伊の建築家がコロナの犠牲者を追悼
するためサン・シーロ・スタジアムに
3万5000本の檜を植える計画を提案

当たり前と思っていた日常を一変させてしまった新型コロナウイルスの感染。この世界的危機と言える状況下では、多くの情報が行き交い、あっという間に現在が過去になっていくような変化の激しい日々が続いています。

“過去を見つめることから未来をつくり出す”ことを実践してきたクリエイティブユニットSPREADは、コロナ禍において行動を起こしたクリエイティブな活動をリサーチし、未来を考えるヒントを探ります。本ウェブでは、SPREADが特に注目するものを毎日1本ずつ紹介していきます。

今日のトピック

イタリアの建築家、アンジェロ・レナさん(Angelo Renna)は、解体が決まっているサン・シーロ・スタジアムにコロナウイルスによって亡くなった方と同じ数の3万5000本の檜を植えて追悼する計画「san siro 2.0 – monumento per la vita」を提案しました。

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「san siro 2.0 – monumento per la vita」の舞台であるサン・シーロ・スタジアムは、ミラノ市が管理する世界でもっとも有名なサッカースタジアムのひとつです。オープンしたのは1926年。その後1935年、55年、90年と改修工事が行われ、85,700人を収容するほどの規模になりました。現在はセリエAやACミランのホームスタジアムとして使用されています。この提案ではスタンド部分全体に檜を植え、天井を取り払うことで自然光と雨が木々に降り注ぐ環境をつくります。フィールド部分の豊かな緑地には雨水をためることも想定されており、動物たちが棲むための場所としての機能も兼ねています。

実はサン・シーロ・スタジアムは、老朽化のため解体することが2019年に決定し、2024年に新スタジアム完成を目指しているそうです。ミラノ市にこの決定を変えてもらうことは至難の技かもしれませんが、解体にかかる費用で「san siro 2.0 – monumento per la vita」を実現することは可能だとレナさんは考えているようです。つまり、この提案は、コロナの犠牲者を追悼すると同時に、イタリアサッカー界の聖地を歴史的建造物としてモニュメント化するための方策でもあるのでしょう。

コロナウイルスのパンデミックは、現在も続いています。この世界規模の歴史的な惨禍を忘れないためにモニュメントをつくること自体はあってしかるべきだとは思います。ただ、まだ収束していないタイミングでコロナウイルスの犠牲者の方を追悼するのは早いのではないかと感じました。

モニュメントやスタジアムなどの大規模な施設は多くの人に来てもらうためのものです。しかし、いまはそれができず、今後もコロナウイルスが収束するまでは、難しいかもしれません。このような施設をポストコロナの世界でどのように機能させていくべきか。そもそもなぜ必要なのかについて、いま一度アップデートしなければいけない。そう考えさせられた提案です。End

Angelo Renna
フィレンツェ出身の建築家。建築に自然の要素を取り入れる手法に注力している

▲本プロジェクトをレーダーチャードで示しました。6つの属性のうち、成果物のデザイン性を「Creativity」で評価しています。「Pure & Bold」は目的に対して一途な強さを感じるか、やりきっているかという、SPREADが自らの仕事において大切にしている視点です。