連載 図書館の逆襲—Libraries are not silent. 2  不只是図書館(台湾)Not Just Library

スマートフォンひとつあれば、今日必要な情報はすぐ手に入る……。新聞・本を読むこともめっきり減った。本なんて、図書館なんてもういらない。……なんて思っているあなた。ちょっと待って。 人類の歴史とともに歩んできたといわれる図書館は、このまま黙って絶えることはない。今静かに図書館の逆襲が始まっています。この連載では、そんな国内外の図書館の姿をおみせしましょう。第2回は台湾の台北、Not Just Library!

文字と書物に対する熱い想い

漢字、ひらがな、カタカナ、アルファベットが入り乱れる東京国際空港を出て、飛行機が台北に到着すると、いきなり漢字の海に飛び込んでしまったような気分になります。もちろん日本でも漢字の数は多いのですが、文字の画数がぐっと増すので、「漢字だ!」というインパクトが強いのでしょう。

台湾で使っている繁体字は日本の旧字体に似ているので、すぐに意味が理解できる文字が多く、海外にいながら安心感があります。サイン、看板、道路標識を眺めていても、頭で読む、というより目で見てすぐに理解できるので、スピーディーに判断できるためでしょうか。

また台北では、東京ではどんどん姿を消しつつある、本屋、文房具屋が多く、それもインディペンデントなものが少なくありません。デジタル先進国といわれる台湾ですが、同時にアナログな書物、文字に対するリスペクトがひじょうに高いことを感じずにはいられません。

さて、そんな台北にあるNot Just Libraryは、文字通り「これは只の図書館ではない」図書館です。

Photo by Lee, KuoMin

実は有料の図書館は図書館と呼べないのではないかというのが筆者の正直な感想ですが、こちらの図書館は、隣接する台湾設計館というミュージアムも入場可能で、50元(約240円)ということなのでここは多めに見ることにしたいと思います。

ミュージアムとこの図書館は、上の階にある国家デザイン研究機関である台湾設計研究院(TDRI)の一部です。そんなわけでデザイン専門書が充実しています。国内外のデザイン雑誌100冊以上、グラフィック、工業、建築、服飾、美術の書籍1万冊の蔵書がある図書館と聞けば、その点でもデザイン誌「AXIS」としては見逃すことはできません。

あった!「AXIS」。他にも日本のデザイン関連の本が充実している。

只者ではない図書館

さて、どのように、この図書館が、只の図書館ではないのでしょうか?不只是図書館と台湾設計館は、MRTの駅「市政府」、「國父記念館」の両方から歩いていける台北の中心地にある「松山文創園区」内にあります。

松山文創園区は日本統治時代の1937年にできた「台湾総督府専売局松山煙草工場」の跡地です。広さ6.6ヘクタール、従業員数1,200人にもなる大きな工場でした。1989年まで稼働していましたが、2011年から複合文化施設へ、そして工場内にある大浴場は図書館へと生まれ変わったのです。

リノベーションの設計は、ジョニー・チウ率いる JC.Architecture & Design が行いました。ジョニー・チウは「AXIS」215号(2022年2月号)に登場したことがありますが、建築・インテリアのほか、最近では膨湖フェリーや電車のデザインも手がけている、今、台湾でもっとも注目を集めている建築家です。

図書館と庭。屋内部分が212㎡、屋外部分は224㎡。画像提供 JC. Architecture & Design

不只是図書館のリノベーションのコンセプトは、とても明快です。昔の浴場をなるべくそのまま活かして、「本を浴びる」という目的のために設計されています。そのため、鉄筋やネジも増やさず、壁にあるひびやタイルにできた染みもそのままです。今となっては昭和初期のタイル自体が貴重。タイルの文様や、壁の色など、図書館自体がデザインの資料と言えるかもしれません。

床も壁も浴場のときのタイルがそのまま使われている。

不只是図書館での入浴方法

入り口に下駄箱があるので、まずそこで靴を脱ぎ、温泉旅館にあるような簡易なプラスチックのスリッパに履き替えます。のれんを潜ると右手に番台のような受付が。

建物内の廊下にいきなり小学校のような下駄箱が。銭湯と同じように入り口で靴を脱ぐ。

そしてここが、図書館入り口。のれんをくぐって狭いスロープをのぼる。photo by Lee, KuoMin

上がり端で、掛け湯の1冊と座布団を手にいざ入浴。

まずは軽く掛け湯をするように、目についた本を1冊手に取ります。座布団も持って、最初の部屋を見回しましょう。自分がいちばん落ち着けそうな場所を探して、階段状の湯船に深々を身を沈めます。しかし、ここで満足して終わりにしてはいけません。不只是図書館には露天風呂ならぬ、露天庭園が続いていて、本でほてった頭を冷やしてくれるのです。

本に浸かる最初の湯船。段状の下は落ち着くのか、本をじっくり読む人が多い。

屋外には、椅子やテーブルも置かれ、ここで読書することもできる。

そしてまだ続きがあります。階段を降りるとそこは煙草工場時代に女湯の湯船だった場所。従業員が仕事終わりにここで煙草の粉と汗を洗い落としたという、半円形の浴槽と洗い場が現れます。

今はいちばん奥まった場所にある静かな落ち着いた部屋ですが、天窓がついたグレイの壁を見ると、お湯が張られていたときにはさぞかし、明るい笑い声が木霊していたのではないかと思わせる広さと高さがあります。ここの大きな古い窓から眺める庭もまた格別です。

本棚のレイアウト、本の置き方、そして照明の明るさが絶妙。

台北に来たらぜひ湯あみするようにじっくりと本の中に身を沈め長湯を楽しんでください。
インターネット疲れからデドックスし、心と体がリラックスします。(文/AXIS 辻村亮子)End

不只是図書館 Not Just Library

場所
松山文創園区 No. 133號, Guangfu S Rd, Xinyi District, Taipei City, 台湾 110
ウェブサイト
https://www.tdri.org.tw/service-and-space/not-just-library/
電話
+886 2 2745 8199#322
開館時間
10:00 ~ 18:00
EMAIL
notjustlibrary@tdri.org.tw