手づくりゆえの違い、木の節やひび割れ。
デザイナー横田純一郎が問う美しさ

▲「Woods Box」AJOY(アヨイ) Photo by Nanako Ono

デザイナーの横田純一郎は、情報機器メーカーでの経験を経て、今年独立したばかり。2020年2月には、個人の活動としてつくり続けてきたものを初めて展示会で発表した。ほんの少し見方を変えるような、ユーザーの価値観を転換させることを目指し、量産と手仕事、製品と作品の間にあるようなものづくりを展開する。そんな横田にデザインに対する考え、今後の意気込みなどをFaceTimeで取材した。

▲「Frosted Glass」AJOY 底面にブランド名が記されている。Photo by Nanako Ono

自分のデザインのかたちを求めて

小学生だった80年代、世界中から注目を集めていた日本製の家電の造形美に魅力を感じ、そこから物に興味を抱くようになった。金沢の専修学校でプロダクトや家具デザインを学び、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェン大学で海外のデザイン教育に触れた。

アイントホーフェン在学2年目にインターン制度を利用し、nendoに半年間勤めた。その後、インハウスデザイナーとして携帯電話やモバイルルーターといった情報機器のデザインに従事。次第に、チームで考え量産品を開発するメーカーの仕事とは違うベクトルのものづくりに興味が湧いてきたという。「自分のデザインのかたちとはどういうものか、突き詰めてみたいと思ったのです」と横田は語る。

▲「Frosted Glass」AJOY 来客時のコップとしても、ちょうどいいサイズ感。Photo by Nanako Ono

「Frosted Glass」は、東京・江東区にあるガラス工場を見学したことがきっかけとなった。ガラスを素材に何をつくるかを考えているうち、子どもの頃に見かけた瓶ビールを飲むときに飲食店で出されていた小グラスを思い出した。「今ではあまり見かけなくなりましたが、祖父はそのグラスでよくビールを飲んでいました。懐かしさを覚えるとともに、そのサイズ感や直線的なフォルムは、現代の暮らしのなかで新鮮な印象を与えるのではないかと思いました」と横田は語る。

同じ時期に、偶然、理化学用ガラスを扱う会社、関谷理化と出会い、その小グラスと同じくらいのサイズのものがあることを知った。耐熱性や耐久性といった機能性も高いことから、理化学ガラスを使用した日常で使うコップのデザインを考えた。製作は、先のガラス工場に依頼。カットして熱を加えて成形し、サンドブラストを施して不透明でざらっとした手触り感をもたせた。ひとつひとつ手作業で製作するため、若干、形状にばらつきが出るが、むしろ人の手の跡が伝わり面白いと感じた。それが最初に個人の作品として手がけた「Frosted Glass」である。

▲「AGGREGATED BOXES」 鯖江市の漆器メーカーのセキサカが運営するセレクトショップ「ataW」で展示発表された。Photo by Kyoko Kataoka

人との出会いやつながりから生まれる

その後、縁があって、鯖江市、越前市、越前町が毎年、共同で開催しているイベント「RENEW(リニュー)」に参加し、展示作品を手がけた。このイベントは、地場産業の素材や技術などを紹介することがテーマだ。

福井県は、漆器や手すきの和紙、刃物など、多彩な地場産業を有する。いろいろな工場を見て回るなかで、横田が最も興味を惹かれたのは、鯖江市にある井上徳木工の高い技術力だった。同社では、越前漆器の「角物」と呼ばれる箱ものを中心とした木地製作や、その技術を生かした木工加工品を得意とする。横田は普段は仕上げに漆が塗られ、隠れてしまう技術を見せたいと考えた。スチール製フレームの存在感を極力なくし、そこに高い精度で製作された箱を組み込み、あらゆる角度からカットや組みの技術を見えるようにした。また、箱が複数集まることで面ができてテーブルになり、ディスプレイ用の収納家具にもなる。それが「AGGREGATES BOXES(箱の集合体)」である。

