エイポック エイブル イッセイ ミヤケ のデザイナーに聞く 
ものづくりから見る素材の力

▲「Beyond the Material」宮前義之編のインタビュー動画ページに移動します。

Ultrasuede®(以下、ウルトラスエード)」をご存知ですか?素材メーカーの東レがつくるスエード調の人工皮革です。東レの代表ブランドとして、ウルトラスエードは1970年のデビュー以来、さまざまな業界のクリエイターに愛されてきました。

「素材の進化で、まだ見ぬクリエイションを共に。社会をより豊かに美しく。」というビジョンを掲げる背景には、東レがこれまでに育んできた“5つの価値観”が込められています。同ブランド創立50周年を超えるこの大きな節目に、その価値観を著名なクリエイターの声を通してひも解くプロジェクト「Beyond the Material」がスタート。その第1弾として、イッセイ ミヤケ のブランドの一つである A-POC ABLE ISSEY MIYAKE(以下、エイポック エイブル )のデザイナー・宮前義之(みやまえ・よしゆき)さんにお話を伺いました。

▲宮前義之(みやまえ・よしゆき)。
デザイナー。2011年から2019年まで ISSEY MIYAKE のデザイナーを務められました。2021年より、宮前さんが率いるエンジニアリングチームが手がける新ブランド A-POC ABLE ISSEY MIYAKE がスタート。作り手と受け手とのコミュニケーションを広げ、未来を織りなしていくブランドです。

デザイン×素材で身体を解放する

「今までに、布帛(ふはく/織物)やジャージなど、いろいろな素材を触ってきましたが、ウルトラスエードはそのどれとも違う初めての感覚でした」

そう語ってくれたのはデザイナーの宮前義之さんです。世界的にその名が知られる ISSEY MIYAKE にて長年デザインを手がけた宮前さんは、ご自身が担当したコレクションをこう振り返ります。

「印象に残っているのは2014年春夏コレクションです。ウルトラスエードに独自のコーティング加工を施したスカートやジャケットを発表しました」

▲「Beyond the Material」宮前義之編の動画より。

イッセイ ミヤケ の服作りは、既成の布からではなく1本の糸の研究からはじまります。オリジナルのテキスタイルを追求し、最新の繊維を積極的に取り入れてきました。

「服を着る人が“楽(らく)”で“楽(たの)しく”いられて、しかも体を解放するような素材は何か、ということを常に考えて僕は服を作ってきました。ウルトラスエードは、生地を裁断したところがほつれないので端を処理する必要がありません。断面も均一で美しいから切りっぱなしでよく、結果的に全体を軽く仕上げることができます。表現の幅が広がったと感じています」

さまざまな加工が可能なウルトラスエード

時代を超えて進化し続けるもの

イッセイ ミヤケ には、三宅一生(みやけ・いっせい)さんによって創業当時から貫かれている「一枚の布」という考え方があります。1998年に発表された「A-POC (エイポック)」(=A Piece Of Cloth)は、その思想をもとにした独自の生産プロセスで、常に新しいものづくりを探求してきました。

A-POC の更なる発展のために、昨年からスタートした エイポック エイブル は、2022年41日にサンダル「TYPE-Ⅲ」をリリースしました。日本の伝統的な草履から着想したもので、素材感の違うアッパーやソールとのコンビネーションに目を奪われます。

4月に登場したサンダル「TYPE-Ⅲ©︎ISSEY MIYAKE INC.

デザイナーとして、素材とプロセスにこだわってきた宮前さんはこう話します。

「履いた瞬間に温もりやフィット感の良さを感じていただけると思い、アッパー部分は『Ultrasuede®nu(以下、 ヌー)』を使いました」

最先端の繊維技術を駆使したウルトラスエードの特徴は、本革のスエードのように上質な素材感がありつつも、優れた耐久性を持ち、お手入れが簡単で軽いこと。一方、2015年からラインナップに加わったヌーは、本革の銀面(ぎんめん/動物の毛が生えていた側)のような美しい光沢感が特徴です。心地よい通気性を持つヌーは、植物由来PETやリサイクルPETを使ったサステナブルな素材でもあります。

本来、スエードとは、銀面の裏側をやすりがけして起毛させたものです。短い毛並みによる柔らかな風合いがありますが、天然素材であるがゆえに雨や汚れに弱く、デリケートな素材であります。ウルトラスエードコレクションは、本革の美しさを再現しながらそのデメリットを克服した、高い機能性を持つ素材に仕上げています。

▲革の銀面のような特徴を持つ「ヌー」

互いに高めあい、挑戦する未来

先を見通すことが難しいこの不安定な時代、世の中が大きな変換期を迎えるとともに、服作りにも新しいアプローチが求められていると宮前さんは語ります。

「これまで以上に異分野や異業種と協働しないと、新しい挑戦は難しいでしょう」

エイポック エイブル のブランドコンセプトには、これからのものづくりにおける協業の重要性を認識し、着る人さえも巻き込みながら未来に向けて発信していくことが表明されています。

「そうしてよい関係性を継続させながら、世界に向けて新しいものを提案していきたいです。ものづくりの面白いところは、人と人で刺激し合いながら新しい地平を拓くことですから。そんなことがこれからも続けられたら幸せです」

時代の最先端を走る イッセイ ミヤケ が生み出した A-POC の哲学は、時代を超えて常に新しい驚きをもたらしながら今に引き継がれてきました。同社と50年間歩んできたウルトラスエードは、そのクリエイションにこれからも貢献し得る素材として進化を続けています。

「東レは僕たちにはないノウハウを持っています。ずっと同じものを販売するのではなく、常にいろんな挑戦をされているのが印象深い。新しい素材の提案を見せていただくたび、僕らはまるで料理人のように『これを使ってどんなものを作ろうか』とわくわくするんです。僕たちの技術をウルトラスエードと掛け合わせることで、その可能性は無限に広がると感じています」

人と人、企業と企業が築き上げたかけがえのない時間こそが、東レを代表するブランド ウルトラスエードの証です。素材は、作り手と一緒に、これからも互いに高めあっていくのでしょう。End

インタビュー動画の完全版はこちらへ。

※Ultrasuede®及び ウルトラスエード®は、東レ株式会社の登録商標です。