東北・山形での経験が活動のベースに。
柴山修平の考える自然との関わりから生まれるデザイン

▲プロダクトレーベル「山の形」。Photo by Madoka Akiyama

柴山修平は山形の天童木工でデザイナーとして6年間従事し、そのときの仕事や暮らしの体験が自身の活動のベースになったという。現在は東京を拠点に、さまざまな地域の空間設計や家具、プロダクトのデザインに携わっている。空間づくりに対する考えや、地域のものづくりの魅力についてなど、新作も含めて話を聞いた。

▲「コシェルチェア」天童木工。取説やパッケージデザインも自作した。

道具としての家具から空間を考える

柴山は1984年に長野で生まれ、三重の工業高校で建築を学び、名古屋の名城大学建築学科に進んだ。大学では当時、新築をつくる必要性について議論が盛んに行われていたが、柴山が興味を抱いていたのは、建築空間のなかでの人の振る舞いや、空間をつくる行為そのものだった。「例えば、ほら穴に家具を持ち込むだけで、そこに居心地のよい空間をつくることができます。そういう道具としての家具から空間設計を考えてみたいと思っていました」。

それにはまず家具について知ること、その源流を辿ることが必要だと考え、頭に浮かんだのが歴史と伝統のある日本有数の家具メーカー、天童木工だった。東海地方で生まれ育った柴山にとって、東北の山形という未知の地域への憧れもあった。幸運にも、ちょうど商品開発部の募集があったため、大学を卒業後、2008年からデザイナーとして従事することになった。

▲東北芸術工科大学建築・環境デザイン学科と協働した、JR山形駅の待合室のプロジェクトでデザインしたベンチ。

天童木工での仕事、山形の暮らし

工場の製作現場は想像以上に興味深く、材料づくりから家具になるまでの一連の作業工程、そして、職人の長年培われてきた高い技術力に魅せられた。この面白さをいろいろな人に味わってもらいたいと思い、当時はまだあまり行われていなかった職人と一緒にスツールをつくる工場体験ツアーを企画し開催した。

また、在職中に2つの家具をデザインし、それらにも同じ想いを込めた。ひとつは、購入者に自分の手でつくる喜びと、その過程で職人の技を感じてもらうことをテーマに、発案者の結城純と開発した組み立て式の「コシェルチェア」。もうひとつは、JR山形駅の待合室のリニューアルプロジェクトにおいて、天童木工が独自に開発した針葉樹(杉)の成形合板を使って製作したベンチだ。

▲以下、3点「山の形」より。島田刃物製作所と協働して製作した「くだものナイフ」。四季折々の果物が食卓に並ぶ、山形の暮らしになくてはならないもののひとつ。Photo by Madoka Akiyama

▲穂積繊維工業と協働した「麻のラグ」。麻の硬さや色合いを生かし、毛足の高さにリズムを付けた踏み心地の良さが特徴。Photo by Madoka Akiyama

天童木工での学びはもとより、山形での暮らしは、柴山の価値観を大きく変えた。

「山形には、岩や木を御神体、御神木として手を合わせる山岳信仰が今も残っています。山で採れた山菜やキノコをいただき、山が蓄えた水を日々の生活や農作業で利用するなど、自然の恩恵を受けた暮らしが当たり前のように行われていて、暮らしと仕事の境がありません。この地に暮らすうちに、地球の資源を身近に感じ、人は自然のなかで生かされているということに気づかされ、自分が山形の自然の一部になれたような瞬間もありました。今もどこにいても、その感覚を大切にして活動しています」。

▲乾麺やさくらんぼなど、高級食材を収める桐箱をつくる有限会社吉田と協働した「桐のトレイ」。Photo by Madoka Akiyama

地域のものづくりの魅力とは

自身が体験した東北・山形の魅力をものづくりの視点から伝えたいという想いのもと、2014年に山形出身のデザイナー、須藤修とプロダクトレーベル「山の形」を立ち上げた。

山形は、米や牛肉、さくらんぼなどの果物をはじめ、鋳物、打刃物、絨毯、陶磁器といった多様な産業に支えられている。「山の形」では、そうした地域の素材や技術を使って、地元の職人や作家と協働して暮らしの道具を製作している。地域のものづくりの魅力は、「その物に人や暮らし、自然観がにじみ出るところ」だと言う。

「その地域の気候風土で育まれてきたものには、先達の知恵が詰まっていて暮らしを豊かにしてくれます。言い換えれば、風土や文化は人が暮らす場に密接に関わり、それが空間をつくるうえでとても重要だということです」。

