東京ビジネスデザインアワード 商品化レポート
東屋ビジネスデザインプロジェクト
東屋 & 清水 覚

2020年度の東京ビジネスデザインアワード(TBDA)における優秀賞「東屋(azumaya)ビジネスデザインプロジェクト」は、100年以上の歴史を持つ革小物メーカー東屋(墨田区)の既存商品のリブランディングを提案。同社が抱える悩みを踏まえて、まずはマーケティングやブランドの観点での課題解決を図り、同アワードが掲げる「ビジネスデザイン」の好例として高く評価された。

TBDA参加のきっかけ

――1905年の創業です。当初から革小物を製造していたのでしょうか。

木戸麻貴(東屋 代表取締役) 創業当時の資料はあまり残っていないのですが、「ふくろものおろし」という手ぬぐいをご近所にお配りしていたことから、当初より革小物を含む袋物業を営んでいたようです。基本的にはOEMをやってきて、戦後10年くらいは3代目が、墨田区の地場産業であった豚革を使った商品をアメリカに輸出していたこともありました。3代目が亡くなってからは会社を守ることに精一杯でしたが、今から8年ほど前、父である五代目が自社ブランドとして柄合わせの「“粋” HOKUSAI」シリーズを、私も「まるあ柄」シリーズを展開し、それぞれ「東京TASK」や「すみだモダン2016」といった地域ブランドとして認証されてきました。

▲「“粋” HOKUSAI」シリーズ

▲「まるあ柄」シリーズ

――そうしたなか、TBDAに参加した理由を教えてください。

木戸 革小物というのは、世界中どこでも製造されている商品です。当社では生産拠点を海外に移すことなく、日本の職人が少しずつつくってきました。特に得意とする「柄合わせ」は、革に柄をプリントした後に裁断して、縁(へり)を返した内側まで柄を合わせるのですが、これは職人がすべての工程をひとりでやらないとできない高度な技術です。高齢化にともなう技術継承の課題もあり、なんとかこの技術を世に知らしめたいという思いで参加を決めました。

――新商品を開発したいという希望もあったのでしょうか。

木戸 もちろんそれも念頭にはありましたが、革小物ってすでにいろいろな方が取り組んでいて、アイデアも行き詰まっていたし、販路を開拓する難しさも理解していました。小さな会社が頑張って商品をつくったのはいいけれど、その後のブランディングに手が回らないなど、ほかにも現実的な悩みがあって。TBDAへの参加が何かのきっかけになればと考えたのです。

会社にとって本当に必要なこと

――一方、ビジネスデザイナーの清水 覚さんはこれまでにもTBDAで数々のプロジェクトを受賞に導いてきました。今回、なぜテーマ企業として東屋を選んだのでしょう。

清水 覚(オクノテ) 4年ほど前からTBDAに応募してきて、毎回さまざまな会社と知り合って、商品開発についてもやりがいを感じていました。だから、毎年TBDAの時期がくると「絶対応募しよう」と思っていたんです。2020年度のテーマ発表を見て、まず「革」という素材に取り組んだことがなかったので興味をもちました。あと、その直前に墨田区に越してきて、地元の企業としても関心がありました。

▲左:東屋 代表取締役 木戸麻貴さん;右:デザイナー 清水 覚さん

――アワードの流れとしては、まずデザイナーがテーマ企業に向けて第一次の提案書を出し、審査員がその内容に合わせてデザイナーと企業のマッチングを決定します。第一次提案はどのような内容だったのですか。

清水 まだこの段階では、東屋のことをよく知らなかったので、普通に新商品をつくってはどうかという提案をしました。

――マッチングの後、両者によるワークショップが行われました。

清水 はい、そのなかで企業が抱えている悩みなどをヒアリングする機会がありました。そこで木戸さんの話を詳しく聞いて、東屋ではすでにいろいろと取り組んではいるが、それを世の中に打ち出していくための人材やノウハウが足りていないということがわかってきました。もともとは「新しい商品をつくりましょう」と提案しましたが、それはいったん置いておいて、まずは、今ある商品をどう魅力的に見せていくかが大事ではないかと考えなおしたんです。

木戸 清水さんとのマッチング後、コロナ禍で直接会いにくい状況でしたが、ある日6時間くらい対面で話しました。とにかく、会社が抱えている悩みを洗いざらい打ち明けたんです。清水さんは、相手が何を求めているかをキャッチする力がすごい。じっくり話を聞いてくれたうえで、私たちがコストをかけて新しい商品をつくるよりも、今あるものをきちんと売っていくほうが会社のためになると見抜いてくれました。

――具体的にはどういったことが課題だと?

