世界最大のモバイル通信展示会「MWC2021」現地レポート
問われるこれからの国際展示会の在り方

2021年6月28日〜7月1日の4日間にかけて、世界最大のモバイル及び通信に関する展示会、モバイルワールドコングレス(以下、MWC)がスペイン・バルセロナで開催された。GSMA(世界最大級の通信関連事業者団体)によって開催されるMWCは例年2月末の開催だが、昨年はCOVID-19の影響を受けて中止になっており、今回実に1年半ぶりの開催となった。

約165の国及び地域の代表者が参加し、出展数は1,000以上、総勢20,000人以上が来場。また今年はフィジカルとバーチャルのハイブリッド形式となっており、オンラインでの視聴者数は約50万人、かつ1,000を超える世界中の放送局でも中継された。例年と異なったMWCの様子を写真を交えながらお届けしたい。

会場でのCOVID-19対策

COVID-19の感染対策として、来場者は事前にダウンロードしたアプリの情報に基づき、会場外に設置された簡易のCOVIDテストの受診が必須となっていた。

個別ブースでテストを受けてから約20分で検査結果がアプリとSMSに届き、無事陰性だった場合、即座に検査結果がアプリの個人情報と紐付き、以降72時間有効の入場用QRコードが付与される仕組みになっている。

カタルーニャ州の保健当局との連携により、相当数の個別ブースと検査スタッフが配置されており、オペレーションはスムーズであった。また入場可能なエリアやアクティビティなど、すべてのステータスがアプリで管理されているため、煩わしい手続きも比較的少なくスムーズに入場することができた。

無論、会場内は常にマスク着用が必須であり、着用可能なマスクの種類もFFP2以上の基準のものと厳格に指定されていた。至るところにアルコール消毒が設置されていたほか、会場屋内での飲食はほぼ提供を禁止されており、トークセッションも着席かつ人数制限が設けられているなど、感染対策は徹底されていたと感じた。続いて、会場内の様子を見てみたい。

「5G」がキーワードとなった展示会場

会場は大きく3つのホールで構成されており、どのホールも主にはモバイル関連の大企業(例:Vodafone、Huaweiなど)、クラウドやネットワーク関連のサービスやソリューションを提供する企業(例:Accenture、TelcoDRなど)、そして各国のパビリオンが出展していた。

モバイル企業のブースでは多くが5Gに対応した最新のスマートフォンやタブレットを発表し、デジタルソリューションを提供する企業では、具体的な事例に基づくコンセプトを展開するなど、多くの出展企業が「5G」をキーワードに掲げていた今回のMWC。タグボート同士のリアルタイム通信による港の効率化を提案する「スマートポート」構想や、今回オンライン出展したNTTドコモの展示でも話題になっていた5Gクロスボーダー基盤の活用による国境を超えた遠隔作業支援ソリューションなどが見られた。

キーノート(ゲストスピーカーによる基調講演)でも同様に、5G以降のデジタル世界のあり方や、ポストCOVID−19の世界における次世代テクノロジーの展望に関するトピックが多く見られた。なお、今回はオンライン/オフラインのハイブリッド形式での開催であったため講演が世界に同時配信されており、現地入りが叶わなかった参加者や参加企業からのアクセスを集めていたこともコロナ禍の展示会の特徴と言えるだろう。

▲人気を博したイーロン・マスク氏の基調講演。自身の衛星事業「Starlink」について語った。

以下では、特に人を集めていた個別のブース事例を取り上げていきたいと思う。

「Cloud City」を掲げるTelcoDR社

企業ブースで最も多く人を集めていたのがTelcoDR社だ。ひときわ大きなブースを出展し、Cloud Cityと銘打って、出展空間全体をひとつの小さな仮想都市に見立てていた。

受付には簡単な会場案内用のロボットが設置されており、VRが体験できるコーナーや、写真を3Dプリンターによって読み込んでラテアートにできるコーヒースタンド、さらには人数限定の音楽ライブまで、趣向を凝らしたキャッチーな仕掛けが多く用意されていた。3Dプリンターのコーヒースタンドでは、同行したデザイナーも強い興味を示しており、写真の再現度に驚いていた(なお、味は見た目に反して美味だった)。

筆者にとって最も興味深かったのは、リモートを前提とした商談スペースであった。簡易的に仕切られた各ブースに、TelcoDR社がパートナーを組むさまざまな企業のプレゼンテーションがモニターに表示されており、来場者は自由に閲覧することができる。そして、もし興味がある企業があれば、その場でTelcoDR社の提供する会議ツールを使うことで、リアルタイムで企業担当者とオンライン商談が可能な仕組みになっている。

