ストックホルム・デザインウィークに見る、
北欧デザインの5つのトピック。

毎年2月に開催されるストックホルム・デザインウィークが、世界でいちばんクールなデザインイベントなのは確かだろう。それは、単にスタイリッシュなデザインがあふれるという意味でも、会期中に最高気温が-10度を下回る日があるという意味でもない。この都市には、そしてスウェーデンという国には、デザインの社会的意義を冷静に見きわめ、感覚に基づく表現であっても理性や抑制を重んじるところがある。2019年、現地で印象的だったトピックを5つにまとめて紹介する。

サステナビリティを創造の核に

▲Note design studioによるインスタレーション 「Snowtopped」。
Photo: Tarkett

近年、活躍の場を広げているデザイン事務所のNote design studioは、フランスの床材メーカーTarkettと組んだインスタレーションを昨年に続いて開催した。タイトルは「Snowtopped」で、会場としたのはストックホルム中心部のビルの屋上にある空間。

彼らは、Tarkettが1940年代からスウェーデンで製造してきた「iQ」という100%リサイクルできる樹脂製床材を使い、なめらかな曲面をつくり出した。その色合いや素材感も生かして、北欧の冬に見られる雪の吹き溜まりのような風景をつくり上げたのだ。

▲「Snowtopped」の会場からは、雪に包まれたストックホルム市街を一望できた。
Photo: Tarkett

▲Form Us With Loveのオープンスタジオは、デザインウィーク会期中の朝8時半から10時まで開催された。

ストックホルムで2005年に設立されたForm Us With Loveは、Note design studioとほぼ同世代のデザイン事務所だ。彼らはデザインウィークに合わせてオープンスタジオを開催し、自らの活動をプレゼンテーションした。

サステナビリティが活動の重要な指針だという彼らは、2017年にイケアの椅子「ODGER」を完成させている。これは木材由来の複合素材を活用し、金属のネジなどを一切使用せずにリサイクルを容易にした。また本ウェブサイトでも取り上げたBauxの吸音パルプパネルは、100%バイオベースでありながら耐火性や耐水性をそなえる。

スタイリングからブランディングへ

ストックホルム・デザインウィークの中核となるのが、郊外のメッセ会場で行われるストックホルム家具照明フェアである。約700という出展者数は、国際的なインテリア見本市としてはさほど多くないが、北欧の家具ブランドを中心に十分なクオリティをそなえており、見やすさにも定評がある。

▲ミラノサローネやパリのメゾン・エ・オブジェに比べると、1日で余裕を持って全体が観られるストックホルム家具照明フェア。

▲オフィス用のライティングボードを中心にラインアップするリンテックスの展示スタンド。

今年のフェア会場で特に目立ったことのひとつは、インテリアスタイリストのLotta Agatonの活躍だろう。彼女はリンテックス、カスタール、ストリングというスウェーデンの3ブランドの空間を手がけ、それぞれの世界観を明確な美意識をもって伝えていた。基本的にシンプルで、ミニマリズムを感じさせるが、同時に時代を超えた多様なインスピレーションが生かされている。

▲既存のホワイトボードを味気なく感じさせるような、細部までデザインされたリンテックスの製品。

オフィス向けのホワイトボードなどを主力商品とするリンテックス。あまりデザインと結びつかない商材のようだが、このブランドの展示を見るとイメージは一変する。機能を損なわない範囲で多様な色合いを取り入れ、ディテールや異素材の組み合わせで個性を与えている。スタイリングも、小物や色の使い方から照明の効果までさまざまに技がある。

▲基調はオーソドックスでも、時代の感覚をしっかり捉えたカスタールの展示。

カーペットブランドのカスタールの展示は、自然をモチーフとする色彩や質感と、それを人の技でつくり出すクラフツマンシップを感じさせた。ベージュ、グレー、その中間色であるグレージュ、また多様なグリーンの落ち着いた色彩が、さり気ない野性味をそなえて提示された。

▲ストリングの展示。インテリアの中では退屈な色という印象があったベージュは、昨今、トレンドカラーになった感がある。

1949年にニルス・ストリニングがデザインした収納棚を継承するストリングの展示も、Lotta Agatonが長年手がけている。今年はベージュを全体に使い、わずかな階調の違いできわめて洗練された空間をつくり上げた。インテリアスタイリングから出発して、空間のデザインやブランドのディレクションにかかわる事例は世界的に増えており、彼女の仕事もいっそうの発展が期待できる。

クラフトの新基軸

工業国として歴史を築いてきたスウェーデンは、コントラクト向けのオフィス家具メーカーの存在感が、ホームユースをメインとする家具ブランドより大きい。ただし北欧の国々に共通するクラフトの伝統が、スウェーデンにないわけではない。新しい小規模な木工ブランドの活動は特に興味深い。

