3人のアーティスト×Honda自由運転
福原志保さん/アーティスト
「ドライバーも自由だけど、周りの人たちも自由になるのがすごく大きい」

前回の前田有紀に続いて、本田技術研究所にやってきたのはバイオ領域で活動するアーティスト、福原志保。

国内外の旅先で、もっと活動範囲を広げたいとクルマのマニュアル免許取得目前の彼女が、Hondaが自動運転を使って考えた未来のモビリティコンセプト、考える未来の自動運転コンセプト、「自由運転」を体験。ヒールのまま乗り込んだシミュレーターで感じた、身体とインターフェイス、クルマと人との未来の関係とは?

▲3人のアーティスト×Honda自由運転—Sensitivity of 3 artists|福原志保さんの場合
映像:山田修平(HANABI.inc)

――自己紹介をお願いします。

アーティストの福原志保です。主に、バイオテクノロジーを扱った作品を作っています。

本物の細胞や本物の生物のようにふるまう人口細胞と呼ばれるものなど、生きているようで生きていない生物も対象です。

例えば、細胞というものは油膜、つまり油でできていますが、水にオイルを垂らすと油でできた皮膜というものが生まれます。そこにちょっとした操作をすると、まるで自分で意思を持っているかのように、ダンシングしたり、くっついたり離れたり、動き回るんです。それがあたかも本物の生き物のように見えるんですね。

実は今、生命の定義が難しくなっちゃっているんですよ。生きているのか、生きていないのかが分からなくなってきている。生きていないのに生きているように見えることを、「生命らしいふるまい」と言います。特に、「これって死んでいるの?」というのは、生物学的に非常に定義しにくいことになっています。

――普段クルマに乗っていますか。

ちょうど今、教習所に通っていて、そろそろ免許が取れそうです。残すは筆記試験ですね。

免許を取ろうと思ったのは、自分で運転できないのが悔しくなってきたから。日本やヨーロッパの工場によく行くんですが、タクシーがないような所ばかりなので、レンタカーを借りて誰かに運転してもらっています。工場に行ったあとの自由時間も、どこかに行くときは人に運転を頼まなきゃいけないので、気をつかってしまって。

温泉とか、自分で運転して行けるようになったらなって。ヨーロッパのレンタカーは、マニュアルが多いと聞いたので、思い切ってマニュアル車の免許にチャレンジしています。

教習所で、最初に運転したときは本当に怖かったですね。教習中に、「息をするのを忘れないでくださいね」って言われたくらい。体が硬直して、肩が凝っちゃって。仮免の実技試験も、「あなたの場合は50:50だね」と言われました(笑)。それでも本番に強いのか、実技試験には通りました。

運転中は内心焦っているので、「右に行って」「左に行って」と言われても、とっさに反応できないんです。

――自由運転の感想を教えて下さい。

最初、自由運転って聞いて、「ん?」と思ったんですよ。そもそも、運転が自由じゃないって発想がなかった。自由ってところにフォーカスすると、そう言われてみるとそうだったかも、とも思いました。

今回、このシミュレーターを体験したことで、運転中は、自分が体の動きや感覚を抑制していることに気付いたんですね。特に私は運転初心者なので、運転中はもういっぱいいっぱいなんです。音楽も聴いてられないし、誰かに話しかけられるのも嫌。そんな緊張感がいつもあったんですけど、自由運転ではそういうことから解放されました。

普段教習所で運転しているときって、視界がすごく狭くなっているんです。初めて運転したときなんて、3メートル先しか見えなかったくらい。それもあって、視界が広いなって思いました。

クルマって、フロントガラスがあって、ドアガラスがあってというふうに、窓が細かく分かれているけど、それがちょっと邪魔だなと思っていたんです。でも、これにはそれがないから、視界がすごくパノラミックでした。

――この部屋に入ったときの第一印象は?

なんとなく見覚えがあるけど、なにか違うというものがどーんと置いてある。それで実際に座ってみると、なにか違うなっていうのがもっと明確になりました。

――というと?

