想像力を拡張させる"不確かな色彩"の魅力

今やスクリーンを通して何でも購入できる時代です。時代とともに画像の高解像度化が進み料理や景色などをより美しく魅力的に伝えることができるようになりました。

色や質感をより鮮明に表現する技術が進歩する一方で、最近は“何色とハッキリ言えない色”がトレンドの1つとなっています。例えば、上図のように光の効果で別の色が浮き出て見えたり、角度によって色が変わって見えることで表情に幅をもたらすような色があります。

従来の先入観に捉われないボーダーレスな印象があり、シーンや気分に柔軟に馴染みやすい色としてイメージの幅を広げられることが1つの理由だと考えています。

パースペクティブな視点で、意外性のあるアイデアを発見・創造していく

大村雪乃さんの作品もその一つです。一見すると写真のような風景画に見えますが、近づくと文房具の「丸シール」であることが分かります。

▲《函館》(大村雪乃さん作)

▲文房具の丸シールで描かれた重なりと余白

個々は不透明な単色の点ですが、全体を見ると光が滲み、灯りが点滅すらしているような感覚を覚えました。物理的に境界が描かれておらず、大小の点で生まれる“余白”や、あえて歪んだラインが見る人の解釈の幅を広げていることがわかります。”点”で構成されている色の面白さや奥深さを再発見することができました。

現在、東京・六本木にある国立新美術館で開催中の、「ダミアン・ハースト 桜」展で展示されているダミアン・ハーストさんの桜も点で描かれており、動と静を感じられる作品です。隙間には陽や風が射し込み、今にも咲きそうな蕾のエネルギーや散っていく花弁の儚さを感じました。近づくと力強く留まっている点や予想外の色が存在しており、視点によるギャップを楽しむことができます。

▲桜(ダミアン・ハーストさん作)

 

▲アップで見た際のディティール

 

デジタルの世界に、可能な限り解像度を下げたグラフィックの「粗ドット」という面白い作品も見つけました。最低ドッド数で表現されたシンプルな配色や形のグラフィックには、一目で何か分かるものもあれば、やや考えるものもありました。デジタルネイティブにとって、鮮明でない部分を想像することが、新鮮で楽しいことなのかもしれません。

▲DOTOWNドッタウンより(前田デザイン室)

また、風景を8×8のドット絵に変換してくれるという「ピクセルミラー」が気になっています。天然水晶を伝統技術によって研磨したロジカルでアナログなアイテムで、覗き込んだ風景をアートでデジタルな世界に変換するというギャップが興味深いです。普段見ている高解像度な視点では認識できなかった思いがけない色や形が発見できるようになるかもしれません。

▲ピクセルミラー

解像度を下げて想像力を高めながら物事を眺めると、技術の発展に没頭していたことで使用する機会が減っていた素材や組み合わせの意外性に気づくことができるかもしれません。柔軟な解像度でアイデアを融合し、懐かしい素材や風合いの良さを創造していきたいと思います。End