多くの企業がフィジカルでの出展を控えるなかで、「いかに来場者と生の商談を発生させるか」という課題に対し自社の製品をただ並べることにとどまらず、商談に必要なソリューションをクラウドをベースにして幅広く取り揃えているということを強くアピールするという点において、効果的な展示構成だと感じた。

▲会場全体が近未来的都市のようなTelcoDR社のCloud City。

MWCで注目を集めたスタートアップカンファレンス

ホール2ではMWCの併催カンファレンスとして、「4YFN(4 Years From Now)」も開催されていた。「4年後に大きな成長が期待できるスタートアップ」というコンセプトのもと、スタートアップと投資家や企業を繋げ、新しいビジネスやベンチャーの立ち上げを支援することを目的に、今回もさまざまなスタートアップが集結。MWCでも人気があり、今回で7回目の開催となった。

この4YFNは、会場全体で最も人を集めていたセクションであった。会場の複数箇所で同時多発的に小規模なピッチが行われていたほか、さまざまな業界やテーマごとの有識者による講演からアクセラレーターやゲストの投資家による講義、ワークショップまで幅広く行われていた。

▲会場の各所で行われていたピッチの様子。

個別ブースでもバラエティに富んだスタートアップが数多く出展。筆者に同行したデザイナーは、スタートアップにデザイナーとしてどう関わる可能性があるかを見据えつつ、創業者らと情報交換を行なっていた。スタートアップにとっては顧客の開拓や認知度の向上だけでなく、協業できるパートナーや人材の発掘という側面もあったように感じた。

スタートアップの傾向としてはモバイルアプリが多かったものの、領域はバラエティに富んでおり、AR/VR、IoTといったMWCと親和性のある領域のみならず、ヘルスケアテック(オンライン診療を前提とする遠隔医療)、間接業務の効率化系(ノーコードツールや契約書発行の自動化等)や資産管理などのフィンテックのスタートアップの出展も目立った。

▲積極的に意見交換する来場者と出展者。

さらに、旅行やエンターテイメント領域のスタートアップも数は少ないながら、ちらほらと出展しており、COVID−19後の需要回復を見据えて、虎視眈々とビジネスチャンスを狙っていることが窺えた。そのほかにも、「Barcelona Activa」や「Tech Barcelona」などバルセロナのなかでも知名度のあるスタートアップ支援団体が数多く出展していた。

この1年半で大きく停滞したビジネス環境に対して、さまざまなスタートアップがユニークなやり方で打破しようとする熱量に、来場者の多くが強く惹かれていたように感じた。

MWC×バルセロナが見せた展示会の可能性

会場内のサイネージには、「Welcome Back」や「Reconnect」などの暖かいメッセージが並んでおり、フィジカルでの開催実現に尽力したであろう運営の思いが強く感じられた。GSMAのCEOであるジョン・ホフマン氏は公式発表のなかで、フィジカルとバーチャルでの両立を試みた今回のMWCでは、過去の運営方法を抜本的に見直す必要があったことを認めている。

一方で、会場への来場者数は前回の半数以下に落ち込んだ。またGoogleやFacebook、Samsungなどの業界を代表する大手企業が、相次いでフィジカルでの出展を見送った。果たして今年の展示会は、失敗だったのだろうか。

バルセロナがあるカタルーニャ州のメディア「Catalan News」では今回のMWCを振り返り、来場者が少なかったことを認めつつも、バルセロナが大規模な国際イベントであるMWCを、安全に開催・運営する能力を持つ都市であると示すことができたと、大きく評価している。

またMWCで4YFNのカンファレンスが大きな盛り上がりを見せて、多くの来場者の関心を集めていたのは、バルセロナが多様なアクセラレーターやインキュベーションプログラム、また行政からのサポート環境を充実させている都市であり、スタートアップエコノミーの中核都市としての取り組みを継続的に続けていることと、無関係ではないだろう。

▲カタルーニャ州のブースにも多くのスタートアップが出展していた。

結果的に今年のMWCはバルセロナという都市が持つ機能と特色を例年よりも強く感じる、ローカル色の強いものだったと言えるだろう。と同時に、COVID−19以降の国際的な規模での展示会のあり方にも、大きな示唆を与えるものであったと感じた。多くのゲストスピーカーや出展企業、何よりも参加者が、もしもオンラインによる参加で一定の満足度と品質を得られるのだとしたら、何がフィジカルであるべきだろうか。また、それらとローカルをどううまく融合させることができるだろうか。

公式発表によれば、2022年は例年通り2月末に開催される予定である。半年後、COVID-19の状況が好転することを願うとともに、どのような展示会になるか楽しみにしたい。End