▲2020年のRENEWで発表した、手漉き和紙をつくる滝製紙所と協働によるテラゾータイルの表情をもつ「pebble」。

柴山は次のステップに移行する時期だと感じ、「山の形」の活動を継続しながら、2014年に東京に行くことに決めた。その後、「山の形」の活動を通して多彩な人とのつながりが生まれ、福井県鯖江市のRENEW(https://renew-fukui.com)やオランダ・アムステルダムのMono Japanなどにも出展したことで、さらに世界が広がっていった。

▲「三茶WORK」内の「まちの茶屋」。茶をモチーフに空間設計や色彩を考えた。Photo by Daisuke Shima

▲「三茶WORK」内のワークスペース。会議室やPhoneブースも併設されている。Photo by Daisuke Shima

地域の魅力を伝える多彩な仕事

東京に来てから、空間設計を中心に多様な地域の仕事に取り組んでいる。2017年には兵庫のクラテラスたつの内の醤油蔵を改装したローカルフードを販売するアンテナショップのデザインを、2019年には東急プラザ渋谷店内の京都のアパレルショップ片山文三郎商店の絞りの生地を用いて空間設計を考えた。東京の地域の魅力を掘り起こすプロジェクトでは、2019年にコワーキングスペース三茶WORKのインテリアと家具を担当。そのほかにもさまざまなプロジェクトが進行中だ。


▲「Curl」nuskool。琺瑯の口縁部を外に巻く加工を肥大化させ、サイクロイド曲線をモチーフにデザインした。Photo by Masaaki Inoue, Styling by Yumi Nakata, Cooperation: Artek, Yama no Katachi(下写真のみ)

プロダクトでは、ペンダントランプ「Curl(カール)」をデザインし、メゾン&オブジェ2020でお披露目された。メトロクスが若手デザイナーと共創し、未来のマスターピースとなるべき製品を開発するブランドnuskool(ヌースクール)で製作したものだ。

このフォルムは、高校時代に過ごした三重の伊勢神宮を再訪した際にヒントを得て、神社仏閣の屋根に用いられるサイクロイド曲線(雨水が落ちるのに最適な曲線)をモチーフにデザインを考えた。素材には、衰退の危機にある産業の一助になればという思いから琺瑯を選んだ。琺瑯加工の工場は三重にもあったが、このプロジェクトがスタートしてまもなく廃業に追い込まれてしまったそうだ。「もっと早く何かできなかっただろうかという悔しさと、今後、三重の地域にも関わりたいという想いが強くなりました」と柴山は語る。

▲愛知の魅力を発信することをテーマに置いた、2021年に開業した名古屋の宿泊施設「セブンストーリーズ」。写真は、柴山が空間設計を手がけた木を基調にした部屋。Photo by ToLoLo studio

自分がこれまで過ごした地域のことも改めて考えるようになったのは、やはり山形での体験が大きいという。「山形での暮らしを経験してから、自然や地域、人など周辺との共生について考えるようになり、それは自分が生涯かけて取り組むことだと思うようになりました。僕はプロダクトデザイナーでも建築家でもないポジションにいて、より広い分野で人や環境と関わることができるのが強みでもあるので、自分ひとりがそれを目指すだけでなく、社会全体でどう動くかということを今後も考えていきたいと思っています」。


▲東京・北青山の街づくりプロジェクトにより2020年に誕生した「ののあおやま」の一環で設計した車両型のカフェスタンド「森のとうばん」。

自らが地域の拠点となって場を育てていく

昨年、事務所名に「zelt(ツェルト)」と名付けた。ドイツ語でテントという意味で、最小限の居住空間をつくるためのミニマルな道具という、自身の活動を表すのに最適な言葉だった。現在は東京・北千住に同じ名前のショップを準備中で、夏頃のオープンを予定している。そこでは本の販売のほか、自作の物を発表する場として、場をもつことによって生まれる人とのつながりなど、自らが地域の拠点となって、いろいろな可能性が広がる空間に育てていきたいという。今後のzeltのショップの詳細は、ウェブやSNSをご覧ください。End


柴山修平(しばやま・しゅうへい)/空間・プロダクトデザイナー。1984年長野県生まれ。名城大学理工学部建築学科卒業。2008年から天童木工でデザイナーとして活動後、2014年に山形のプロダクトレーベル「山の形」を設立。家具・インテリアデザインを中心に活動の幅を広げ、2020年zelt(ツェルト)を設立。空間設計を手がけたシェアオフィス「三茶WORK」の運営にも携わっている。2020年〜桑沢デザイン研究所非常勤講師。