デザインスタジオ
「YOY」インタビュー。
空間とモノの間をデザインする

▲音楽と同期して歌詞が表示される次世代型スピーカー「COTODAMA Lyric Speaker」(2018)

近年、世界的にデザインとアートの境が曖昧になり、アート的な要素が感じられる作品を生み出すデザイナーも増えている。彼らはデザイン界に新風を吹き込み、新しい時代を拓く存在として期待されているが、そのなかで注目したいのは小野直紀と山本侑樹によるデザインスタジオ「YOY(ヨイ)」だ。建築とプロダクトという出自の異なる2人の思考と感性が掛け合わさり、暮らしに彩りを添える遊び心のあるデザインを送り出している。

▲「PEEL」(2012)。有機ELを用いて薄さを追求し、電源コードを壁の隅に沿わせて目立たなくした。プロトタイプ。すべての写真/YOY、Photos by Yasuko Furukawa

異なる領域の思考でデザインする

小野直紀は、大学で建築を学び、山本侑樹は、大学で製品デザイン科を専攻。卒業後、別々の会社でそれぞれ空間デザイナー、プロダクトデザイナーとして働いていた2人は知人を介して知り合った。

建築とプロダクトという領域の違いからくる視点の差や共通点にも興味を持ち、一緒に何かをつくってミラノサローネで発表しようと考えた。YOYというユニット名のもと、2012年にサテリテで「PEEL(ピール)」を発表。壁の端がめくれて光が漏れているように見えるが、実は三角形の部分が取り外し可能な照明器具である。

▲「BLOW」(2012)。A4サイズの薄いスチールを型で曲げて成形した棚。イタリアのプリモピアノ社から3種類が製品化されている。

YOYというユニット名は、2人の名前の頭文字と、「2人が良いと思うものをデザインする」というコンセプトの「良い」をかけて付けた。活動の主軸には、それぞれが得意とする建築とプロダクトの関係性を考え、「空間とモノの間」をデザインすることを置いている。

「PEEL」をはじめ、風によって紙が舞う瞬間を見ているような棚「BLOW」、壁に光のシェードが現れる「LIGHT」など、いずれもモノ単体だけでなく、それがあることで空間全体が豊かになることを心がけているという。

▲「LIGHT」(2014)。ソケットを模した頭部にLEDが組み込まれている。プロトタイプ。

ディズニーランドのようなデザインを目指す

2019年4月に松屋銀座のデザインギャラリー1953で企画展「自生するデザイン by TAKT PROJECT/we+/YOY」が行われた。そのトークイベントで小野が語った「ディズニーランドのようなデザインを目指している」という言葉がひじょうに腑に落ちた。

YOYが目指しているのも、人を楽しませる、エンターテインメントを与える物をつくること。また、ディズニーランドは夢の国であることから、地上には現実の世界を見せないように物資やゴミの運搬、キャラクターの移動のための地下通路を設け、キャストが休憩する建物を来場者の目に触れない場所に配置するといった設計上の妙がある。YOYの作品も同じように、裏側やディテールに多様な創意工夫を凝らしている。

▲「COTODAMA Lyric Speaker」(2018)。壁に立て掛けられた2枚のレコードジャケットをイメージしてデザインを考えた。COTODAMA社が製造・販売。

2018年に発表した音楽と同期して歌詞が表示されるスピーカー「COTODAMA Lyric Speaker」も、表には見えない部分に配慮がなされている。

手前のボードには、歌詞を表示するためのモニターが組み込まれ、背面がスピーカーだ。音響設計者とともに、スピーカーにとって必要な容積率からサイズを割り出し、基盤や低音を出すための空気孔などは背面に納めた。また、ハイテクな部材や高度で複雑な技術ではなく、モニターもスピーカーも安価で一般的なものを使い、製造工程もできるだけ少なくして簡素なつくりにしたという。それらは「量産」を念頭に置いているからだ。

▲「SCRIBBLE」(2012)。落書きをモチーフにしたシリコン素材のテーブルマット。MoMA Design Storeがコースターとランチョンマットを製品化して販売。

量産を念頭に置く

「量産」することは、モノづくりをするうえで外せない、彼らのこだわりの部分である。小野は「特別な人に向けてつくっているのではなく、子どもからお年寄りまで、自分の祖父母や両親、甥などが使うことを想定してデザインを考えている」と言う。

