【対談】デザイナーと「ワクワクする金融サービス」をつくる
Takram田川欣哉×マネーフォワード辻 庸介

©井上佐由紀/Sayuki Inoue

デザイン・イノベーションファームTakramの田川欣哉がナビゲーターとなり、ビジネス、テクノロジー、クリエイティブの3領域をつなぐトップランナーを迎える連載「BTCトークジャム」。今回のゲストは、マネーフォワード代表取締役社長CEOの辻 庸介さんです。




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いいプロダクトには「想い」がある

田川 北米などではもうずいぶん前から、金融サービスのUXへの取り組みがありますが、まだまだ日本の銀行系のサービスはUXが悪いですよね。「お客さま第一」と言いながらも、対人サービスにすごく時間がかかっていたり。でも、辻さんが書かれた「FinTech入門」を読んでいたら、デザインという言葉がいっぱい出てきたんですよね。これはぜひお話を聞きたいと思って。

 それはうれしいですね。

田川 辻さんは本の中でUXやデザインの重要性について多くコメントされていますが、マネーフォワードでもデザインを意識した新規事業をいっぱい仕込んでいらっしゃいますよね。

 やってますね。失敗したものもありますけど(笑)。

田川 プロジェクトを立ち上げていくときのお話を聞かせてください。どんなかたちで新しいものをつくってきたんですか。

 B2Bではクラウド会計から始まり、給与、請求書、マイナンバー、経費の管理まで。マネーフォワード クラウドファイナンスのようなお金を貸し出すサービスもやっています。B2CではマネーフォワードME、MONEY PLUSやマネーフォワード Mall、自動貯金アプリ「しらたま」など、たくさんあります。つくってから壊して止めたものも数多くあります。
 仮説を元にデザイナーが小さなモックをつくって、ユーザーにヒアリングして、仮説が間違えていたらそれを全部壊して。そういうサイクルをグルっと回して「これでいけるな」となったら、ようやくエンジニアリングに取り掛かります。

田川 なるほど。プロトタイプ主導型ですね。

 今つくろうとしているサービスは「お金3.0プロジェクト」と呼んでいるもので、マネーフォワードMEがさらに進化した、新しいお金のユーザー体験ができるものです。ここでも仮説からバーッとモックをつくって、それをユーザーにぶつけて、プロトタイプをつくり、使ってみてダメだったら壊してということを繰り返します。金融サービスでこれを高速回転させている会社は日本にはほとんどないと思うんです。

▲田川氏もマネーフォワードユーザーのひとり。自動家計簿アプリ「マネーフォワードME」の利用者は700万人を超えている(2019年2月現在)。©井上佐由紀/Sayuki Inoue

田川 プロトタイピングを高速で回すフェーズから、商用実装のフェーズにいくと、その後は人海戦術でつくっていかなきゃいけない時期もあるじゃないですか。マネーフォワードでは、コンセプトメイキングや事業の立ち上げ、プロダクトの仕上げや運用など、それぞれチームが分かれてるんですか?

 プロジェクトによりますが、基本は一緒です。デザイナーがトップで、ふたりか3人で始めます。必要だったら徐々に人を増やしていく。難しいものは意思決定者がいないと進まないので社長直轄チームをつくりますが、僕も正解を持ってるわけではないので、議論しながらやっていく感じですね。

田川 最初にコンセプトをつくったメンバーたちも残っていて、一緒に育てていく感じですね。

 ええ。想いがないといいプロダクトはできないですから。他人から「これつくって」と言われても、それは楽しくない。最初の想いがやっぱり、いいものをつくる原動力です。

田川 そういう意味では、まさにスタートアップのような形式での新規事業創造ですね。

▲東京・田町のマネーフォワードオフィス。写真のフリースペースの奥には各自のデスクスペースがある。©井上佐由紀/Sayuki Inoue

 採算が取れているチームはリソースをすぐ自分たちに寄せようとしますよね。オープンイノベーションのためには、僕がここを断ち切らないといけないんです。銀行も最近は“出島”をつくって、場所を変えて新規事業をやられているじゃないですか。あれはすごく大事だと思いますよ。やっぱり同じところにいると……。

