもの、兄ピエル・ジャコモとの共作も含め、アキッレが時代とともにどんな提案をしていったかをご覧いただけます。

――等身大のポートレートが印象的です。

1984年にウィーンで行った展覧会のために、写真家のルチアーノ・ソアヴェが撮影したものです。父は派手なポーズを取るのがとても得意で、当時のポスターに「ミニ・アキッレ」をたくさんあしらったんです。今回はその写真を等身大にしているので、個人的に感慨深いです。このショールームは空間も光もいい具合で、「アキッレは現在も生きている」ように感じてもらえると思います。

――たいていタバコを手にしていますが。

ここは禁煙なのですが、まあ、フロスのショールームだし、アキッレだし、と今回は大目に見てもらいました(笑)。父はヘビースモーカーでずっとタバコを吸っていました。タバコは大切なパートナーだったんです。

▲奥は代名詞のような「Arco」。手前は今年復刻された「Ventosa」。

▲ジョヴァンナさんによると、アキッレは常にタバコを手にしていた。

ユーモアたっぷりの作品を復刻

――フロスとアキッレ・カスティリオーニの関係について教えてください。

フロスは、1962年にセルジオ・ガンディー二によって設立され、現在は息子のピエロ・ガンディーニがCEOを務めています。アキッレとピエル・ジャコモはフロス設立時からデザイン部門の責任者として関わっていました。設立の1962年は、「Arco」「Gatto」「Taccia」「Toio」と、一気に名作が生まれた素晴らしい年でした。

――今年は、アキッレの作品をふたつ復刻することを発表しました。なぜ、「Nasa」と「Ventosa」を選んだのですか。

どちらも、アキッレらしいユーモアのセンスと機能性を伝えてくれます。1974年に発売された「Nasa」は、こうやってコードを耳に引っ掛けると、必要な光がきちんと目元に来ます。私が子どもの頃、父はこんな風に鼻の穴に突っ込んで笑わせてくれたものです(笑)。

▲「Nasa」を耳にかけるジョヴァンナさん(上)。「Nasa」の電球を鼻のなかに入れ、「父はこうやって私たちを笑わせたものよ!」と真似をしてみせた。

「Ventosa」(1962年)は、ひじょうに機能的。文字通り、吸盤(ventosa)の部分を鏡や机の上、どこにでもくっつけて使うことができます。ほら、おでこにもくっつきますよ(笑)。好きなところに光を持ち運ぶことができるんです。今見ても、新鮮ではありませんか?

▲「Ventosa」の吸盤部分を額にくっつけてしまった……。

レディメイドを生かす理由

――アキッレは、どのように照明をデザインしていたのですか。

基本的には、フロスから「ベッドサイド用や、卓上用の照明をつくってほしい」といった依頼があって、それに応えていきました。どの照明も、まず機能ありき。その機能を実現するために、後から形をつくり出していったのです。

――その際、たくさんのレディメイド(既成品)を生かしています。

そうですね。この、ザノッタの「Sella」は、自転車のサドルやパーツを組み合わせたもの。「Grip」は水やり用ホースの取っ手が持ち手になっているし、どれも金物屋さんに売っているようなものばかりです。

▲「Sella」(上)、「Grip」

「Toio」だって、特別なものを使ってはいません。アメリカの自動車のヘッドライト、釣り竿のパーツ、スチールのスタンド、既存のACユニットにフロスのロゴを入れただけ。コードを巻き付けて、持ち上げるのも楽だし、とても便利です。すべてが美しく、機能的に融合しているのです。ちなみに父は、釣りが下手でした(笑)。

▲今年発表した「Toio」のリミテッドエディション(世界限定2,500台)では、ベースの部分がブラックのツヤ消しになっている。

――なぜ、彼はレディメイドに着目したのでしょう。

アノニマスなものに対するリスペクトもあったかもしれませんが、アキッレはよく、「生産ラインにはあまりお金をかけないように」と言っていました。レディメイドは、生産コストを高くしないでものをつくるひとつの方法でもあったのです。かといって、彼がデザインをしなかったわけではありません。既成品をそのまま使うのではなく、その組み合わせ方こそが、アキッレ・カスティリオーニのデザインだったのです。

人生を楽しみ、遊び心を忘れなかった

――アキッレ・カスティリオーニの作品は、単なる「便利な製品」ではなく、キャラクターのように、生きたパーソナリティや叙情性が感じられます。

その通りで、皆さん、本当に生身の人間がそこにいるような感覚を持たれるようですね。単に「イタリアモダンデザインの巨匠の作品」といった抽象的なものではなく、生きた人間の感性のようなものがダイレクトに伝わるのではないかと思います。

▲2017年にリミテッドエディションとして発売された「Snoopy」。アキッレはスヌーピー好きで、犬も好きだった。

――それはなぜだと思いますか。

アキッレは、最後まで明快であり続けました。純然たるものを見抜き、それを追求していました。そして、ずっと遊び心を忘れませんでした。著名な建築家/デザイナーは、常に大きなプレッシャーを抱えているものです。でも、父は自分のことを有名人だとは思っていなかったんです。自分自身の人生を十二分に楽しみ、にこやかに、元気に日々を送っていました。それがほかの建築家/デザイナーとは違うところだったように思います。間違っているかもしれないけれど、それが私なりのとらえ方なんです。

――ところで、アキッレは日本に来日したことがあるのでしょうか。

残念ながら来日したことはありませんでした。でも、日本に興味を持ってはいましたね。例えば、「AOY」という照明は、友人だったマックス・フーバーの奥さん(葵・フーバー・河野)の名前にちなんでいます。フーバー家ではたくさんの猫を飼っていて、アキッレは寒がりの猫が下に潜り込んで温まれるようにと、この照明の下に穴をあけたんです。

――これから、財団の副社長としてどんな活動をしていきますか。

このように、アキッレの作品ひとつひとつに物語があります。これからも、私たちはそれらの物語を皆さんにお伝えし、父のアーカイブを多くの方にご覧になっていただきたい。そしてなんとか、スタジオやコレクションを保存していきたいと思っています。End

▲左から、アキッレ・カスティリオーニ、ジョヴァンナさん、そしてアキッレと20年来共に仕事をしてきたアントネッラさん。全員がひとつの「家族」だ。 Photos by 西田香織

“If you are not curious, forget it” – Achille Castiglioni

会期
2018年12月5日(水) -12月12日(水)
11:00 –18:00(土日祝日除く)
会場
FLOS SPACE
東京都港区東麻布1-23-5 PMCビル 8階
TEL 03-3582-1468

Portrait photography: Luciano Soave
With the precious collaboration of Fondazione AchilleCastiglioni