▲ショップARKETのため復刻されたカール・マルムステンの椅子や、Matti Carlssonのテーブルを展示したTRE SEKEL。

▲TRE SEKELの展示より。

TRE SEKELはスウェーデン南部で2013年に創業。ブランド名は「3つの世紀」を意味し、グスタヴィアン様式の古典的家具、20世紀に活躍したカール・マルムステンのデザイン、そして現在のデザイナーの作品まで、職人技を用いたクリエイションを特徴とする。最近は、丸く薄い天板を太い3本の脚部が支えるMatti Carlssonによるテーブル「Hommage」が人気だ。

▲Dry Studiosの店内にある、コペンハーゲンのFRAMAのコーナー。

▲Dry Studios制作のキャビネット。壁の絵画も販売している。

ストックホルム市内に工房兼ショップのあるDry Studiosは、木工の家具や日用品を自作している。無垢材の風合いを生かし、時には材木本来の変色やひび割れも味わいとしつつ、精度の高いものづくりを行ってきた。店内にはコペンハーゲンのブランドFRAMAのコーナーもある。

日本と北欧の親近性

ストックホルム・デザインウィークでは、ミラノやパリとは違い日本からの出展を見かけることは少ない。しかし今年は家具フェアにTIME & STYLEが出展して、好評を得ていたようだ。また市内の展示でも注目を集めていたものがあった。

▲iwatemoの展示会場となったJacksonsは北欧ヴィンテージのギャラリー。赤いレリーフは往年のスティグ・リンドベリの作品。

▲iwatemoの展示。奥のスツールはハッリ・コスキネン、サイドテーブルの上の陶磁器はヴィッレ・コッコネンの作品。ラタンの家具はヴィンテージ。

イッセイ・ミヤケとのコラボレーションもあり、日本でも知名度の高いハッリ・コスキネン。そしてアルテックの元デザインディレクターで、キュレーターやリサーチャーとしても活躍するヴィッレ・コッコネン。このふたりのデザイナーが、岩手の木工、鋳物、陶磁器という3ジャンルの地場産業とコラボレーションしたのがiwatemoだ。ストックホルムでは、椅子、鉄瓶、テーブルウェアを世界で初めて発表。日本のものづくりにも造詣が深いふたりのデザイナーが、その特徴をそれぞれに捉えた。

▲日本の家具ブランド、ARIAKEはシンガポール出身のガブリエル・タンがデザインディレクターを務める。

▲ARIAKEの展示では、ガブリエル・タンの新ブランド、Originのアイテムも発表された。

昨年のストックホルム・デザインウィークでの展示が評判となった佐賀発の家具ブランド、ARIAKE。20世紀初頭に建てられてダンスホールや教会として使われた空間に、ノーム・アーテキクツ、アンデルセン&ヴォル、芦沢啓治らの家具を絶妙のバランスで配置した。ARIAKEは北欧のデザイナーも多く、この展示も現地のスタイリストを起用するなど、日本と北欧の親近性をブランディングに巧みに生かしている。

新興デンマーク勢の躍進

ミッドセンチュリー・デザインの回顧とも、数年来のニューノルディックのブームとも異なる、隣国デンマークの新興ブランドの動きには、センスの面で圧倒的なものがあった。製品よりもイメージが瞬時に広がる現代は、ブランドの規模が小さくても、世界中でファンを獲得することができる。センスとそのプレゼンテーション力に優れたFRAMAやFriends & Foundersをはじめとするこうしたブランドのあり方は、2020年代のインテリアの基調をつくっていくのかもしれない。

▲コペンハーゲンのFRAMAの展示「Spatial Sensibilities」は、その空間や環境を完璧に生かしていた。

▲創業者のひとり、イーダ・リネア・ヒルブラウンがすべての製品のデザインを手がけるフレンズ&ファウンダーズは2013年設立。

▲イーダ・リネア・ヒルブラウンによるフレンズ&ファウンダーズの新作椅子「Novel」。

北欧デザインは前進しつづける

▲オンラインで展開するhemの新作は、フランス人デザイナーのPauline Deltourによるラグ「Rope」。

ストックホルム・デザインウィークでは、環境、福祉、人権などの課題への先進性で知られるこの国が、デザインにおいても同様の意識をもって取り組んでいることが伝わってきた。特にサステナビリティに対する取り組みは顕著で、それが企業のステートメントだけに終わらず、アーティスティックな作風のデザイナーや若いデザイナーにも共有されていたのが印象深い。

一方、インテリアスタイリストの活躍や、デンマークなどの新興ブランドの展示は、伝統の継承とは一線を画した美意識の台頭を感じさせた。そのレベルの高さは、ミラノやパリを凌ぐものと言っていい。

日本に広く流布している北欧デザインのステレオタイプとは異なるところで、この地のクリエイションはダイナミズムをもって、美しく発展しつづけている。End