暮らしのなかに溶け込む素直な日用品を目指して、デザインスタジオBouillon(ブイヨン)

▲「GARNITURE Series」(2019)

共に1987年生まれの服部隼弥と那須裕樹によるデザインスタジオBouillon(ブイヨン)は、愛知県を拠点に2016年から活動している。2019年は初の個展を開き、製品化第1号となる家具「GARNITURE Series(ガルニチュール シリーズ)」がイデーから発売され、彼らにとって記念すべき年となった。活動を始めてまだ4年だが、これまでを振り返るとともに、これからの展望を聞いた。

▲「GARNITURE Series」(2019)。大小のバスケット、2種類の高さのポールの付いたハンガースタンドの4つのアイテムがある。グレー、ベージュ、レッドの3色展開。

大学時代の学びが活動のベースに

ふたりは名古屋芸術大学で知り合った。専攻は、スペースデザイン。そこで家具やインテリア小物だけでなく、人、食べ物、時間、すべてが空間デザインであると学んだ。

服部は、デザインとは「生きていくすべて、人生を考えること」につながると知り、那須は「形や仕組みをつくるだけでなく、ハードとソフトをつなぐ中間領域を考えること」が大事だと気づき、その後の彼らの活動指針になった。

▲「SHUDEI series」(2016)。テーブル、シェルフ、照明なども展示で発表した。

家具を「温める」という発想

大学時代から将来、ものづくりに携わりたいという思いを抱いていた彼らは、卒業後、ミラノサローネ・サテリテへの出展を目標に掲げて、2015年秋にユニットを結成した。

その頃、愛知県常滑市の陶器産業に関する話を関係者から聞いた。近年、日本では良質な陶土が減少し、輸入に頼らざるを得ない状況にあるという。彼らはさらに、常滑の市役所や陶器資料館の学芸員ら、さまざまな人にヒアリングしリサーチを重ねた。やがて、すべての問題を解決できなくても、焼き物の魅力を掘り起こすようなものをつくれるのではないかと考えた。

▲「Warm Stool」(2016)。焼成の仕方によって朱と黒の2色に変化する、常滑焼で親しまれる土「朱泥(しゅでい)」を用いた。

まず最初に家具を考えた。焼き物の家具というと、屋外用ベンチはあるが、ホームユースはなかなか見当たらなかった。「硬い、冷たい、割れるという、家具には不向きの要素ばかり。けれども、急須や湯呑みはお茶を淹れたときに温かくてホッとできる、いい印象があり、プロダクトとして愛着がもてる。そう考えていくなかで、温める家具という考えが生まれました」と服部は語る。

最初はまったく異なる形状からスタートし、その後、試行錯誤を重ねて誕生したのが、素材の温かみと肌触りを生かし、湯たんぽの機能をもたせた「Warm stool(ウォームスツール)」だ。2016年のミラノサローネ・サテリテに出展し大きな反響を得て、サローネ・サテリテ・アワードのセカンドプライズを受賞。彼らの活動は、このWarm stoolが出発点になった。

▲「国産材と丸太」というテーマのもと、デザインを考えた「Log stool」(2015)。

丸太の研究会から生まれた家具

Warm stoolの試作を検討しているときに、大学の恩師から誘われ参加したのが、助成を受けて設立された「丸太の研究会」だった。製材前の丸太の研究を目的に数名のデザイナーが参加し、2015年から2017年の3年にわたって活動した。

石川や静岡の製材加工会社、岐阜の飛騨の森でクマは踊る(ヒダクマ)らの協力を得て、現場を訪れ、丸太の概念、木取りや加工法などについて学び、木にまつわる仕事をする人々と意見交換を行った。

▲「Extra」(2017)。長さを揃えるために切られた丸太の両端部分を用いて、スチールと合わせてデザイン。2019年IFFTでも発表された。

 

研究の成果として、参加したデザイナーがそれぞれ家具を製作して展示会で発表した。しかし、家具を製品化するためには、生産体制を構築するところから始めなければならないという課題が見えてきた。研究会は一旦終了したが、Bouillonのふたりは引き続き検討を重ねている。

▲上から「Baton Chair」(2016)、「Baton Lamp」(2017)、「Baton Table」(2017)。照明とテーブルは、2017年にイデーショップ自由が丘店でディスプレイされた。

イデーや荒川技研工業とのプロジェクト

Warm stoolは製作技術面での課題が多く、製品化は難しいが、そのデザインに魅力を感じ、別のプロジェクトを依頼された。そのひとつが、イデーが取り組むアップサイクルプロジェクトだ。

Bouillonは、中古のパイプ椅子や体育館の照明ガード、会議用の長机をアップサイクルした「Baton」シリーズを提案。その後、イデーとは新たな家具開発を手がけることになり、彼らの製品化第1号となる「GARNITURE Series」を2019年に発表した。フランス語のガルニチュールは「料理の付け合わせ」という意味で、多彩な用途で使用でき、生活に豊かさをもたらすエッセンスのような役割になればという願いを込めた。