田川 確かにお互いに気にしちゃうんですよね。新規事業のチームも「俺たち、いていいのかな?」みたいに気を遣っちゃう。以前、世界的なイノベーション企業のヘッドの方と話したとき、「イノベーションは結局プロセスやフレームワークに落ちない」とおっしゃっていたのが印象的です。イノベーションが起きるのは、個人プレーの場合もあれば、チームのケミストリーの場合もある。その発生原理は多様すぎて一般化はできないとおっしゃっていて、面白いなと思いました。

 今、僕たちはAI融資の会社もつくってるんですが、ここから徒歩5分くらいのワンルームマンションにあるんです。社長直轄プロジェクトも場所を変えようかな。ワンルームとか、いいですよね(笑)。

▲辻 庸介(つじ・ようすけ)/1976年大阪府生まれ。京都大学農学部を卒業後、ペンシルべニア大学ウォートン校MBA修了。ソニー、マネックス証券を経て、2012年にマネーフォワード設立。新経済連盟幹事、経済産業省FinTech検討会合委員も務める。©井上佐由紀/Sayuki Inoue

プロダクトが好きでたまらない

田川 ところで、マネーフォワードの中でデザイナーはどんな立ち位置にいるんでしょうか。

 金融機関向けのプロダクトをつくるときは、ユーザーがどういうことで困っていて、銀行の課題はこういうものでというヒアリングから携わります。デザイナーがかなり上流から関わっていますね。

田川 そのデザイナーというのは普通のデザイナーなのか、ちょっと越境的にビジネスにも関心があるようなデザイナーなのか、どちらのタイプですか?

 ビジネスにも大いに関心があります。でも、なかなかそういうデザイナーはいないから稀少なんですよ。アイデアがあって、それを絵に落として、ユーザーヒアリングして、というサイクルをちゃんとビジネスサイドと話しながら回せる人というのは、日本ですごく枯渇している気がします。

田川 技術やビジネスとどう関係を持つかという視点を備えた人がどうしても少ない。今いる越境型デザイナーは自然発生的というか、たまたまそういうことが好きという人だけなので、全然足りていないですね。ここは、教育側の努力も必要です。

 ただ、最終的にプロダクトというのはエモーションで選ばれると思うし、人間はある一定の合理性を超えたら、完全にエモーションに基づいた行動をすると考えています。そのエモーションを満たすプロダクトづくりをデザイナーとしたいと思っています。

▲オフィスの各ミーティングルームの名前は、日本紙幣の歴代肖像人物にちなんだもの。©井上佐由紀/Sayuki Inoue

 金融サービスでは、あまりユーザーの気持ちが動かないんですよ。ずっとやってきたけれど、あまり面白くない(笑)。僕は「ポケモンGO」は最高だなと思ってて。ああいうふうに貯金ができるアプリがあったら、楽しいじゃないですか?

田川 きっと楽しいですね(笑)。

 そういう世界をどうやったらつくれるのか。うまく言えないですが、そこはデザイナーのエモーションに頼る場面だと思っているので、すごく興味があります。

田川 辻さんは、やっぱりプロダクトがお好きなんですね。

 めちゃくちゃ好きです(笑)。かつて僕がいたソニーやマネックスはすごくビジョナリーな会社ですが、いいときも悪いときもありました。いいときはプロダクトが引っ張っているんですが、悪いときは売り上げやコスト削減が叫ばれ、みんなが活力を失って楽しくなくなるんですよ。僕はワクワクするところにいい人が集まって、結果いいものができると信じているから、プロダクトでワクワクすることをいちばん大事にしているのかもしれないです。