▲「Woods Box」AJOY タモやケヤキ、カツラ、米ヒバ、ホオなどの端材を使用。Photo by Nanako Ono

翌年も、井上徳木工とRENEWで発表するための作品を製作。工場内に積まれていた、節やひび割れのある部材が着想の源になった。通常は廃棄されてしまうものだが、横田はそこに美しさを感じたという。そして、これらの部材を組み合わせて、ひとつひとつ表情が異なる箱「Woods Box」をデザイン。購入者にも、自分が好きなものを選ぶ楽しさをもたらした。

最初のうちは横田が端材の組み合わせをディレクションしていたが、現在は職人の手に委ねている。その日に出る端材は異なり、選んで組み合わせる職人のセンスも加わることで、量産では味わえない偶発的な面白さが加わったという。「職人と対話したりお酒を酌み交わしたりしながら関係性を深めていき、一緒にものづくりをしていく。人との出会いやつながりを大切にしながら、そういう人間味あふれる地道なものづくりを今後もしていきたいと考えています」。

▲「Small Box for RENEW Workshop」 2019年のRENEWの井上徳木工で行われた工作ワークショップのためにデザインを考えた。Photo by Nanako Ono

視点を変えたデザインの提案

「Frosted Glass」と「Woods Box」は、「AJOY(アヨイ)」というブランド名を冠している。これらは自身がいいと思う個の価値観を基準にしてつくる実験的なスタディであり、小ロット生産で、インテリアショップなどで販売もしてもらっている。量産と手仕事、製品と作品の間に位置するようなものだ。

「グラスの形に出る差異、木の箱の節やひび割れは、ある価値基準においては良しとされず、廃棄されたり、廃れてしまったりするものです。そういう今までNGとされてきたものも視点を少しずらすことで、その物が面白く見えたり、美しく感じられたりする、価値観の転換のようなことをしたいと考えています。それは自分の価値観を押し付けるものではなく、ちょっとした気づきの提案として人に伝えられたらと思っています」。

▲「○△□Stool」 _Fotブランドの代表作「○△□ヒール」をモチーフにデザインした、展示会のための試着用スツール。

「AJOY」は、言い換えれば、自身のデザインに対する考え方や価値観を社会に投げかけるもの。どのように人々に受け止められるのか反応を知りたいという思いのもと、2020年2月に展示会で初めて「Frosted Glass」と「Woods Box」を発表した。

「ひとつひとつ異なるので、自分の気に入ったものを探して購入される方が多かったのが印象的でした。今はデザイン製品よりも作家がつくったような作品のほうが売れると聞きますが、それを実際に肌で感じることもできました。自分の生活に必要かどうか、じっくり考える方も多く、もう少し用途を明確にしたほうがいいかなど、学ぶべきことが多い体験となりました」。今後もこうした展示会に参加して作品を発表していきたいとのことだ。

▲ジュエリーブランド「januka」によるリミテッドショップの空間デザイン。1本の棒を丸く曲げて形づくる新作「Round」に合わせて、什器も1枚の紙を円柱状に丸めて成形した。

横田が今、注目しているのは、地方の倉庫や工場を改装したユニークな建物で、独自のスタイルを大切にしながらお店を運営する人々の動きだ。オーナーは横田と同世代が多く、その数も増えていて、地場産業の素材や技術を生かしたものづくりのプロデュースも展開している。「刺激になります。東京でしかできないこともありますが、地方でしかできないこともたくさんある。東京にいるだけではだめだと感じています。そういう世の中の流れや、何かの一助になるようなことも含めて、もっと意識を広げていきたいと考えています」。

そうした地方で店を構える人のように、近年は何ものにも染まらずに独自性をもった若い世代が多く登場している。自身のデザインのかたちを模索する横田も、今後どのような新しいデザインを生み出していくのか、楽しみにしたい。End


横田純一郎(よこた・じゅんいちろう)/プロダクト&インダストリアルデザイナー。1984年愛媛県生まれ。専修学校KIDI Parsonsを卒業後、オランダのデザインアカデミー・アイントホーフェンに留学。その後、デザインオフィスnendo、国内外のメーカーを経て、2020年に独立し、JUNICHIRO YOKOTA STUDIOを設立。家具や什器、空間構成などのデザインを展開するほか、実験的なものづくりとして「AJOY(アヨイ)」ブランドの作品も発表している。