パリ市内全域に消毒液を配備
バス停や公衆トイレには2000個の
ディスペンサーを設置

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

パリ市は、コロナウイルス感染予防のため市内全域にアルコール消毒液を配備する施策を実施しました。フランス国鉄(SNCF)と市内およびその周辺の公共機関を運営するパリ交通公団(RATP)に協力を依頼。メトロの駅にも設置されました。また、保育園やスポーツ施設、図書館など公共施設の入り口や、アルコールに弱い肌をもつ幼い子供用に、水場がある公共スペースには石鹸も置かれました。

この施策を受け、パリ市内のバス停を管理しているフランスの広告代理店JCDecauxは、5月からバス停や公衆トイレをはじめとした公共スペースに約2000個の消毒液のディスペンサーを配備。デザインは、フランスのデザイナー、パトリック・ジュアン(Patrick Jouin)さんが手がけました。

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このディスペンサーの容量は5リットル。約3000回使用でき、1日に100人がプッシュするとしたら一カ月間継続して使用できる計算です。JCDecauxの管理担当チームが定期的に消毒液を補充します。ノズルに付いているボタンを手の甲で押すと消毒液がでる仕組みで、できる限り指で触れないように設計されています。バスの利用者や歩行者が見つけやすくするため歩道側に設置され、パリ市のバス停やメトロのサインに見られるブルーと白を基調とした清潔感のある配色です。ディスペンサーの脇に貼ってある使い方を説明するグラフィックもイラストで簡潔にまとめられており、今後海外からの観光客が利用することになっても使い方がわかるようになっています。

まず、屋外にこれだけの規模で消毒液が配備されたことが驚きです。施設の出入り口に置いてあるのはよく見かけますが、今回の施策では屋外に設置することで、街全体にタッチポイントを増やしました。外のウイルスを屋内に持ち込まない守りの姿勢から、屋外でも除菌するというさらに積極的な対策に踏み出したような印象です。

この発想には目から鱗が落ちました。消毒液を外に設置した背景には、フランスの衛生観念が関係するのかも?と感じました。以前私の家に遊びにきたスイスの友人が外に出るとき、裸足のままスッと外に出て行ったことがありました。外国人が日本の住宅に入る時に、無意識に靴を履いたまま家に入る光景を皆さんも見たことがあるかと思います。その逆パターンでした。家の内と外で衛生に対する意識の違いがそれほど差がないからこそ、この施策が発想されたのかもしれません。

コロナウイルスは多くの場合、家の外で感染するものです。街中でこまめに除菌できる仕組みが増えれば、室内だけで除菌するだけよりも、格段に感染リスクが減る可能性があります。タッチポイントは、バス停、公衆トイレに加え、信号機や電柱にも追加できそうです。
End

Patrick Jouin
パリを拠点とする工業デザイナー。Cassina、Kartell、Alessiなどのインテリアを手がける。

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。