このクルマにはアクセルペダルもブレーキペダルもないので、靴を履き替えなくてもいいんだ、というのが分かりました。私はいつもヒールを履いているので、教習所では共用の靴を借りていたんです。

ぺダルがない、ステアリングだけというインターフェースに対しては、「せっかくマニュアル車の運転をマスターしたのに」って、少し寂しくもなりましたね。教習所でマニュアル車に慣れてきてからは、運転が楽しいって思えるようになっていたので。

マニュアル車を運転する楽しさは、やはりクルマと身体性の一体感です。エンジン音に合わせてシフトを操作するといったように、クルマの言語を理解して扱ってやることで、「言語観が違う相手とコミュニケーションをしている」という感覚が生まれてくるからです。

――クルマのデザインはどうでした?

インテリアは、シンプルで余計なものをそぎ落としているけど、快適性はすごく追求されている。このまま海外旅行に行けたらいいなと思いました。寝ながらでも移動できるし、いつまでも降りたくないですね。乗りすぎて、シートがへたっちゃうんじゃないかっていうくらい。それくらい、ずっと乗っていたいって思いました。

意外だったのは、「まだクルマの形を残すのか」ということ。でも、こういった外観だからこそ、なにも言われなくても一目でクルマだとわかりました。未来のクルマを知らない人でも、これが近づいてきたら一発でクルマだと分かる。分からないとびっくりしますもんね。

たとえば大きな四角い箱が近づいてきたら、「迫ってこられる」というプレッシャーを感じてしまう(笑)。私達は、何十年もかけてこういう形を見慣れてきたので、受け入れやすいんだと思います。

――運転が自動化することへの不安は?

運転の楽しさは、自分の意思で「右に行きたい」「左も気になる」っていうのをシームレスにやっていくことだと思うので、自動運転だと、座って連れていってもらって、それで終わり。「ならタクシーに乗ればいいじゃん」という感じにもなると思うんですね。

私は運転初心者なので、運転を楽しむという感覚はまだそんなにありません。でも、昔から、運転すること、自分の意思でどこかに行くということにはすごく憧れがありました。最初に運転したときの、怖いけどセンセーショナルな感覚。慣れた頃の、楽しいかもっていう感覚。日常の中でそういう感覚が薄れていくと、人間はどんどん駄目になっていく。それはもう完全に、機械ないしテクノロジーにコントロールされてしまっている状況です。

基本的に人間は楽な方をチョイスする動物なので、自動的に一定の区間だけを移動していると、どんどんなまけものになっちゃう。身体感覚とか、クルマとの一体感を楽しむ感覚とか、そういったものが薄れると思うんです。これは、マニュアルからオートマになって、クルマとの一体感が薄れたということにも近いんですけど。

――自動運転時代に期待することは?

自動運転ができるようになったら、「そもそもクルマってなんだっけ」というのを再度考えることになると思います。

実は私、2年ほど、ホテル中心のノマド生活を続けていた時期があるんですけど、「このクルマがあれば家はいらないな」と思いました。いろんな街におじゃまして、知らない人のガレージやキッチンだけを借りて、そこに泊まることも可能になるのかなと。仕事も、クルマの中ですると思うんですよ。ヘッドセットを装着して、ビデオコールでミーティングしたりとか。私は今でもタクシーの中でやっていますけどね。言い出したらきりがないです、こうしたいああしたいっていうのは。

走っているクルマに生身で近づくのも怖くなくなるのかなとも思いました。最近カスタムバイクをオーダーしましたが、久しぶりに自転車に乗ると、やっぱりクルマが怖いです。どう動くか分からないから。

でも、相手がこの自由運転のクルマなら安心して近寄れるので、自転車の人も、歩く人も、ストレスフリーになる。運転手も自由だけど、周りの人たちも自由になるっていうのはすごく大きいですよね。
(テキスト/近藤彩音 編集/廣川淳哉)

▲写真:谷本夏 ヘアメイク:ERI

3人のアーティスト×Honda自由運転 その他のストーリー


人にもクルマにも安全な完全自動運転でありながら、ドライバーが自由に運転を楽しめるHondaの未来のコンセプト「自由運転」が、DESIGNART TOKYO 2019に出展。会場では、初公開となる自由運転のシミュレーターを展示予定。End

HONDA R&D X SHUNJI YAMANAKA

公開日
2019年10月21日(月)〜22日(火)
会場
Honda R&D 原宿サテライトスタジオ
東京都渋谷区千駄ヶ谷3-60-2
詳細
http://designart.jp/designarttokyo2019/