山本は家電メーカーに勤めた経験も含めて、「量産することはプロダクトデザインにとって重要な要素」と語る。「CGでつくったコンセプトモデルをWebで発表するという提案だけでは終わりたくない。つくったモノが人の手に渡り、生活のなかで使ってもらうことが、デザイナーにとって一番の喜びだと思います。アイデアを形にしていくときに価格や素材、製造、安全面など、クリアしなければいけないことがたくさんあり、そういう部分をきちんと考えてデザインや設計をすることは、モノをつくる人の責任だと思うのです」。

▲「CANVAS」(2013)。イギリスのインナーモスト社がソファとアームチェアを製品化して販売。

「CANVAS(キャンバス)」は、伸縮性のある生地に椅子の絵が描かれた、木とアルミで構成されたキャンバス型の椅子であり、実際に座ることができる。この椅子も含めて、彼らがつくるものは量産品ではあるが、「世の中に必要のないもの」だという。

「近年、課題解決や効率を重視した、ビジネスを目的としたデザインが主流ですが、それとは違うデザインがあってもいいのではないか」と小野は考えている。なくても生死には関わらないが、あることで精神的に豊かになれるもの、ディズニーランドのようなエンターテインメント性をもったものという意味だ。だが、それはデザインの本流から外れたもの、アート的と見られることもある。

▲「SHELF」(2019)。壁面に取り付ける本棚、花器、写真立て。プロトタイプ。

アート的、作品と言われることについて

かつてのデザイン界では、製品のことを作品と呼んだり、アート的と言われたりすることは批判と捉えられた。彼らはそういう論争を知らずに育った80年代生まれのデザイナーだが、「アート的」、もしくは「作品」と言われることについてどのように感じるのだろう。

山本は「常に全エネルギーを注いで、わが子と思って生み出しているので、自分たちがつくったものはむしろ作品と呼びたい。アート的と言われるのは、芸術を見たときのような強さやインパクトを作品に感じてくれたと思うので嬉しい」と言い、小野は「デザインというのはアイデアを実現するプロセスのことであって、アウトプットしたものはデザインではなく、作品と呼ぶほうが相応しいと考えている」という見解だった。

▲「SOLIDITY」(2019)。コンクリートの塊のように見えるスツール。プロトタイプ。

小野は続けて語る。「ミラノサローネには、実質的には必要のないものがあふれています。なぜ多くのデザイナーは皆いらないものを一生懸命つくるのか。そこに何か意味があるような気がして、今もその意味を探しているところがあります」。ミラノサローネには毎年、作品を発表して賞も獲得、2019年で8年目となる。

毎回、「FICTIONALITY(虚構性)」や「EXISTENCE(存在)」といったテーマを決めて、空間とモノ、デザインとアート、虚構と現実、二次元と三次元など、その間を行き来しながら独自の視点で考えたエンターテインメント性のある作品を発表しつづけている。

▲「TRUNK」(2017)。木の幹を3Dスキャンして型をつくり、特殊な溶剤とプレス機で布に樹皮のテクスチャーをつけた。デンマークのクヴァドラが製品化して販売する。

今後、挑戦してみたいことを尋ねると、小野は「ファッションに興味がある」と答えた。「服は、僕らが興味のあるまさに二次元と三次元の間のもの。ファッションの考え方でプロダクトをつくる、あるいはプロダクトの考え方でファッションをつくってみたいと思っています。テキスタイルにも興味があって、新素材だけでなく既存のものも、これまでにない使い方を考えてみたいですね」。

山本は「これまで手がけたことがない、つくったことがないジャンルのものをYOYの考え方で、YOYとしてつくったらどうなるかということに、これからも挑戦して発見していきたいと思っています」と意欲を語る。これまでサローネで発表して製品化されたのは、まだ海外のメーカーだけということで、今後、日本ではどのような企業とコラボレートするのか楽しみである。End


小野直紀(左)/空間デザイナー。1981年生まれ。2008年京都工芸繊維大学建築設計専攻卒業。山本侑樹/プロダクトデザイナー。1985年生まれ。2008年金沢美術工芸大学製品デザイン科卒業。YOY/2011年に小野直紀と山本侑樹が設立したデザインスタジオ。「空間とモノの間」をテーマに家具や照明、インテリアの分野でデザイン活動を行う。ミラノサローネのサローネサテリテ特別賞、レッド・ドット・デザイン賞など、受賞歴多数。2015年より武蔵野美術大学非常勤講師を務める。http://yoy-idea.jp/jp/