田川 社歴の長い上場企業では、自社のプロダクトを一度も使ったことがない経営者もたくさんいます。でも、プロダクト好きの社長に代わると、社内議論が盛り上がってプロダクトが蘇るような事例もあって、本当に面白いですよね。

▲マネーフォワード創業当初は辻氏も自ら手を動かして人工言語への理解を深めていた。

定量を追うと、定性が殺される

田川 マネーフォワードでは、ユーザーに向き合うためにデザインの力があって、それを会社に役立てようというお話でした。これはプロダクトの質的な話ですよね。一方で、会社は上場もしていて、ビジネス的な説明もしなくてはいけない。これはどちらかと言うと、数や量の話になります。辻さんの頭の中では、両者の整合性をどのように取っているんですか?

 僕も悩んでるんですよ。前提として、定量のほうがわかりやすいです。売り上げなどの数字をKPI(重要業績評価指標)にしたほうが、コミュニケーションとして伝わりやすいので、そうしがちなんですけど、僕は「定量を突き詰めすぎると、定性が殺される」と思っているんです。
 お客さまに対する提供価値とか、お客さまの期待に応える姿勢というのが中長期の成長にとっては絶対に必要だと思います。これこそが「ブランド」だと思うんです。それが極端な話、「広告でメールをいっぱい送ったら売り上げが立ちます」「プロダクトの中にこういうものを入れたら課金率が上がります」という手法を取ったらダメだと思うんです。定量を取るために定性が犠牲にされることが結構あるので、僕は社内で定性の価値を言い続けています。

田川 放っておいても量の話は出てくるから、逆に定性のメッセージをしつこく言うんですね。

 そうです。実は、悩んでいることがもうひとつあるんです。デザイナーで、組織マネジメントに長けた人材って、まだまだ少ないですよね。

田川 大企業だったら、自動車会社にも家電メーカーにも、マスプロダクションを回すことに長けたデザインマネージャーがいます。でも、デジタル系のスタートアップはまだ歴史が浅いですから、ニーズは増えていますが足りていません。そもそもデザイン組織が数十人とか100人にまで到達した会社は、日本では数えるぐらいしかないんですね。僕もそうした会社のデザイン組織の設計をお手伝いしています。

 まさに僕らはその過渡期です。上流でサービスのコンセプト設計から、モックをつくって高速で回転させる仕組みやノウハウまで深掘りする「サービスデザイン戦略室」のようなチームをつくるのが次のフェーズです。

田川 昨年ぐらいから、スタートアップ界隈ではCXO(チーフ・エクスペリエンス・オフィサー)を置こうといった流れが加速していて、新しいフェーズに入ってきています。横のつながりも結構できて、少しずつコミュニティができつつあるんですよ。1社だけでやる方法もあるんですが、いろんな人たちのベストプラクティスを集め、業界全体としてクオリティを上げていく流れができるといいですよね。

 デザイナーのできることはすごく広がっているし、面白い動きですね! 僕もナレッジシェアリングして、みんなで高めていったほうが断然いいと思います。

田川 マネーフォワードのプロダクトはデザインが洗練されているので、みんな「どうやっているのか」と思っていることでしょう。そうした知識をみんなでギブし合う場所ができたらいいですね。End


▲田川欣哉(たがわ・きんや)/1976年生まれ。Takram代表。東京大学機械情報工学科卒業。ハードウェア、ソフトウェアからインタラクティブアートまで、幅広い分野に精通するデザインエンジニア。英国ロイヤル・カレッジ・オブ・アート客員教授・名誉フェロー。©井上佐由紀/Sayuki Inoue

ーーマネーフォワードの新規事業づくりには、デザインやプロトタイプが駆使され、トップ自身がしっかりコミットしています。マネーフォワードのプロダクトが使いやすい理由が今回よくわかりました。一方で、辻さんのような先駆的な経営者をサポートするデザイン人材はまだまだ足りていません。デザインの活躍場所がここにもあります。(田川)




本記事はデザイン誌「AXIS」198号「鉄道みらい」(2019年4月号)からの転載です。

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