清水 マーケティングとブランディングですね。僕らはウェブ制作もやっていますので、まず、ウェブサイトでの発信の仕方を整理する余地があると考えました。すばらしい商品があるのに、それがどういうコンセプトなのかをうまく伝えきれていないのではと思ったんです。

木戸 私自身も、現状のブランドや商品の情報が煩雑になっていることは意識していました。つくりっぱなしで、カラーバリエーションも50色以上あって、在庫も残っていて。正直、どうしたらいいのかわからなくなっていました。

――アワードのプロセスの途中で「やっぱり商品開発をしない」という方針転換は、デザイナーとして大きな決断だったのではないでしょうか。

清水 確かに、「新しい商品をつくりたい」というデザイナーは多いと思います。僕の場合はアワードで賞を取るためではなく、その会社にとって必要なことをやるのが正しいと思っているので、ものづくりを押し付けるようなことはしたくなかったんです。

特別なことは何もしていない

――マッチング後、どのようにリブランディングを進めていったのでしょう。

清水 まずは、ブランドの整理をするところからはじめました。東屋全体として掲げる「made in RYOGOKU」という大きなブランドの下に、「”粋” HOKUSAI」や「まるあ柄」といった商品ブランドがあるので、その階層をわかりやすくしました。次に、各商品ブランドのコンセプトをまとめなおし、ECサイトではカテゴリーやブランドごとに商品を一覧できるようにしました。というわけで、特別なことは何もしていないんです(笑)。商品写真の背景を白でそろえたり、右肩にカラーバリエーションが見えるようにしたりと、ひとつひとつ本当に小さなことを詰めていきました。

木戸 いくつものブランドが並列になって、本当にグチャグチャだったんですよ(笑)。それをちゃんと階層化して、整理してくださいました。

――商品ブランドのCIなども刷新したのでしょうか。

清水 いえ、あくまで商品が主役なので、新しくロゴマークをつくったりはしませんでした。それよりも商品写真のほうが大事でしたね。撮影では、「”粋” HOKUSAI」や「まるあ柄」など既存の商品ロゴがしっかり前に出ているかに気を使いました。

木戸 スタジオに50点くらいの商品を持ち込んで、撮り方まで細かく教えていただいたんです。いくつかの商品を並べて撮るという発想もなかったのですが、それが現在のECサイトのトップページでもかなり効いています。

清水 もともと広告会社で、キービジュアルやメインビジュアルの制作に携わっていたので。その経験をもとに、今回は東屋さんらしい見え方を考えました。

▲東屋のECサイト:https://azumaya.stores.jp/

受賞するとは思わなかった

――デザインのコンペでありながら、商品もロゴマークもデザインしなかったのですね。

清水 今回は、むしろそのほうが大事な気がしました。新しい商品やロゴをつくるよりも、改善できることはいっぱいあると常々思っていて。中小企業の少ない人手でやっていて、やりたいけど、できていないことを外部のデザイナーがしっかりやってあげる。会社の土壌をならすことも、デザイナーだからできる仕事だと思うんです。

木戸 デザイナーと企業をマッチングする機会はほかにもありますが、結局「商品をつくって終わり」みたいなところが多いんです。清水さんはそうではなくて、もちろんデザインもできるけれど、売り方や売るところまでサポートすることが大事だ、という考え方。無敵の存在だなと思いますね。

▲高度の技術「柄合わせ」でつくられた「“粋” HOKUSAI」シリーズ

――最終審査では、審査員から「マッチングから短期間で、企業がなすべきことを実践し、小さな成功を積み重ねた」と高く評価され、優秀賞を受賞しました。

清水 正直いうと、受賞するとは思っていませんでした。他の応募者からは新商品の提案が多かったですし。そのなかで企業にとって必要なことを地道にやっていくということが評価されて嬉しかったですね。実際に、ウェブサイトとECサイトのリニューアル後、売り上げが2倍近くまで増えて、それも良かったです。

木戸 私たちにとっても、ありがたいということに尽きます。「こうすればもっと良くなる」ということを具体的に教えていただいたので、これから会社や商品のことをもっと大事に発信していこうと思っています。

10年後、20年後の姿を見据えて

――表彰式では審査員長から「TBDAではこういう提案を待っていた」との声もありました。まさにビジネスデザインが評価されたわけですね。

清水 デザイナーは基本的に受託や受注の産業なので、お客さんから言われてつくることに慣れています。ただ、このアワードではクライアント側も「どうしたらいいかわからない」ことが多く、デザイナーから提案しないといけないところがあります。そういう意味でTBDAは、デザイナーにとって、実践の経験を積める機会なんです。

――これからTBDAに参加を希望するデザイナーにアドバイスをお願いします。

清水 何を提案するにしても、商売全体をどうデザインしていくかという観点を忘れてはいけないと思います。というのも新商品開発とは、企業の中ではごく一部でしかないので。目先のことよりも、その会社にとって10年後、20年後のあるべき姿をデザインすることが大切ではないでしょうか。

――今後の展望について教えてください。

木戸 お客様の嗜好が細分化し、ものを売ることの難しさを痛感しているなか、皆さんにこの場所に来てもらって、革小物に触れていただく環境をつくれないかと考えています。社屋には、昨年7月にリニューアルした袋物博物館もありますし、例えば一階をカフェやお店にして、楽しく集まれるような場所をつくりたい。クリエイターやものづくりに関わる方々にも来てもらえたら、ここからいろいろなマッチングが生まれるかもしれないと夢見ています。

▲リニューアルされた袋物博物館

清水 それ、ぜひ一緒にやりましょう(笑)。もうひとつ、東屋はもともとBtoBの会社として多くのノベルティ(小ロットの記念品作品)の革製品の受注生産を手がけているので、このBtoC事業をきっかけに、BtoBのほうも知ってもらって、可能性が広がっていくといいですよね。

東屋(azumaya) https://azumaya.bz/

清水覚【オクノテ】  https://www.okunote.tokyo/

Azumaya ECサイト https://azumaya.stores.jp/

東京ビジネスデザインアワード
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

(写真:西田香織)