▲2018年の「Experimental Creations」で発表した「Position」。Photo by Junya Igarashi(写真下)

イデーのように、ひとつのプロジェクトがきっかけとなり発展していったケースはほかにもある。2018年に荒川技研工業TIERS GALLERY(ティアーズギャラリー)Experimental Creationsが開催され、Bouillonも参加したのが縁となった。展示のテーマは、同社が世界で初めて開発したワイヤー用自在固定金具「アラカワグリップ」の新しい可能性を探るというもの。

Bouillonは、ワイヤーとグリップの関係性や使用範囲を捉え直し、屋内外の空間で恒久的に使用するものの可能性を探った。素材の形状や構造、硬さやテクスチャーにも着目して製作したのが、10種類のアタッチメントパーツである。

▲荒川技研工業の表参道ショールームの一角。Photos by Hiroshi Tanigawa

▲2019年に開催された初個展「Umami for Life by Bouillon」の会場風景。Photos by Hiroshi Tanigawa

その展示作品に興味をもった荒川技研工業から、ショールームにある打ち合わせスペースのデザインを依頼された。吸音効果のあるフェルトをアラカワグリップで吊るしてパーティション代わりにしたほか、合板の木製棚やテーブル、椅子を配し、リラックスして話し合いができるように温かみのある空間を創出した。

▲(上)ラタンにスリット加工を入れて有機的な曲線を生み出し、多彩な可能性を提案する「Organic Stand」(2017)、(下)街づくりのプロジェクトから生まれたアクセサリー「瓦のジュエリー 」(2018)。瓦の美しい輝きや曲線の魅力を身近に感じてもらうことを考えた。

立ち位置や方向性を再認識した、初個展

2019年にはTIERS GALLERYにて、彼らの初個展が開催された。これまで手がけたものをすべて展示し、一角には実際の生活空間のような演出をほどこした。丸太、籐、瓦、藁など、プリミティブな素材を扱うことが多い彼らは、素材からアイデアを得ているように思われがちだが、特に素材にこだわりがあるわけではなく、自分たちから選んだこともないという。

「プロジェクトのお話をいただいて、そこで何をつくろうかと考えたときに自然と出会うのが素材。それも新素材ではなく、旧知のものや廃材などで、まだ気づいていない魅力を掘り起こすことが多いですね。それはまさに今という時代性を反映していて、僕ら世代のデザイナーに課せられた使命と言えるかもしれません」と服部は考える。

▲富山デザインコンペティションに入選した「fog」(2018)。内側にフロスト加工を施すことで、注いだ液体のぶんだけ透明になる。

▲「Owaranai/Clock&Mirror」(2016)。展示会場となった明治初期建造の旧家に残っていた藁の道具に着目。リサーチを重ね、昔は藁を各家庭で循環させて使用していたと知り、現代の日用品を考えた。

初個展を終えた感想を聞くと、彼らにとって「これまで」と「これから」を考えるいい機会になったという。

服部は「今まではひとつひとつこなしていくのに精一杯でしたが、これまで手がけたものを俯瞰して見ることができ、そこから自分たちの手がけるデザインや取り組む姿勢に通底するものが見えてきました」と話す。那須は「丸太のように実際の素材がある場所と市場や社会を結び合わせるために、自分たちがどう動くか。それが僕らデザイナーの役割だと改めて感じました」と語った。

▲「Tsukushi」(2019)。「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT 2018」のために製作した、陶製の文具。

手がけたプロジェクトはすべて形にしたい

製品化されたものはまだ「GARNITURE Series」だけだが、これまで手がけたものは継続中のものや途中で止まっているものもあり、「時間がかかっても、すべて入口から出口まできちんとアウトプットに結びつけたい」と意気込む。

目指しているデザインは、「暮らしのなかで素直に使えるもの」。服部は「格好いいものは好きだけれど、過度に格好良すぎるものではなく、余計に楽しい必要もなく、めちゃくちゃ便利でなくてもいい。暮らしのなかにスッと自然に置けて手に取れる、素直さがあるものをつくりたい」と述べ、那須も「ストイックにならないように、自分たちにとっても無理のないデザインを考えていきたい」と言う。昨年の初個展には、中部地方から足を運んでくれた人がいたり、製品化が決まったりと、その地道で真摯な姿勢やデザインの魅力はもとより、彼らの真の価値に気づく人が少しずつ増え始めているようだ。End


Bouillon(ブイヨン)/服部隼弥(左)と那須裕樹によるデザインスタジオ。共に1987年生まれ。2010年に名古屋芸術大学スペイシャルデザイン専攻を卒業し、2016年にBouillonを設立。2016年のサローネサテリテ・アワードで2位を獲得。素材や背景を丁寧に解釈し、自然なアプローチでものづくりに真摯に取り組むことをモットーとする。Bouillonとは、料理のように素材の旨味を生かし、シンプルながら癖になる旨味の効いた暮らしを提案したいという思いから付けられた。