当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。
“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。
今日のトピック
イタリアのコスチュームデザイナー、ベロニカ・トッピーノ氏(Veronica Toppino)は、ソーシャル・ディスタンシングのために直径約90cmの帽子「Structure Hat」を考案しました。
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「Structure Hat」は、ファッション性と同時に、人と人が安全な距離を保つためのツールとしても機能します。男性用は、粗く削られたアルミの骨組みがむき出しのデザイン、女性用は骨組みがピンク色、ツバの部分はシースルーのネット生地で覆われています。
トッピーノ氏は、18世紀にイギリスやフランスで流行した、花や鳥の羽などで豪華に装飾された大きな帽子からインスピレーションを得たそうです。
そこで、この提案のポイントであるつばのサイズに着目し、世界にはどのような種類の帽子があるか調べてみました。小さい順に見てみると、まず「男はつらいよ」でお馴染みの寅さんが被っていた帽子、ソフト・ハット。携帯に便利で日本中を旅した寅さんの愛用品でした。アメリカの西部開拓時代、カウボーイの代名詞だったウエスタンハットは、左右のつばが反り上がり、頭部の前後を太陽光から守る形状です。
養蜂家の帽子は、つばから下がるメッシュ生地が顔全体を覆い蜂から身を守ります。映画「ティファニーで朝食を」のなかでオードリー・ヘップバーンが被っていた黒い帽子は、通称セレブ帽。つばは大きく顔全体からデコルテにかけて日差しを遮り、優雅さを演出します。韓国の時代劇に登場するのは、位の高い男性が被る笠子帽(カッ)。広いつばは、髷を保護するためのものだそうです。
メキシコの民族衣装に合わせて被ることが多いソンブレロ・デ・チャロ。麦わらやフェルトでつくられており、頭3つ分ほどあるつばが、南米の強烈な日差しから肌を守ります。時代劇で目にする公家や武家の女性が旅するときに被るのは、市女笠(いちめがさ)。大きなつばから、上半身が隠れるほどの長い布が垂れ下がっています。雨風を凌ぐと同時に、高貴な女性が素顔を晒さないという目的もあったのかもしれません。
帽子は、いつの時代も機能性とファッション性を兼ね備えたものでした。それぞれの形には理由があり、そこから地域の特性や時代背景を知ることができます。「Structure Hat」が18世紀の帽子にヒントを得たように、養蜂家の帽子や市女笠あたりを参考に、コロナウイルスから身を守るための新たな機能をもつ帽子が生まれるかもしれません。
Veronica Toppino
イタリアとイギリスで活動するコスチュームデザイナー。